毒があっても美味なる楽曲
時だけが無情に 通り過ぎたあと
残る愛の幻 終わりのないノスタルジア
出典: ノスタルジア/作詞:竹内まりや 作曲:竹内まりや
これが竹内まりやが私のために用意したクライマックスです。
時間というのは人の事情に気をかけてはくれません。
もう私は若いと胸を張れる時代をとうに過ぎているのでしょう。
老いが近づいているとまではいきません。
しかしそろそろ人生を過去の記憶から解放してもいい年頃でしょう。
私はときの流れの中で孤独なまま人生をやり過ごしています。
かつてのあなたの記憶は鮮明であったとしても、その実質は幻に過ぎません。
一歩踏み込んだ表現をするとあなたというのは私に取り憑いた過去の亡霊なのです。
亡霊は生きた私に取り憑いてずっとその魂を喰らおうとします。
目の前の男性との直接の触れ合いを持てないままに生きる私だってゴーストのようなものです。
郷愁の国の住人は生活感というものを抱くことができません。
斯様に「ノスタルジア」に侵食された人生はあまりにも果敢なすぎます。
肉感的な愛の交流を避けてしまう私。
あの日のあなたとの会話を続けるのは、この先の人生を投げ捨ててしまうことと等しいのです。
竹内まりやの「ノスタルジア」は初恋の記憶の鮮烈さというものを歌いました。
しかし「ノスタルジア」という魂の牢獄に囚われることの愚かさだってきちんと表現します。
本当は怖い竹内まりやの「ノスタルジア」。
この曲に過剰なロマンチシズムを読み解くと、リスナーも私のように過去に幽閉されかねません。
大切なことは少ない情報量の中からどれだけの教訓を引き出すのかということでしょう。
聴き流すだけならば気付けない奥深さがこの曲には込められています。
竹内まりやのデモーニッシュな側面が開花した美しさだって汲み取れるでしょう。
しかし深入りすることを躊躇わずにはいられない危険な魅力がこの曲にはあるのです。
美しい初恋の思い出とその幻には棘があります。
同様に毒があるものでも美味である作品がこの世界にはあるのです。
どうぞ気を付けてご賞味ください。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。
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