「ノスタルジア」に誘われて

竹内まりや【ノスタルジア】歌詞の意味解釈!懐かしい風景に呼び起された記憶とは?愛の幻はどうなるのかの画像

2001年8月21日発表、竹内まりやの通算9作目のアルバムBon Appetit!」。

このアルバムに収録されて後にシングルカットされた楽曲ノスタルジア」をご紹介しましょう。

多くの女性に支持される竹内まりやの真骨頂とでもいうべき愛の歌です。

しかし目の前の愛を描いた楽曲ではありません。

竹内まりや遥か以前の青春の日々の恋を回想しています。

彼女が実際に経験したパーソナルな思い出がベースなのかは分かりません。

しかしこの曲の歌詞を読むと、誰しもが経験した初恋の苦さというものを思い出すはずです。

初恋ほど特殊な記憶を残す恋愛は珍しいものかもしれません。

男女問わず初恋の記憶はいつでも思い出せるものでしょう。

成就しても長続きしないのが初恋だったりします。

初恋は片想いで終わってしまったという人も多いはずです。

竹内まりやも思いを伝えきれなかった記憶を振り返ります。

どんなに記憶の底に閉じ込めてもふとした瞬間に甦る初恋の思い出。

郷愁を誘うあの日の面影というものを丹念に描いた楽曲が「ノスタルジア」です。

今夜くらいは初恋の思い出に浸ってみてはいかがでしょうか。

とはいえこの記事で浮かび上がる「ノスタルジア」の実情はかなり怖ろしいものです。

それでは実際の歌詞をご覧ください。

初恋への執着は

戻れない日へのラブレター

竹内まりや【ノスタルジア】歌詞の意味解釈!懐かしい風景に呼び起された記憶とは?愛の幻はどうなるのかの画像

気まぐれな風が吹く この丘に立ち
遠い日の出来事を 懐かしむ
鳥たちが奏でる 哀しいメロディ
帰らない面影 また呼びさます

出典: ノスタルジア/作詞:竹内まりや 作曲:竹内まりや

歌い出しの歌詞になります。

アーバンなサウンドでボサ・ノヴァ調のリズムです。

登場人物は語り手の私と追憶の中でしか会えないあなた

つまりこの場所に私はひとりだけで佇んでいます。

シチュエーションは風がなびく丘の上です。

すでに物悲しい舞台設定ですが、サウンドの手触りのようなものは柔らかいものでしょう。

この丘から見下ろせる場所でかつて私とあなたは寄り添っていました。

もう戻れない青春の日々のことです。

私たちはこうして人生の節目で初恋というものを再確認したがります。

どうしてそんな後ろ向きな回想を好んでするのかは分かりません。

さらにわざわざ悲しい記憶を再生することもあるのですから不思議でしょう。

おそらくタイトルにもある「ノスタルジア」というものが誘う気分が心地いいのです。

たとえ悲しい記憶しかなくても「ノスタルジア」とともに運ばれてくる感情は美しく感じます。

鳥の鳴き声にも何か記憶に関わるものがあるのでしょう。

あの日も鳥が鳴いていたなどと回想しているのかもしれません。

音というものも遠い記憶を呼び起こすきっかけになるものでしょう。

あのときもこの曲が流れていたと思うと同時に記憶が鮮やかに甦って驚くことがよくあります。

鳥が口ずさむ音楽だって記憶を呼び起こすための大事なトリガーになるのです。

私はもう戻れない日へ向けてラブレターを書くように独白を続けます。

美化されたあなたに誰も敵わない

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愛していたのは あなたひとり
言葉にできずに 待ちわびて
夕暮れ色に染まる 頬には
いつも涙 光ってた

出典: ノスタルジア/作詞:竹内まりや 作曲:竹内まりや

長い月日を間に挟んでいるはずです。

それでも私は未だに本気で愛したのはあなただけだと歌います。

初恋の相手以外を本気で好きになれないというのはどこか悲劇かもしれません。

さらにこうしたこだわりのようなものは不健康という人もいるでしょう。

しかもこの恋心を私はあなたに伝えきれていません。

つまり片想いで終わった初恋にここまで執着しているのです。

過去の美化された想い出のあなたには誰も敵わないのかもしれません

確かに現実ではこの私ほどに初恋に入れ込んでいる人は少ないでしょう。

それでもこの曲を聴くとすべてのリスナーが自分なりの初恋というものを思い出すはずです。

いまお付き合いしているパートナーがいる人でも同じように初恋の相手を思い出すでしょう。

初恋というものは人生の中で一回しか訪れないイベントです。

一回性のものであるからこそ初恋の記憶は尊いものなのでしょう。

しかし私にとって初恋は悲恋でもありました。

その悲恋の記憶を私は何度も再生して、その度に新鮮な涙をこぼしてしまうのです。

初恋の宿命は

伝えられない思いのいまは

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臆病な少女の 追いかけた夢は
果てしなき 片想い

出典: ノスタルジア/作詞:竹内まりや 作曲:竹内まりや

私はかつて目立たない少女だったのでしょう。

自己評価というものが不当に低すぎたからこそあなたに思いを伝えきれなかったのかもしれません。

竹内まりやは初恋を扱う曲の中で好んでこうした控えめな少女を登場させます。

私はあなたとの将来について少女の頃に様々な夢を描いていたのです。

少女固有の強力な想像力で描いた夢が大きすぎたのかもしれません。

地味なキャラの少女であっても、その心のうちに広がっている世界は広大でした

あなたに伝えたかったものの大きさがいつの間にか私の中でさらに成長するようです。

初恋は弾けて消えるシャボン玉

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初恋で得られるものは多大なものがあります。

叶わない愛であってもあなたが少し微笑んでくれただけで幸せの絶頂へと飛んでゆけるのです。

初恋が成就した人であっても、いまなおその相手とパートナーでいられる人は少ないでしょう。

初恋というのはシャボン玉のように屋根まで飛んで壊れて消えてしまうのが宿命です。

どんなに楽しい思い出が詰まった初恋でも最後にはお別れのときがくる。

この運命を考えると初恋というものはすべて悲恋なのではないかと思わずにはいられません。

しかしあの多感な時期に詰め込んだ様々な思いというものは夢にだって近いと歌っているようです。

さらにその夢は必ず頓挫してしまいます。

しかし破れた夢であっても、かつての自分がそこに詰めた思いは本物だし忘れたくないと私は思うのです。

記憶を操作できるのならば夢が敗れ、破れる少女をいまこそ救い直すことができるかもしれません。

しかし自分自身を偽ることは誰にだってできることではないのです。

初恋はすべて敗れ、破れるという現実を静かに受け入れられる年頃まで私は成長しました。