前述した通り、本MVには、レトロを感じる演出が盛りだくさんです。
MVの仕掛けについて具体的に解説していきます。
まずは、ミニチュアカーとフィギュアが置かれているシーン。
ミニチュアカーが流行したのは、1970年代です。
移り行く時を意識させるために冒頭に差し込まれているのでしょう。
それから、電車が見える街並み。
街並みは明瞭な映像ではなく、ぼんやりともやがかかっています。
楽曲の開始からすでに視聴者に対してレトロを意識させる演出です。
映像の効果によって古いイメージ、懐かしいような印象を抱きます。
しかし、サウンドとしてはハイファイで現代風です。
レトロを感じさせつつも古臭くは全く感じない仕掛け。
冒頭から楽曲に対する拘りを感じました。
歌詞とリンクした映像
ASIAN KUNG-FU GENERATIONメンバーとホリエアツシの演奏シーン。
それから、楽曲が進行すると歌詞にリンクした映像が登場します。
手のひらに握られたプラスチックの自動車。
書類の改ざんに勤しむホリエアツシと後藤正文の姿。
歌詞とリンクした映像によって、楽曲の世界観を想像しやすくなります。
そして、複数の描写を映し出すことで何を伝えようとしているのか。
言葉にどんな意味があるのか。
そんなことまで考えさせられてしまうことが本当に見事です。
何気ない日常にも思えるシーンを切り取ってレトロな印象を感じられます。
それらの全てがこれまでの歴史を想起させるものです。
楽曲について深化していくために把握するべき歌詞について見ていきます。
歌詞から分かること
廃墟のイメージ
後藤正文が作詞、ホリエアツシが作曲をした本楽曲。
ASIAN KUNG-FU GENERATIONとストレイテナー。
ホリエアツシが作詞する楽曲を意識して作詞したという後藤正文。
それぞれの良さを感じることができる楽曲になっています。
両者の要素を感じられることに合点がいきました。
遠い昔に 忘れ去られたことが
立ち現われるだろう
そして 立ち去るのだろう
子供たちが解き忘れた自由や
君とよく似た顔や
プラスチックの自動車
大人たちが手放した自由や
ゴミ溜めに咲く花を蹴散らして歩く衛兵
出典: 廃墟の記憶/作詞:Masafumi Gotch 作曲:Atsushi Horie
空虚さを感じる歌詞は、具体的な問題に対する提起では無いように思えます。
なぜなら、内容として取り留めもなく焦点が曖昧だからです。
一つ確実に意識されている内容は、対比構造。
過去と現在。子供と大人。束縛と自由。イメージと現実…。
前向きではないけれど、絶望ではない。
そんな言葉が紡ぐ世界観は、廃墟を描くにふさわしいです。
このような点で考えると、抽象的な何かを描いたもの。
現代に漂う空虚な心情が落とし込まれているのではないでしょうか。
これは、今を生きる後藤正文が感じていることだと考えられます。
繋がりが軽薄になった現代。
平和とはいえない世界は、残酷でディストピアのようにも思えます。
戦争や孤独といった壮大で解決が困難な問題の数々。
複雑なテーマが題材となっている楽曲に抱く取り留めもない印象です。
まさに廃墟のような、そこはかとなく寂しい様子を感じます。
ASIAN KUNG-FU GENERATIONのスタンス
戦友と創り上げた楽曲
本MVを公開する以前に意識していたのは、アルバムのリリースです。
「ホームタウン」や、付属CD「Can't Sleep EP」の全体的なバランスも意識したと語っています。
ASIAN KUNG-FU GENERATIONの作品でありながら挑戦的です。
それは自分たちの音に縛られず、バンドの可能性を広げるという挑戦。
現在でも挑戦を続け、可能性を探求しているからこそ完成した楽曲といえるでしょう。
その楽曲は、ASIAN KUNG-FU GENERATIONらしさも残しながらも新しい印象。
流れる時のなかで、記憶をテーマにした楽曲で創り上げる新しさ。
過去を踏襲しながらも未来を見据えていく姿勢がMVの演出に現れています。
この姿勢にバンドとしての更なる可能性を確信しました。
バンドが帰る場所
そして、完成したアルバムはパワーポップが中心。
これこそ、バンドが帰る場所なのだと思います。
決して雲のような存在ではなく、身近で飾らない。
シンプルでありながらカッコいい楽曲を作り続けてきたバンド。
1996年に結成した彼らが20年以上経っても挑戦する姿勢。
そして、ベスト発売後の原点回帰を感じさせる内容となっています。
アルバム名の「ホームタウン」は、作品を的確に言い表したタイトルです。
そして、今回の共同制作をきっかけに、ライブでの共演にも期待が高まります。
スタンダードを作ってきたアジカン
名曲の数々を紹介
これまでASIAN KUNG-FU GENERATIONが作り上げてきた名曲の数々。
アルバムを通して聴いていくのが1番良いですが、入門編としてはこちら。
オススメの楽曲トップ10をOTOKAKEで紹介しています。