困ったときだけの神頼み
自分に自信を持ちたい
でも爽やかさがとても素敵だったので
そこは苦しい時だけの神だのみ
もしも もしも 出来ることでしたれば
あの人にも一度逢わせて ちょうだいませませ
出典: 雨やどり/作詞:さだまさし 作曲:さだまさし
神様を信じていなかった「私」ですが「彼」との再会を祈るときだけは神頼み。
日本人の宗教観は緩すぎると非難されることも多いです。
そうはいっても日本は狂信的になりすぎて一度国家を滅ぼした過去がある国であります。
戦後の「敗北に抱きすくめられた」平和の中で神仏に対しては冷静でいようという智慧が生まれました。
何事にも神頼みをしすぎるとそれだけ自分の努力の成果から遠ざかってしまいます。
特に神道には弱者救済というような教義はありません。
恋愛弱者は神頼みよりも自分に自信をつけることから始めた方がいい結果を生むはずです。
しかし「雨やどり」の詩世界では少女マンガのような偶然が待ち構えているのでした。
先を見ていきましょう。
「*ただしイケメンに限る」エピソード
虫歯一本で笑えた幸福な時代
ところが実に偶然というのは
恐ろしいもので 今年の初詣でに
私の晴着の裾踏んづけて
あ こりゃまたすいませんねと笑う
口元から虫歯がキラリン
夢かと思って ほっぺつねったら 痛かった
出典: 雨やどり/作詞:さだまさし 作曲:さだまさし
偶然なのか神頼みのご利益なのか憧れの「彼」と「私」は再会を果たします。
凛々しいとも歌われる「彼」が終始ヘマをやらかすのが女性にとっては可愛いのでしょう。
ただ着物の裾を踏んで許されるのは憧れの「彼」だからです。
こんな出会いもあるのかと誰彼構わず着物の裾を踏んで歩くと迷惑行為で最悪逮捕されるかもしれません。
「*ただしイケメンに限る」の典型的なエピソードです。
ここはひとつ冷静になってください。
虫歯が光った辺りでの会場の爆笑具合も微笑ましいです。
私たちはスピード感のある笑いに慣れてしまって些細なことに笑いどころを探すことを忘れています。
女性にとって男性の虫歯が好かれるという訳ではないのでその辺りも充分に気をつけたいところです。
お節介な兄こそさだまさし
佐田玲子の体験談「雨やどり」
そんな馬鹿げた話は
今まで聞いたことがないと
ママも兄貴も死ぬ程に笑いころげる 奴らでして
それでも私が突然 口紅などつけたものだから
おまえ大丈夫かと おでこに手をあてた
出典: 雨やどり/作詞:さだまさし 作曲:さだまさし
ここで出てくる呑気かつお節介な兄こそさだまさし本人です。
つまり「私」のモデルはさだまさしの妹でありSSWの佐田玲子。
この「雨やどり」は後の名曲「秋桜」や「親父の一番長い日」に連なる最初の歌なのです。
「雨やどり」がいかに歴史的な名曲かこの一件でよく分かるというもの。
女性が化粧を覚えることは少女から大人の女性へ変貌する最初の一歩かもしれません。
「私」はその一歩が随分と遅かったのかと思う次第です。
佐田家は時の流れが世間一般よりも少し遅いのかもしれません。
とはいえ佐田家の親子愛・兄妹愛を上質なユーモアに溢れるラインに託していてとても素敵です。
婚約までのスピードが凄い
話の続きは「親父の一番長い日」で
本当ならつれて来てみろという
リクエストにお応えして
5月のとある水曜日に彼を呼びまして
自信たっぷりに紹介したらば
彼の靴下に 穴がポカリ
あわてて おさえたけど しっかり見られた
でも爽やかさが とても素敵だわとうけたので
彼が気をよくして急に
もしも もしも 出来ることでしたれば
この人をお嫁さんにちょうだいませませ
出典: 雨やどり/作詞:さだまさし 作曲:さだまさし
このスピードある婚約までの流れを逃さないために2節同時にご紹介します。
随分なスピード結婚になるはずです。
心を決めた相手とは早く一緒になった方がいいのかもしれません。
この当時はおめでた婚や授かり婚はまだ少なかった時代です。
ましてや佐田家の妹ですからまだ「彼」のために口紅を引くことを覚えたくらい。
それなのに婚約となるとまだ早過ぎはしないかとリスナーは心配するもの。
この後の顛末は「親父の一番長い日」に描かれています。