アナログで温かな感触
いまね、あなたに
手紙なんて慣れないもの書いてます
写真、入れとくね
目黒川の橋の上で撮りました
出典: めぐろ川/作詞:miwa 作曲:miwa
この曲が発表されたのは2010年ですからすでにeメールや携帯メールが普及しています。
そんな時代にあって「私」は「あなた」に宛てて封筒に収める手紙を書き綴るのです。
miwaは作詞の際はノートに書き溜めるとデビュー当初のラジオで語っていました。
紙のノートに文字を綴ることにこだわりや独自の美学を持っているのかもしれません。
最近は手紙などの郵便物が廃れたパーパーレスな時代になっています。
それでも手紙でしか届けられない風情というものが今もあるのです。
実際に手書きで文字を綴ると相手への想いがより深く滲むもの。
手紙や葉書の文化はまだまだ需要があるはずです。
目黒川の橋の上から両岸に咲く桜並木の写真を添えたのでしょう。
こちらもデジタル・カメラの普及で写真をプリントアウトする機会は減りました。
皆さん、写真はデジテル・データで保存しているはずです。
しかしアナログ・カメラにせよデジタル・カメラにせよプリントアウトした写真でしか伝わらない味がある。
「私」はそうした手作りのアイテムを贈ることで「あなた」への温かな気持ちを伝えたいのでしょう。
「私」の初恋
高校生カップルの話?
会いたいと言葉にすれば 胸が痛くなる
信じてると言えたら きっと強くなれるの
出典: めぐろ川/作詞:miwa 作曲:miwa
miwa自身は神奈川県三浦郡で生まれたものの、すぐに東京に引っ越します。
以来、住居はずっと東京のままです。
一方、歌の中の「あなた」は「私」との交際を途中で切り上げて東京からどこか遠くへ引っ越します。
社会人にとって休暇を使うなどして遠く離れた「あなた」に会いにゆくことは難しいことではないです。
しかしまだ高校生であったりすると隔てられた距離はより遠く感じられてしまうものでしょう。
miwaは15歳で作詞作曲を始めます。
「めぐろ川」は「私の原点」というくらいですから、この曲はかなり初期の作品と考えられるでしょう。
やはりmiwaがまだあどけない少女であった頃に書いた作品だと思われます。
少年少女にとって引っ越しなどで離れてしまうことはすごい距離感を覚えるはずです。
もう二度と会えないくらいの感情が湧いてもおかしくありません。
手紙を書くくらいですから「私」は「あなた」の住居を知っています。
しかしおいそれと高校生が会いに行ける場所ではないのでしょう。
初めてキスを交わした相手ですから募る想いは果てしがないもの。
胸の痛みを覚えるくらいの激しい想いをする恋愛は「私」にとって初めてだったのでしょう。
こうした思春期の恋愛感情を歌というもので永遠に遺せるのですから才能ある音楽家はうらやましいです。
歌はメディアを通じて見知らぬリスナーたちと交歓して共有できます。
リスナーは自身の体験と照らし合わせてこの歌を大切な曲として胸のうちで鳴らし続ける。
歌が生きているということはこうした交歓の中で感じられることです。
目黒川の桜並木を知らない人でも想像力で情景を想いながら一緒に胸を痛めることができます。
夢を追いかけた「あなた」
「あなた」の夢を応援したい「私」
Ah 春が来て 風に乗せて
あなたにだけ 届けたい想い
恋しくても 恋しくても
願っている いつの日にか
この花のように あなたの夢 咲きますように
出典: めぐろ川/作詞:miwa 作曲:miwa
2回目のサビです。
リフレインになっているようですが細部が違います。
ここでも「あなた」への恋心が歌われていますが、大事なのはその後のラインです。
「あなた」は夢を追いかけるように東京からどこか遠くの地へと旅立ったことが示されます。
桜の花が満開になるように「あなた」の夢も咲き誇って欲しいと「私」は願うのです。
「私」は当然に悲しみを噛み締めますがそれでも夢を追いかける「あなた」を応援したいのでしょう。
自分自身の恋心よりも「あなた」の夢を追いかける姿勢を支持したいと想っているのです。
若いからこそ目の前の恋人よりも自分の夢を優先したい想いが「あなた」にあったのかもしれません。
これが社会人の転身であったならば相応の収入がありますからパートナーを連れて引っ越せます。
しかしそのことを高校生に求めるのは酷です。
遠く離れていても「あなた」の夢を応援したい。
「私」の幼いながらも切実な想いがうかがえます。
「私」の一途な想い
心変わりなど考えられない
あのね、私はね
大丈夫だよ 待っているよ いつまでも
出典: めぐろ川/作詞:miwa 作曲:miwa
「私」と「あなた」は永久に別れてしまった訳ではないのでした。
いつの日か大人になったならば再会できるはずです。
現代は様々な交通機関、空の航路などが発達しています。
国内も世界も狭くなりました。
いずれふたりが大人になるに連れて再び会うことは難しいものではないのです。
その日がくるまで心変わりすることなく「あなた」を待ち続けたい。
「私」の一途な想いに心打たれます。