雲が消す星に オドの火は語る
ペンデュラム空にかざし キミは安らげよ
出典: ハルディン・ホテル/作詞:平沢進 作曲:平沢進
平沢進氏の作品にはよく「空」という言葉が出てきますが時空を超えた大きな宇宙として解釈できます。
アルバムタイトルも「時空の水」でした。
「空」は自分を総称して人類や地球上の生命すべてを超越した宇宙のことまでも思いを巡らした言葉です。
生命のエネルギーが奇跡を起こすと信じることで「星」の輝きを邪魔するものが追い払われることを祈ります。
「オド」の力を借りるとはそういったことでしょう。
そして宇宙のバランスを調べ異常がないことを「キミ」に伝えます。
「キミ」は生命のシンボルそのものの意味だと考えられますね。
そこにロマンスがあるかどうかもこれから考察していきます。
沈むものの予兆
影は目覚めて 淵への道を指す
役立つ宇宙を この手に降らせ今こそ
出典: ハルディン・ホテル/作詞:平沢進 作曲:平沢進
もしこの宇宙に暗黒を見つけたら浮かびあがれなくなる前に何とかしなくてはいけません。
その時は宇宙を飼いならすことのできる素晴らしい科学者が必要になるかも知れないのです。
「キミ」を助けることができなければ自分も救われる道はないという意味に取れます。
神話との出会い
「ヤギ」に託した思い
雪解けの裾で ヤギは空を仰ぐ
眠り めざめ 思い出せば話そう
出典: ハルディン・ホテル/作詞:平沢進 作曲:平沢進
ではなぜこれほどまでに「キミ」の身を案じ憂いているのでしょう。
「ヤギ」を擬人化した自分だとすると何故登場させたのでしょうか。
平沢進氏は一見正反対に思える神話と科学を楽曲に登場させることが多々あります。
その理由は人間の持つ幅広い可能性を信じているからだと考えられますね。
世界の神秘を解明することに一生を捧げる科学者もいるでしょう。
そうかと思えば理解不可能な作り話を信じ続け生きることを肯定して来た人間の歴史もあります。
他人を理解するには想像力が必要です。
平沢進氏は私達を試しているのかも知れませんね。
そこでまた「ヤギ」の話に戻りますがギリシャ神話の中の山羊を見てみましょう。
その神話の中には山羊の角を持った半身半獣の「パーン」という神が出て来ます。
このパーンは両性具有として生まれ「豊穣の神」とも呼ばれる宇宙を支配できる高い位の神でした。
また豊穣の神といわれるだけあって、よくニンフ(妖精)を追いかけていたようです。
そのためパーンを怖がるニンフが葦(草)に姿を変えたという有名なお話もあります。
そこでまた現代に戻りますね。
待ち望んだ春がやって来て「空」の様子をうかがっている「ヤギ」は何をしているのでしょう?
「アイリス」との出会い
アイリスが咲く 長い雨の夜
祈るようにキミを さがして駆けてたこと
出典: ハルディン・ホテル/作詞:平沢進 作曲:平沢進
「アイリス」の花はギリシャ神話の中で「イリス」と呼ばれ虹の女神といわれています。
絵画の中では翼を持った女神として描かれていました。
翼のおかげで早く移動できるのでメッセンジャーとしての役割を持っていたようです。
その「アイリス」が咲くのは乾燥した砂漠地帯ではとても短い期間でしょう。
砂漠の雨季はとても短く一度に大量の雨が降ります。
イリスの女神に会えるのはほんの一瞬かもしれないのです。
雨季のあとにさっとかかる虹もすぐ消えてしまいます。
しかも逃げ足の速い女神です。
歌詞の中にも懸命に追いかけている様子が描かれていますね。
そしてここからがとても大事なことなのですが春が過ぎ夏が過ぎるまでのできごとです。
豊穣の神パーンがイリスとの一瞬の出会いを果し、すぐにまたイリスから離れていきます。
そして次の年思い出したようにパーンはどうしてもイリスを探さなくてはいけないのです。
人間の妊娠期間は10か月程といわれています。
そのことを確かめるために話したいことがあったのです。
「キミ」のための「祈り」とはそんなことかも知れませんね。
ですがこの筋書きはすべてが上手くいった時の話です。
まとめ
「ハルディン・ホテル」には行ったのか?行かなかったのか?
先述しましたようにすべてが上手くいけば病むことはありません。
その時はこの場所に行く必要はないのです。
そしてもしこの場所に行くのであれば道連れが欲しいということでしょう。
同志を募集しているのかも知れません。
やはり私達は試されていますね。
ファンタジックなお誘いではありませんか?