When I was younger so much
Younger than today
I never needed anybody's
Help in any way
But now these days are gone
I'm not so self-assured
Now I find,I've changed my mind
I've opened up the doors
出典: Help!/作詞:Lennon=McCartney 作曲:Lennon=McCartney
流れるようなメロディに圧倒される箇所です。
「オレが若かった頃
今より随分若かった頃さ
とにかくオレは誰の助けも必要なかったさ
でもそんな日々は過ぎて
オレはもう自信がなくなっちまった
自分の意識が変わったことに気付いて
様々な扉を開いたよ」
ジョン・レノンは端的にいえば不良少年の端くれでした。
作家の村上龍は「リヴァプールの不良少年が後に愛と平和にまで至るのが凄い」とジョンを評しました。
父親を知らないで育った彼でしたが不良少年時代は怖いもの知らずでもあったでしょう。
母親も他の男性と暮らしていたジョンは愛称「ミミ叔母さん」といわれる叔母の家庭で育ちます。
叔母の家庭は中産階級で裕福でしたが両親の不在はジョン・レノンには心の深い穴になりました。
寂しさを抱えながら荒んでゆくのですがギターと出会います。
たまたま母ジュリアが近所に住み始めてジョンに音楽の道を進ませるのです。
これならやっていける。
少年・ジョンの心をギターとロックンロールが埋めてゆきます。
そしてポールやジョージと出会うのです。
彼の心はもう人生を自分のものにできたという気持ちでいっぱいになったはず。
しかしデビュー後の世界をひっくり返したような狂乱の中でジョンはまた「大衆の中でひとり」になります。
不良少年時代とはまた違った種類の孤独を味わうのです。
現代のスターが陥った罠
ジョンの切実な願い
Help me if you can
I'm feelin' down
And I do appreciate you bein' 'round
Help me get my feet back on the ground
Won't you please please help me
出典: Help!/作詞:Lennon=McCartney 作曲:Lennon=McCartney
リスナーに軽い不安を与えるようなメロディ・ラインです。
「できるならばオレを助けてくれ
オレは落ち込んでしまったよ
君がそばに居てくれることに本当に感謝しているよ
助けてくれ 堅実な暮らしに戻るために
どうか どうかお願いだからオレを助けてくれ」
助けて欲しいというジョンの切実な願いに胸が痛みます。
世界で最も成功した男がむしろ社会からの孤立感を抱いてしまった。
これほどまでに多くの人に愛されている人は他にいないのに当人の心は虚ろです。
誰もが親しげに彼に声援を贈りますが本当に親しい人は僅かに過ぎない。
ジョンの繊細な神経が崩落します。
以前の暮らしに戻りたいという気持ちを吐露。
しかし誰もその言葉を真に受けません。
助けてくれ!
現代社会のスター・システムの歪みはおそろしいです。
エルヴィス・プレスリーにはなれなかった
原詩に見られるボブ・ディランの影響
And now my life has changed
In oh so many ways
My independence seems to
Vanish in the haze
But ev'ry now and then
I feel so insecure
I know that I just need you like
I've never done before
出典: Help!/作詞:Lennon=McCartney 作曲:Lennon=McCartney
原詩の言葉の響きの美しさを感じていただきたいです。
華麗に転がるような音の響き。
音楽の詩人として先行していたボブ・ディランからの影響をこの辺りに感じます。
「もはやオレの人生は様々な形で変わってしまったよ
自立心も影に消え失せてしまったみたいさ
ときどきオレはとても自信のなさを感じてしまう
ねえ、オレはかつてなかったくらいに君のことが必要なんだ」
ラブソングのようなフレーズが散見されますが事態はもっと逼迫しています。
自分自身が巨大なモンスターのようにメディアの中で肥大化してしまう。
なのに自分自身の心の深いところでは何かが欠損したままの少年の頃と変わらない。
その深い穴をオレと一緒に埋めてくれる人は君なんだよ。
お願いだから助けてくれ。
誰もが羨むスターがこれほどの深い心の闇を吐き出したことはかつてありません。
エルヴィス・プレスリーはビートルズに先行してロックの一大アイコンになっています。
しかし彼がここまで心の奥深くの闇をさらけ出すことはなかったです。
むしろマッチョに成功を誇示します。
ジョンはプレスリーに憧れていましたが心までは強くなりきれませんでした。
一方でジョンがこれほど強く深く他者の助けを要求した叫び「Help!」。
この言葉は何かしらのトラブルを抱えてしまう現代社会で象徴的・普遍的に響きます。
スターでなくても誰かの助けを切実に必要とするくらいに個々がバラバラになっているのです。
ジョンの詩人としての才覚はプライベートな問題から普遍性を見出してゆくところ。
この歌詞はそうしたジョンの才能が炸裂しました。
ビートルズの芸術的成熟
「Help!」が次の時代を準備した
Help me if you can
I'm feelin' down
And I do appreciate you bein' 'round
Help me get my feet back on the ground
Won't you please please help me
Help me, help me! Ooo
出典: Help!/作詞:Lennon=McCartney 作曲:Lennon=McCartney
繰り返される箇所を一部割愛いたしました。
この歌の最後のラインです。
歌詞を和訳してみましょう。
「できるならばオレを助けてくれ
オレは落ち込んでしまったよ
君がそばに居てくれることに本当に感謝しているよ
助けてくれ 堅実な暮らしに戻るために
どうか どうかお願いだからオレを助けてくれ
助けてくれ オレを助けてくれよ」
浮世離れした成功のステージ。
駆け上がったその先にあったのは巨大な喪失感。
元の堅実な暮らしに戻りたいから君の助けが必要なんだよというジョンの願い。
この曲「Help!」はアルバム「ヘルプ! 4人はアイドル」を準備します。
さらに次のアルバム「ラバー・ソウル」でビートルズは音楽性を格段に向上。
その橋渡しになる時期にジョン・レノンは「Help!」で詩人としての才覚を確立させるのです。
ビートルズが本当にアーティストになる第一歩を踏み出したのは「Help!」が誕生した瞬間でしょう。
ロック音楽がアートになる準備段階としてこの曲「Help!」は至高の輝きを放つのです。