back number、インディーズ時代の名曲「tender」
主人公の夢と恋人の決断
2010年発表のback numberのファースト・アルバム「あとのまつり」収録の「tender」。
弾けそうな勢いのギター・サウンドと清水依与吏らしい「女々しい」歌詞のコントラストが鮮やかです。
夢を追いかける青年と彼を支えながらも大人の決断をした女性の物語を3分30秒の楽曲に収めました。
back numberのファースト・アルバム「あとのまつり」はインディーズ時代の作品です。
まだミュージシャンとして独り立ちできるかどうか分からない人生の岐路に立つ青年。
清水依与吏は主人公に自身の姿を投影して作詞したはすです。
2015年のアルバム「シャンデリア」と2019年のアルバム「MAGIC」。
2作連続でオリコン・アルバム・チャート1位を獲得したback number。
そんな彼らにもあった下積み時代の想い出。
不安定な職業でもあるミュージシャンの夢を追い続けるのは容易なことではありません。
青春期の脆い心の淵で起きた男女のお別れ。
いまがむしゃらに夢を追う人々には痛く響きそう。
この曲「tender」の歌詞の魅力に迫ります。
思いやりを持ち寄った交際
男女の仲の怖さ
ドアの閉まる音で世界が二つに割れた気がした
まだ君の香り残る車は走る
振り返れば何もしてやれなかった そう思うけど
僕なりにいつも君を想ってたんだ
出典: tender/作詞:清水依与吏 作曲:清水依与吏
物語は車の中で始まっていました。
「君」はこのときに決意して「僕」のもとから旅立ちます。
永くお互いのことを考えながら支え合っていたのでしょう。
残り香に気配を感じられるほどに親密な関係でした。
ただし「僕」の方が「君」のことを少し愛しすぎていたのです。
男女の別れには様々な要因があり理由はひとつだけではないはず。
思いやりをもって接していても破綻してしまうこともあるのが男女の仲の怖いところです。
それでもこのカップルの間にあった別れの原因は歌詞の続きに読み取れます。
自動車の疾走感
BUZZCOCKSのような爽快さ
窓を流れる街が泣いてる
出典: tender/作詞:清水依与吏 作曲:清水依与吏
詩的なラインです。
イギリス・マンチェスターのロック・バンド「BUZZCOCKS」を彷彿とさせるサウンド。
パンキッシュだけれど叙情的なところにback numberの個性が垣間見られます。
この曲「tender」には自動車の運転と似ている疾走感があるのです。
おそらく歌詞の内容からしてサウンドの疾走感と自動車のスピード感をリンクさせているはず。
去る方よりも去られる側の辛さ
清水依与吏をフッた女性たち
朝焼けが今2人を包んで引き離してく
今更君の名前を呼んでも
夜が君を飲み込んで消える
出典: tender/作詞:清水依与吏 作曲:清水依与吏
「君」は夜とともに「僕」のもとを去ります。
朝焼けの頃にはもういなくなりました。
ふたりの別れの情景が目に浮かぶ歌詞です。
男女の別れは双方にダメージをもたらします。
ただ、去る方よりも去られる方がきつい心境になるかもしれません。
清水依与吏はback numberというバンド名にも「元カノにとって僕は『型落ち』」という意味を込めます。
それほどにフラれることが多かったのでしょうか?
真相は謎ですが。
ただし、今になってみると清水依与吏をフッた女性たちは大後悔していそうだなと想像します。
今やスパースターの仲間入りですから。
それでも「tender」の歌詞の中でより深く後悔しているのは「僕」の方です。
こうした未練がましさを素直に曝け出す歌詞が支持されるというのは面白い現象だなと思います。
back number以前のロック・バンドは何かしらマッチョな雰囲気を醸し出していたものです。
時代は変わりました。