緩やかに続く街路を
滑り出すショッピングカート
出典: スリープ/作詞:Grant Nicholas,Masafumi Gotoh 作曲:Grant Nicholas,Masafumi Gotoh
サビへと繋がるBメロではその欲望は「経済活動」として表現されています。
東京という街を支え続けているエネルギーは貨幣経済に支配されているのです。
「お金がすべてじゃない」という正論とは裏腹に都会の夜ではお金があれば何でも手に入るといわれています。
地下深くで張り巡らされる野心の芽
軽やかに歩む彼らの
靴底にアメーバ
出典: スリープ/作詞:Grant Nicholas,Masafumi Gotoh 作曲:Grant Nicholas,Masafumi Gotoh
一方で華やかな都会の地下には広大な地下道が張り巡らされています。
アリの巣のように複雑な構造で形成された地下鉄。
さらに奥深くにはゴッチが歩いているような広大な排水道は広がっているのです。
ゴッチは今は日の目を見ることのない若者の野心を上記の歌詞で表現しています。
なぜ人は歳を取ると皆が昔を懐かしんで「最近の若者は~」と愚痴をこぼすようになるのでしょう?
それは次世代の若者の奥底に秘められた夢や熱意を理解する能力が退化するからなのかもしれません。
しかし夢を見る次世代の人々は地下深くで静かに、着々と野心の芽を張り巡らせているのです。
SNSや人知れず築き上げたネットワークはアメーバ細胞のように拡張を続けます。
『スリープ』とは春の芽吹きを待つ才能の胎動を表現しているのです。
ダンサー三東瑠璃の表現する「新時代の胎動」
次に『スリープ』の歌詞からインスピレーションを受けたという三東さんのダンスに注目してみます。
彼女はコンテンポラリー・ダンスで『スリープ』の世界観を体現しているのです。
コンテンポラリー・ダンスとはクラシック・ダンスと対極にある現代的な舞踏表現。
そこに正確な定義づけはありません。
三東さんは身体表現により人の持つ感情を表現する第一人者なのです。
奥深くで眠る希望の芽の象徴
まず三東さんのキャラクター付けについて解説しましょう。
ハッキリと語られることはないのであくまでも推察になりますが...。
彼女は光り輝く空間に姿を現します。
そしてゴッチに向けてエネルギーを注入するように手をかざすのです。
干からびてカラカラの才能
携えて もう
手垢がついてベタベタの愛を
振り廻せよ
出典: スリープ/作詞:Grant Nicholas,Masafumi Gotoh 作曲:Grant Nicholas,Masafumi Gotoh
『スリープ』のAメロでは能力の限界による「挫折」について言及されます。
「所詮、才能がないんだ...」
そんな風に私たちはしばしば自身の限界値を勝手に決めつけてしまう傾向があります。
しかしゴッチは続くフレーズで「かっこ悪くてもあがけ!」と歌うのです。
才能とは生まれ持ったものではなく努力の末に手に入れるものだと知っているのでしょう。
そこに私たちは希望を見出すことができるのです。
冴えない顔で鏡に映ったり
何もできずに毛布をかぶったり
それでも誰かと未来を語ったり
燃え尽きる日まで弱く光ったりしたい
出典: スリープ/作詞:Grant Nicholas,Masafumi Gotoh 作曲:Grant Nicholas,Masafumi Gotoh
『スリープ』の中で三東さんは次世代の心の奥深くに眠る希望の芽を演じています。
そのため挫折や苦境に陥ったとき、彼女の舞も同様に地べたをはいずり回るのです。
MVの33秒頃に彼女は何かを手繰り寄せるような動作を行います。
この動作は逆境に陥ったときにすがるべき希望の糸を手繰り寄せようとしているように見えるのです。
気高く美しい姿
新時代の胎動
野ばらの蕾が匂った
「繋がっていたいよ」
古びた破片が光った
出典: スリープ/作詞:Grant Nicholas,Masafumi Gotoh 作曲:Grant Nicholas,Masafumi Gotoh
またMVの1分10秒頃、彼女はもっとも奇妙な動作を行います。
床面をはい回ったかと思えば軽やかに反転、まるで蜘蛛のようにブリッジをした姿勢で歩きだすのです。
この動作こそ次世代の若者が秘める可能性、つまり1行目の歌詞で紡がれる楽曲の持つテーマを表現しています。
どんな苦境に陥り、罵られても諦めずにはいずり回る姿は気高く美しい。
そんな希望を見事にコンテンポラリー・ダンスという手法で表現しているのです。