「水玉病」とは何か
2008年4月発表、アーバンギャルドのファースト・アルバム「少女は二度死ぬ」。
翌年の3月6日に特装盤を全国リリースして彼らはシーンに躍り出ます。
この記念すべき最初のアルバムに収められたオープニング・ナンバーが「水玉病」です。
さらに2020年1月1日に発表する「TOKYO POP」では別バージョンを披露します。
いずれにせよ「水玉病」がアーバンギャルドの歴史の中でいかに大事な楽曲かが分かるでしょう。
「水玉病」という不思議なタイトルは現代美術家である草間彌生を彷彿させます。
実際に何にでも水玉が見えてしまう少女という設定は草間彌生にも当てはまるものです。
草間彌生の独特な世界観の象徴ともいえる水玉は彼女の深刻な病気の症例によるものでしょう。
松永天馬はそんな彼女を題材にしながら、少女期に固有の病として「水玉病」を定義します。
かなりフリーキーで危険な歌詞のように感じられるはずです。
アーバンギャルドの登場の衝撃を決定付ける最初の1曲でした。
この曲の歌詞の秘密に迫ってみましょう。
それでは実際の歌詞をご覧ください。
「水玉病」の症例
至るところに水玉があふれて
水玉病は少女特有の病です
思春期生理期失恋期を機に発症します
顔に腕に見えるものすべてに丸くぽつぽつ
かわいくなろうと思えば思うほどぽつぽつするの
出典: 水玉病/作詞:松永天馬 作曲:松永天馬, 谷地村啓
歌い出しの歌詞になります。
謎の語り手が登場して「水玉病」の概要について語るのです。
語り手によるとこの「水玉病」とは若い女子に固有の病だとされます。
女性ホルモンが成長に及ぼす作用のようなものが原因のようです。
この頃の女子は男子よりも発育がよくメンタルも早めに大人になるものでしょう。
一方で固有の触れやすい神経というものも登場します。
何ごとにも感じやすい歳頃ですから普通じゃないことだって起こるのです。
草間彌生の症例のように目にするものすべてにドット(水玉)が現れます。
ニキビという現象もドット状になって顔に現れるものです。
嫌なことや苦手なものに触れたときにはドット状の発疹が肌に生まれてしまいます。
こうした生理的な現象と草間彌生の症例のハイブリッドを「水玉病」と名付けるのです。
少女を蝕む病の正体は何
水玉病は少女だけかかる病気です
大人になりそでなれないあの娘に潜伏します
汗に涙に夢のなかにまで丸くぽつぽつ
ふりむいてもらおうと焦れば焦るほどぽつぽつするの
出典: 水玉病/作詞:松永天馬 作曲:松永天馬, 谷地村啓
「水玉病」の症例についてさらに説明します。
いまでこそアーバンギャルドのユーモアは受け入れられるようになりました。
しかしシーンにこの曲で登場したときはちょっと過激な想像力の在り方がセンセーショナルであったのです。
いまでも同様ですがギャルに関してのこだわりはこのときから一貫したものでありました。
思春期でいわゆる中二病を発症してしまった少女にこだわるのです。
草間彌生にもあどけない少女性が永遠に存在し続けます。
様々な美術作品を作り続けた草間彌生。
その作品群には少女の時代に見聞きしたものをモチーフにしたものも多いです。
一方でアーバンギャルドが描く少女はどこかに恋心を秘めている存在でしょう。
憧れの男性に振り返ってもらいたいと願うのですが、そんな女子の顔にドットが浮かびます。
恋どころではなくなって羞恥心との葛藤を続けるのです。
汗だって涙だってその形状は水玉でしょう。
確かに世界には水玉があふれているなと妙に納得させられるのです。
思い通りに世界を塗りつぶせ
あなたになれないわたしになれないあなたを赤く塗りつぶしたいの
わたしになれないあなたになれないわたしを白く塗りつぶして
出典: 水玉病/作詞:松永天馬 作曲:松永天馬, 谷地村啓
少女期はまだまだアイデンティティを確立できていません。
目指すべきロール・モデルに近付きたいと願うのですが少女にはハードルが高いでしょう。
自分というものがどこにもない少女ですが、どこまでも自分の気持ちを優先させます。
私がお姫様役だと意気がる子どもの頃の性格は未だに少女の中で生き続けているのです。
見るものすべての対象を自分の色で塗りつぶしてしまいたい衝動に駆られます。
赤字に白のドットか、白地に赤のドットかいずれにしても自分の思い通りに世界を染めたいと願うのです。
そこにはアイデンティティの萌芽が存在します。
いずれ自分というものを確立すると今度は望む色に相手を染め上げたいなどと願うようになるのです。
どちらもしても固有の身勝手さがある点は変わりがありません。
5人の少女
歴史に名前を残した少女たち
アントワネットはギロチン台で アリス・リデルはウサギの国で
アンネ・フランクはアウシュビッツで アンナ・カリーナは銃で撃たれて
少女は二度死ぬ二度目の症状 常軌を逸した狂気の病状
正気を失うショーツのなかでは 水玉いっぱい戦争いっぱい
出典: 水玉病/作詞:松永天馬 作曲:松永天馬, 谷地村啓