本稿ではANARCHYとT-Pablowの歌詞を対比して解説しようと思います。
そのため順不同で歌詞を紹介することをご了承ください。
以下はMVの2分16秒から始まるT-Pablowのパートです。
2012年、T-Pablowは身体中のタトゥーを封印し「高校生ラップ選手権」で優勝しました。
その瞬間、川崎の一部の街で止まっていた時計が動き始めたのです。
腐った街で生まれた絆
千切る腐りかけた港町の錆びたChain
忘れはしねぇが未練はねぇ
興味がねぇリアルかフェイク
本物の味も知らねえような奴に
偽物とか言われ妬まれたとこで
シカトだけど結果が出てんのどっちだしっかり見な
時間がねぇから酔ってるまんまで仕掛けるだけ今
出典: Where We From feat. T-Pablow/作詞:ANARCHY, T-Pablow作曲:D BO¥$
川崎駅を東口で降り、クラブチッタ川崎からさらに東南方面に位置する川崎港。
そこは古くから工業地帯として移民を迎え入れてきた歴史を持つ街です。
BAD HOPが口を揃えて「日本一空気の悪い場所」と語る産業道路沿いの池上新町。
T-Pablowと双子の弟YZERRが貧困と共に少年時代を過ごした街です。
メンバーのBarkが育った在日朝鮮人の暮らす池上町とは目と鼻の先。
BAD HOPのMVに必ず登場する「池上コインランドリー」がその入り口です。
生粋の不良少年として“本職”を目指していたT-Pablowはラップをきっかけに生まれ変わります。
それは同様の家庭環境で育った“Chain Gang”であるBAD HOPの仲間たちも同様です。
しかし川崎周辺の不良文化独特のしがらみに今も彼らは囚われています。
嫉妬と共に振るわれる暴力、根も葉もない噂話の数々、そしてお金に群がるハイエナ...。
誰もがその名を知る“T”の方のパブロ
千切る腐りかけた港町の錆びたChain
ガキも知ってるPablow
Family BrotherそれとHoe
遊び戦争どっちも
命を賭けろ
出典: Where We From feat. T-Pablow/作詞:ANARCHY, T-Pablow作曲:D BO¥$
しかし彼らはそんな嫉妬に付き合うヒマはありません。
音楽で子どもたちに夢を与える存在になったからです。
今や若者にとって“パブロ”といって思い浮かぶのはピカソではありません。
“T”の方の“パブロ”、つまりT-Pablowです。
THE BLUE HEARTSにANARCHYが救われ、ANARCHYにBAD HOPが救われたように。
今やBAD HOPは川崎を飛び越え、日本全国の少年少女の英雄です。
ここで「家族」「兄弟」と並列して語られる“hoe”について解説しておきます。
“hoe”とは"whore"という単語から派生したスラングで“bitch”と同義で使用される言葉です。
貧困のため、自らの身体を売ることでしか生きる術を持たない人々。
そんな絶望の淵で生きる方にこそBAD HOPの音楽は響くのでしょう。
だから彼らはいつでも命がけでラップというゲームと向き合っているのです。
episode-3「喧嘩の極意」
暴走族からチーム「ANARCHY」へ
ココって時にだけ命はれ
勝ち上がる気なら俺を狙え
囲まれる前にとどめを刺せ
喧嘩売る前に己に勝て
世界戦争丸腰でやれ
テレビの前の子供に見せちゃえ
ゲトーボーイがお洒落して出かける
ファッションなんてただの見せかけ
出典: Where We From feat. T-Pablow/作詞:ANARCHY, T-Pablow作曲:D BO¥$
『Where We From feat. T-Pablow』に綴られた不良少年が避けて通れない道。
それはストリートファイト、つまり喧嘩の極意についての記述です。
ANARCHYという名前は元々は彼が中心となったチーム名でした。
そのメンバーは昔からの友人を筆頭に、暴走族時代の喧嘩相手、さらには後のRUFF NECKの面々...。
小学生時代から喧嘩に明け暮れていたANARCHYには闘いの美学がありました。
それは「何があっても絶対に引かないこと」です。
その結果としてANARCHYは全国各地の子どもたちに嘘偽りのない本当の姿を見せる力を手にします。
身体中に刻まれた色とりどりのタトゥーは今や最先端のファッションアイコンとなったのです。
俺に立ち向かうなら腹を決めろ!
口の聞きカに気をつけろ
タバコじゃなくケツに火をつけろ
向島から飛ばす自爆テロ
やるしかない胸が痛くても
ビビんじゃねーぞ酔いが冷めても
男なら声を聞かせてよ
死ぬにはいい日だ腹決めろ
ほら流れ弾に気をつけろ
出典: Where We From feat. T-Pablow/作詞:ANARCHY, T-Pablow作曲:D BO¥$
何十人に袋叩きにあってもやられたら必ず次の日にやり返す。
その姿勢はバトルの形が喧嘩からラップに変わった今でも変わりません。
どんなコラボ相手といえど容赦しない男、それがANARCHY。
納得のいく曲ができる強者としか組まないのもそれが理由です。
そして当然主役はANARCHYでなければなりません。
その相手が例えEXILEでも...。
「ラッパーという生き方に命をかける」
ANARCHYという名でラッパーとなった日にその覚悟を決めたのです。