曲が進むと、ほんの少しですが、歌詞は次第にメルのかたくなさを責めるような色合いを帯びていきます。

突き放さない。強く非難したりもしない。ただメルが心を開いてくれないことがもどかしいという感じです。

強く抱き締めても心ここにあらずなメルの胸には、いったいどのような思いが渦巻いているのでしょうか。

優しさも届かない

「建前」は本音と対になって使われることが多い言葉です。

ここでは本当の気持ちを素直に打ち明けてくれないメルを表現するために使われていると見て良いでしょう。

心配するこちら側との間に透明な壁を作ったメルとの心の距離は、何をしてみても埋まることはありません。

歌詞は思春期を迎えた10代の少女の姿を端的かつ的確に示しているといえます。

満たされない思い

メルはきっと、こちらの好意や気遣いに気付いているのでしょう。

悲しんだり苦しんだりしているのが自分だけではないことも知っています。

今の自分が幸福と呼べる環境にあることだって、彼女にはちゃんと分かっているのです。

それでもどこか満たされない。そんな自分をメル自身も責めているのかもしれません。

止まらないメル

春の海を絶えず見ていた
その時やっと笑顔を見せた
恋をしてたあの日のように
砂浜の上で踊り出す

涙するメル
君はいつも切なく肌を震わすばかり
冷たいのだろう
抱きしめてあげるから
でも君は止まらない

出典: メルの黄昏/作詞:カンザキイオリ 作曲:カンザキイオリ

春の海や砂浜といった開放的なイメージが現れ、メルの存在が与える印象も変わります。

塞ぎ込んでばかりの彼女を外に連れ出したらようやく昔と同じ笑顔を見せてくれた、といった場面でしょうか。

けれどそんなやり取りもメルの心を開かせるには至りません。

そしてとうとうメルは姿を消してしまうことになります。

メルの笑顔

全体的にネガティブな歌詞の中にあって、メルの笑顔のシーンはまさに異彩を放っています。

無邪気でいられたあの日と同じ笑顔を見せたメル。

砂浜ではしゃぐ様子からは、メルが本当はどれだけ明るい少女なのかをうかがい知ることができるでしょう。

メルの涙

笑顔から一転、メルは涙をこぼします。

最前の弾ける笑顔が明るいものだっただけに、この涙の重さは胸にこたえるものがあります。

震える身体を抱きしめることはできても心まで温めることはできない。

結局、メルは姿を消してしまいます。

いなくなったメル

メル
君は今どこにいるんだ
書き置きひとつ残さないで
知識も無くどこにいくのだ
去る先で幸せなのか

意味を知らず雪を見ていた
寂しさばかり重なるばかり
蒼さにまみれ生き急ぐのか
それでもいいが後悔するな

信じる人も愛する人も全て諦め
絶えぬ不幸を抱きしめ消えた
君は正しいのか
君は正しいのか

出典: メルの黄昏/作詞:カンザキイオリ 作曲:カンザキイオリ

いなくなったメルに向けられた花譜の言葉は辛辣な感じさえあります。

裏切られた気持ちといってもいいすぎではないでしょう。いなくなったメルへの苛立ちがにじんでいます。

どんな言葉をかけてみても、どれだけ心を砕いても伝わらなかった。そのことが悔しいのかもしれません。

しかし、こうしたやるせない唐突な別れもまた現実には大いにありえることでしょう。