壁には例の黒い口紅でメッセージが書かれていました。
この言葉こそが真犯人の本音なのでしょうか?
自分の力では自分自身の欲望をコントロールできないということでしょう。
巧妙に細工を施し、手がかりを残さず完全に犯行を遂行する真犯人。
追いかけてくるものたちを嘲笑うかのような、挑発的なメッセージとも取れます。
しかし、自然に考えると捕まえてもらいたいとも思っているのです。
自分を止めて欲しいと……。
被害者の部屋で
キツいシャネルの香り 使い込んだきしむベット
手招きするヴィーナス
音を消されたまぶしいTV 朝も夜もわかんない
面倒臭いからこっちへおいで
出典: 1954 LOVE/HATE/作詞:林保徳 作曲:林保徳
「キツめに効かせた香水」や「手招き」などから、遊び慣れた女性であることを示唆しています。
必ずしも強い香水が”遊んでいる人”に当てはまるわけではありませんが、この歌詞ではそのように解釈するのが自然と考えます。
そして犯人はそれを上回る何かを持っているのでしょう。
手招きする女性を自発的に引き寄せることができるのですから。
無音のTVも不気味なアイテムですね。
時間の感覚がわからないほど、長時間の犯行だったのでしょうか。
被害者の感覚を想像するといたたまれないものがあります。
歌詞解説!(後編)
真犯人の矛盾した感情
震えるくらい駆り立ててくれ 芸術で悩まないポーズで
この気怠さを掻き消してくれ 狂おしい快楽を与えて
暗い部屋で構わない 愛に触れさせてくれ
出典: 1954 LOVE/HATE/作詞:林保徳 作曲:林保徳
激しい欲求をぶつけて、快楽を貪りたい。
その一方で愛にも触れたい。
相反するとまではいいませんが、複雑な心理の持ち主なのではないでしょうか。
というのは、「芸術的な〜」とは前述のマリアの姿勢のこと。
天井からピアノ線で吊るしてその姿勢をとらせているのです。
かなりの異常事態。
その状況に興奮する真犯人。
愛に触れたいと願う行動とは解釈し難いですね。
まして、相手は死の淵にいるわけですから。
クライマックス!
そう…泣けばいい 枯れるまで 黒い涙を流し
さぁ…この子を 胸に抱き さぁ目を閉じろ
もう…少しだけ このままで 君を見つめていたい
出典: 1954 LOVE/HATE/作詞:林保徳 作曲:林保徳
自己満足的な感情なのでしょうが、1行目には優しさがあります。
罪深い彼女を許すというスタンスをとっています。
このアルバムのコンセプトは「人は人を裁けるか?」でしたね。
ここで犯人は被害者を裁いているのです。
黒い涙は犯人が例の口紅で書いたものなので、偽りの懺悔ではあるのですが。
自分の為したことに満足したのか、もう少し見ていたいと感じているようです。
歌詞解釈まとめ
残忍な方法で被害者を殺害し、芸術作品でも仕上げたかのように悦に入る犯人が想像されます。
とてつもなく異常です。
その狂気に戦慄を覚えます。
その一方で、ちょっと寂しそう。
心の何処かで自己満足的であることを悟ってしまっているかのようですね。
それよりも、またやってしまったという後悔の気持ちがあるのでしょうか。
自分の感情や欲求が抑えられないこと自体は自然なものです。
恋愛感情などで誰しもが経験する気持ちなのではないでしょうか。
すごく獰猛で危険な感情を人は時に持ちます。
それが異常な形でしか表現できない犯人。
許したい、愛したいでも叶えてしまうと相手はいなくなってしまう。
やっぱり寂しいのかもしれません。
気持ちはわからなくもない、でもいけないものはいけない。
と、読み手まで葛藤してしまいそうですね。
終わりに
「1954 LOVE/HATE」や「Q.E.D.」のその他の楽曲の歌詞はしっかりと繋がれています。
ブックレットに記載のストーリーを各登場人物や場面から切り取ったように作られているのです。
ですから、アルバムの歌詞や世界観をしっかりと味わうならストーリーに目を通した方が理解しやすいでしょう。
個人的な感想として、ある悲しみやジレンマを抱えた悪役は美しいと感じてなりません。
悪事それ自体は許されないもので、正義の名の下にいつか裁かれなければならないのです。
しかし、そのような悪役の中にも本人にしかわからない正義があるのではないか?
と考えるのは私だけでしょうか。
そしてその正義と、本来の正義の間でその悪役は傷つき、葛藤するのです。
その姿には、人間本来のジレンマや葛藤があるように見えます。
あくまで個人的感想ですが。