「誰かになろうとすることは難しくなってゆくね
でもすべてうまくやれるよ
それも僕にはあまり意味のないことさ」
ここまで歌詞というものを難解にできる才能に驚きます。
難しい言葉を使っているわけではないのです。
それでも解釈にこれほど困る歌詞は他に考え難いでしょう。
ビートルズの他のメンバーでさえ意味が分からないのですから相当なものです。
現実で誰かを真似てみる、自分以外の他の誰かになろうとするのは難しくなっている。
それはその通りです。
しかしそれがうまくいくよといい添えるのが理解できません。
しかしもっと柔軟になって欲しいとジョンは願っているのかもしれません。
これくらいの問答が受け入れられないのなら意識の変革などもっと難しいのですから。
ジョンの願いは世界を違う角度から接触することで意識を少しでも変えてみて欲しいというものです。
その彼がでも君の試みは僕にとってはさして意味がないのだけれどねともいいます。
それは確かにその通りですが、こんな元も子もないことまでいわなくてもという気分になってしまう。
君は自分で楽しんでくれ、僕も自分で楽しむよということでしょうか。
この曲が発表されて以来、多くの人がこの難問にチャレンジします。
誰も明確な解釈を導き出せません。
問題がいつまでも解けないからこそ「Strawberry Fields」は永遠を担保されるのでしょう。
思考のレッスン
空想の自由を保証する
No one I think is in my tree
I mean it must be high or low
出典: Strawberry Fields Forever/作詞:Lennon=McCartney 作曲:Lennon=McCartney
「僕の木には誰もいないようだね
ということは上か下にいるに決まっている」
この前に曲冒頭のコーラス部分がリフレインされています。
繰り返しになるので訳出は割愛いたしました。
ただこの箇所はジョンによって君も「Strawberry Fields」に着いてきてと招待された後の風景です。
「Strawberry Fields」のもとになった「Strawberry Field(単数形)」という孤児院での想い出でしょうか。
少年だったジョンは庭にある木で遊んでいたのでしょう。
彼はこの木だけは僕のものだと決めていたのかもしれません。
登り下りをして遊んだ木の想い出。
今、遊びに行ったらあの木には誰もいないように見える。
でもそれは見かけだけのことに過ぎなくて本当のことを探ってみると木の上か下に誰かいる。
これも思考のレッスンです。
このレッスンは自由に操作可能なのでしょう。
空想する自由は誰にでも保証されているのですからもっともっと思考をチャレンジさせましょう。
ここまで頭を柔らかくしないととてもではないですがこの曲を楽しむことができなくなります。
思考実験のための仮想空間
That is you can't, you know, tune in, but it's all right
That is I think it's not too bad
出典: Strawberry Fields Forever/作詞:Lennon=McCartney 作曲:Lennon=McCartney
「君は合わせることができないことを分かっている でもそれで大丈夫さ
つまり僕が思うにそれほど悪くはないのさ」
君が合わせることができないのはこの「Strawberry Fields」での思考実験のすべてでしょう。
僕、つまりジョン専用の木さえあるこの「Strawberry Fields」では君は招待客で居心地が悪いかもしれません。
僕は君を連れてきた立場ですからこの場所の特殊性についてよく分かっています。
だから君がここでは波長を合わすことができないのも気に留めません。
困るのは君、つまり「Strawberry Fields」に招待された私たちリスナーなのです。
僕、つまりジョンのいうことがことごとく理解できません。
それも仕方ないのです。
実在する「Strawberry Field(単数形)」の様々な想い出に浸っているジョンの空想の世界。
この仮想空間「Strawberry Fields」はどこまでも僕であるジョンの自由の範疇なのです。
そのジョンがルールに合わせられなくても大丈夫だよと保証してくれているのですから安心しましょう。
ジョンも自分でこの曲の歌詞を書きながら誰にも理解されないだろうことは分かっていたはずです。
ジョンのエクスキューズ
ジョン自身の夢に飛び込む
Always, no, sometimes think it's me
But you know I know when it's a dream
出典: Strawberry Fields Forever/作詞:Lennon=McCartney 作曲:Lennon=McCartney
「いつもは理解していて ときどきは考えるのさ
それは僕じゃないかなとね
でも分かるよね それがひとつの夢であることくらい僕も理解しているんだよ」
この前に「ストロベリー・フィールズは永遠なのさ」というコーラス部分がリフレインされています。
また難問の「Strawberry Fields」での思考実験です。
この箇所は特に訳出が大変難しいのは原詩を読んでいただくとお分かりになるはず。
しかし日本人にとって難しいというだけではないでしょう。
本国イギリスでもこの語順は何なのだろうと思われても仕方ないです。
ただこの「Strawberry Fields」という仮想空間が僕自身のものだとジョンが白状しているよう。
そしてそれがジョンの夢のひとつに過ぎないことも告白されているのです。
他人の夢の話こそ理解できない話題はありません。
ジョンはこの「Strawberry Fields」が理解されないことをここまで歌詞で弁明していました。
難解なのは仕方のないことだとリスナーは安心して欲しいとエクスキューズしたようです。
ジョンはそのアーティストとしての生涯の中で夢からヒントを得た曲をたくさん残しています。
ビートルズでは「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンド」が著名でしょう。
この「Strawberry Fields Forever」も夢から着想を得たのかもしれません。
ジョンは何と歌ったのか
I think a "no" will mean a "yes", but it's all wrong
That is I think I disagree
出典: Strawberry Fields Forever/作詞:Lennon=McCartney 作曲:Lennon=McCartney
「僕が思うに「No」は「Yes」を意味するのだと思う
でもそれは完全な間違いなんだよね
そうしたことは僕なら同意しかねると思う」
この箇所は解釈が難解とかいうお話のレベルではなく「ジョンが何と歌ったか」が分かっていません。
原詩を載せている各サイトで叙述が違っているのはそのためです。
他のメンバーもこの箇所はなんて歌っているのか分かっていなかったのでしょう。
それでもジョン以外のメンバーも一丸となってこの曲を仕上げたのですから美しいメンバー愛です。
印象的なメロトロンの響きは大部分がポールによるもの。
その他、バンドメンバー以外にもホーン隊などたくさんの人が関わっています。
この曲をまとめ上げたプロデューサーのジョージ・マーティンの偉大さを改めて感じ入る次第です。
各原詩サイトで採用している文章が違いますので難渋します。
「ジョンが何と歌ったか」ではなく「ジョンならこう歌っただろう」というラインを選びました。
この仮想空間「Strawberry Fields」でジョンがあれこれ思考実験している状況を書いています。
「No」はときに「Yes」なのかもしれない。
そんなこともあるかもしれないけれど同意しかねる。
ジョンは自分の思考実験をそのまま書き起こしているのです。
物事を違った角度から柔軟に捉え直す際に「No」は「Yes」なのかもと考えてみました。
しかしさすがのジョンにとってもこの空想は合点がいかなかったようです。
仮想空間「Strawberry Fields」が思考実験の場であることが明白になったような気がします。
しかしそうした断定こそ思い込みかもしれないし夢かもしれません。
ここ「Strawberry Fields」では何もかもが再考のチャンスを待たれているのです。