秦基博の歌詞世界に見る「男」とは「女々しさ」
「鱗」は一見、届けたい、伝えたい気持ちをまっすぐでストレートに表現した飛びきりのラブソングです。
しかし、どこか少し女々しかったり、上手にそれを伝えられなかったり、男とは得てしてそんなものです。
そこがとても上手く表現されています。
「鱗」の歌詞
少し伸びた前髪を かき上げた その先に見えた
緑がかった君の瞳に 映り込んだ 僕は魚
出典: 鱗/作詞:秦基博 作曲:秦基博
少し伸びた前髪というところから、やんちゃな感じやキレイ目な感じというよりは少し憂いのある女性像が想像できます。
さらにその髪をかき上げる仕草やその先に見えた緑がかった瞳。 緑は安心感や安定、調和を表す色です。
彼女を見ることで、彼女といることで安心感を得られることから大人の女性のような印象も感じ取れます。
そして、その女性の瞳に投影された自分自身を「魚」に例えています。ここでタイトルの「鱗」をより印象的なものに変え、さらには後の歌詞にも繋げていきます。
いろんな言い訳で着飾って 仕方ないと笑っていた
傷付くよりは まだ その方がいいように思えて
出典: 鱗/作詞:秦基博 作曲:秦基博
恋愛をするというのはどこかで我慢をしたり、上手くいかないことも多々出てくるものです。
ひとつひとつに振り回されて傷付いたり、落ち込んでしまうよりは自分でどうにか理由を付けて納得させていく健気な心が表現されています。
夏の風が 君をどこか 遠くへと 奪っていく
言い出せずにいた想いを ねぇ 届けなくちゃ
君を失いたくないんだ
出典: 鱗/作詞:秦基博 作曲:秦基博
「女心と秋の空」とはよく言ったものです。
これは移り変わりやすい女性の心を秋の空模様に例えた言葉です。
ここでは「秋の空」ではなく「夏の風」と表現しています。
移り変わりやすい女性の心よりは、その彼女を連れ去ってしまう「何か」があるのだと考えられます。
それは他の誰かかもしれませんし、仕事や遊びかもしれません。
しかし、繋ぎ留めておくためには、そして、この恋愛を成就させるためにはちゃんと言葉にしなくてはいけません。
「君を失いたくないんだ」ととてもストレートな言葉でサビに向かっていきます。
君に今 会いたいんだ 会いに行くよ
たとえ どんな痛みが ほら 押し寄せても
鱗のように 身にまとったものは捨てて
泳いでいけ 君のもとへ 君のもとへ それでいいはずなんだ
出典: 鱗/作詞:秦基博 作曲:秦基博
ここで最初の歌詞に出てきた「魚」が効いてきます。
「鱗」とは動物の体を外部環境の変化から守り、攻撃から防御する体表を覆う硬質の小片状の組織のことです。
「どんな痛みが ほら 押し寄せても」とあるように恋愛には障害が付き物です。
今まではその障害に対して我慢したり、上手く言い訳を付けたりして押し殺していましたが、守っていくだけではダメだ、攻めていかないとと自分自身で身に纏ったバリアは捨てて、傷付くことも恐れずに会いたい気持ちを最優先にして会いにいきます。
「君のもとへ」を2回繰り返すことからもその強い意志が表れています。
季節の変り目は 曖昧で 気づいたら すぐ過ぎ去ってしまうよ
まだ何ひとつも 君に伝えきれてないのに
出典: 鱗/作詞:秦基博 作曲:秦基博
あれ?まだ伝えきれてなかったのかー!
とずっこけてしまいそうですが、これこそまさに女々しい男。
一大決心をして伝えにいくものの上手く伝えきれていないわけです。
そんな中でも時間は平等で無情なもので、どんどん過ぎ去っていってしまいます。
夏の風に 君を呼ぶ 渇いた声 消されぬように
あふれそうな この想いを もう ちぎれそうなくらい 叫んでみるんだ
出典: 鱗/作詞:秦基博 作曲:秦基博
それでも気持ちはちゃんと伝えたい、その想いはちゃんと自分自身の中にあるわけです。
1番でも出てきた夏の風。彼女を取り巻く環境の中でも自分の気持ちを届けるべく奮闘する姿を想像させます。
しかし、このままだとまだ届かない、かき消されてしまう、そこで溢れそうな想いをさらに声を大にして届けていきます。
君に今 伝えたくて 歌ってるよ
たとえ どんな明日が ほら 待っていても
鱗のように 身にまとったものは捨てて
泳いでいけ 君のもとへ 君のもとへ それでいいはずなんだ
出典: 鱗/作詞:秦基博 作曲:秦基博