「消えそうな綿雲の意味を考える」とはどういうこと?
勇気が出ない時もあり
そして僕は港にいる
消えそうな綿雲の意味を考える
出典: みなと/作詞:草野正宗 作曲:草野正宗
震災を経て、いつ何が起こるかわからない、いつ大切な人を失ってしまうかわからないのだから今を大切に生きなければならないと考えた人は多かったのではないでしょうか。
そう考えると、「消えそうな綿雲の意味を考える」というのはいつ死ぬかわからない人間の「命の意味を考える」と解釈できます。
だとすると、「勇気が出ないこともあり」というのは、まるで雲が消えるかのようにあまりにも唐突に訪れた「君」との別れの悲しみから「君」のような大切な存在を作る勇気が出ないということかもしれません。
「証拠」は大切な人が生きていた証
遠くに旅立った君の
証拠も徐々にぼやけ始めて
目を閉じてゼロから百まで やり直す
出典: みなと/作詞:草野正宗 作曲:草野正宗
ここまでの歌詞から、「遠くに旅だった君」とは死んでしまった大切な人であったと推測できます。
「君」をいつまでも大切に思っている「僕」と違い、世間は再生とともに失った人の生きていた証までぼやけさせていく。
だから「僕」はせめて自分の心の中には「君」の生きた証を残すために、目を閉じて出会った瞬間からの全てを記録していたテープをもう一度再生するように自分の中で「ゼロから百までやり直す」のです。
幸せそうな人々を見て胸が苦しくなって走り出す「僕」
「すれ違う微笑みたち 己もああなれると信じてた」
「朝焼けがちゃちな二人を染めてたあくびして走り出す」
出典: みなと/作詞:草野正宗 作曲:草野正宗
現在形と過去形に注意しながら見ていくと、「微笑みたち」とすれ違っているのが今。
そんな微笑む人々のようになれると「信じてた」のは過去です。
幸せそうに微笑みながらすれ違う人々を自分ともう二度と会うことのできない大切な人の姿に重ね、「君」を失った今となっては「ちゃち」に思えるくらいひどく儚い幸せの上にいた自分たちを想い、辛くなった僕は「走り出す」。
あくびしたのは「僕」が長い時間港にいたからでしょう。
最初の歌詞に出て来た「黄昏」つまり夕方から、「朝焼け」まで一人ぼっちで「君」に想いを馳せていたのです。
このことから、家族か、恋人か、親友かはわかりませんが、どれだけ「君」が大切な人だったかがわかりますね。
「みなと」はもう会えない大切な人と会うための歌
君ともう一度会うための大事な歌さ
今日も歌う 一人港で
出典: みなと/作詞:草野正宗 作曲:草野正宗
亡くなってしまった大切な人とはもう会うことができないけど、自分の中にその人が生きていた証を残すことで、また会うことができる。
その証を残すために、大切な人に届けたい言葉を集めて作った歌を「僕」は今日も歌い続けます。「君」は大切に思われながら遠くへと旅立った全ての人たちを指していると言えるでしょう。
「みなと」は、今も失った大切な人を想って過ごしている人々の気持ちを代弁し、その上で、悲しみは消えないけれど、歌にして自分たちの中に大切な人たちを生かし続け、生きていこうという前向きなメッセージを伝えているのです。
そういう意味では曲のなかで「僕」が歌っている「君ともう一度会うための大事な歌」は「みなと」であるとも言えるでしょう。
関連ブログまとめ
ここからは「みなと」の解釈をしているブログの一部を紹介します。
どのブログも興味深い記事が多くて載せきれなかったのですが、ぜひ見てみてください。
【クロスレビュー】音楽ライター講座in京都〈スピッツ考現学〉で読みあった「みなと」の完成原稿 – ki-ft
2016年6月〜8月の音楽ライター講座in京都は〈スピッツ考現学〉というテーマで全3回に渡り、スピッツを考察します。6月12日の初回では、15th album 『醒めない』への布石となる新曲「みなと」を取り上げ、参加者によるレビューを読み合いました。この記事では完成したレビューを随時掲載します。
この記事では「みなと」の前に配信限定で発表された曲「雪風」との関連性を指摘しています。
「みなと」が残された側の視点の歌だとしたら、「雪風」は残していく側の視点から別れを歌った歌だという分析で、すごく腑に落ちました。
スピッツ新曲「みなと」を聴いて思った事。 - わかったつもりでいたけれどほんとうはわからなかったこと。
すごくインパクトがあるわけでもなく、派手なわけでもなく、メッセージ性があるわけでもない。 でもほんと、ただただ単純に、良い曲だなあと思いましたよ。 そして、聴きながら歌詞を追っていたら、 『これは3.11の地震や津波で、大事な人を失ってしまい、後に残された人のことを歌ってるかもな』と思ってしまった。 なんでもかんでも震災に結びつけるのは嫌だし、全てではなく、あくまで曲の一面がそうだ、という話なんだけど。 勇気が出ないときもあり そして僕は港にいる 消えそうな綿雲の意味を考える 遠くに旅立った君の証拠も徐々にぼやけ始めて 目を閉じて0から100までやり直す スピッツ「みなと」より 震災を意識とし…
こちらのブログでは、「みなと」の歌詞を、エールではなく、被災した人々が聴いた時に「わかってくれる人がいる」、「自分は一人じゃないと思えるような歌詞にしている」と感じられるように、被災した人々の心情を歌っていると分析しています。
確かに、スピッツの歌詞は、無理やり前を向かせるような言葉じゃなく、そっと寄り添ってくれるような言葉が多い気がします。