1972年に発表された珠玉の名曲

井上陽水の「東へ西へ」は1972年に発表され、彼のキャリアを代表する曲となりました。

1992年には、俳優の本木雅弘がカバーしたことでも話題に。

都会で頑張る若者の日常風景を歌った楽曲ですが、良い意味で節々に個性の強さが滲んでいます。

淡々と眼に映る風景や気持ちを綴っているのですが、どこか異質さを孕んでいるのです。

それが、井上陽水楽曲の大きな魅力の1つなのでしょう。

この記事では、「東へ西へ」に隠された主人公の心情を奥の奥まで探って行きたいと思います。

この曲の歌詞が持つ、深さや儚さに浸ってみましょう。

何気ない日常が、ほんの少し違って見えるようになるかもしれません。

若者の日常を歌った1番の歌詞

ソワソワを隠せず

昼寝をすれば夜中に眠れないのはどういう訳だ
満月空に 満月明日は いとしいあの娘に逢える
目覚し時計は 母親みたいで心がかよわず
たよりの自分 は睡眠不足でだから
ガンバレ みんなガンバレ 月は流れて 東へ西へ

出典: 東へ西へ/作詞:井上陽水 作曲:井上陽水

何気ない日常を歌っているのですが、節々に良い意味で違和感が溢れています。

まず1行目についてです。昼間に寝てしまっては、夜に寝つきが悪くなるのは当たりまえです。

しかしこの曲では、あえてそれに触れています。

なぜなのか、歌詞の主人公自身がわからないという、額面通りの意味ではないのでしょう。

憧れの女性に逢えると思うと、ソワソワして浮き足立ってしまう心情なのです。

明日のために、日頃の疲れを取ろうと昼寝をしたけれど、それがアダとなって眠れない。

いつもと違うワクワク感のせいで引き起こしてしまった、ちょっとしたミス。

それを少し冷静な視点でみて、嘲っているのです。

ただ、昼間に寝なかったとしても、夜も寝られなかったでしょう。

それくらいのソワソワした雰囲気が伝わってきます。

2行目で、月の表現を2回繰り返していることからも、興奮度が高いことが明らかです。

自分のおっちょこちょいなところを笑って、落ち着きたいのでしょう。

自分をコントロールしたいのです。

幼い頃の思い出

そして3行目には、目覚まし時計が出てきます。

もう朝になっているのです。

きっと昨日寝つきが悪かったため、朝なかなか起きれずに辛い思いをしたのでしょう。

そして、学生時代に眠いのに母親に無理矢理叩き起こされた記憶が呼び覚まされたのだと思います。

また子どもの頃を思い出すことで、歌詞を際立たせることにもなっているのです。

女性に会いに行くということについて、自分は大人になった。

あの頃と比べると成長した。

という思いを、しみじみと感じているのではないでしょうか。

気だるいながらも、心の奥底にそんな気持ちがあるのだと思います。

睡眠不足を言い訳に?

子どもの頃のように母親に頼ることはできないけど、眠くて気だるい。

この主人公の感想は、相反する2つの感情を表しているようです。

1つは、先ほど述べたように、成長したという実感。

もう1つは、睡眠不足を言い訳にしたいというものです。

女性に会うことが、緊張などしないような出来事であれば、睡眠不足を強調する必要はありません。

もう前の晩眠れなかったことも、朝起きずらかったことも歌詞に書いているからです。

あえて睡眠不足ということで、主人公は自分に言い訳をしているのではないでしょうか。

今日のデートが上手くいかなかったとしても、寝不足を言い訳にできるのです。

必死に男のプライドを守るために、保険をかけているのです。

しかし、主人公が自分のそんな心の奥底に気づいている様子はありません。

引き起こした結果を、すべて自分で受け止めるのが、ちょっと怖いのかもしれませんね。

だとすると、主人公はまだ子どものような部分を残しているといえそうです。

自分自身では成長したと思いながらも、はたから見るとまだまだ。

1人前の大人には今一歩。

そんな若者の映像が浮かび上がってきます。

感情をストレートに表現するのではなく、日常のどのシーンを切り取っているかで人物像を伝える。

井上陽水がそれを意識してやっているのか、何も考えずにやっているのかはわかりません。

文章としては巧みだと思います。

窮屈さを感じる2番

一瞬を長く感じている

電車は今日もスシヅメ のびる線路が拍車をかける
満員 いつも満員 床にたおれた老婆が笑う
お情無用のお祭り電車に呼吸も止められ
身動き出来ずに 夢見る旅路へだから
ガンバレ みんなガンバレ 夢の電車は 東へ西へ

出典: 東へ西へ/作詞:井上陽水 作曲:井上陽水

好きな女性に会うためには、まず満員電車を乗りきらなければならない!

主人公のそんな心情が見てとれます。

あと何メートル線路を進めば、この窮屈さから解放されるのか?

一瞬一瞬を乗り切っているのです。

何もない日常であれば、一瞬を長く感じることはありません。

しかし、今日は主人公にとって好きな女性と会う大事な日。

だからこそ、気持ちを抑えきれず、時間が進むのを遅く感じてしまうのでしょう。

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