NUMBER GIRL【IGGY POP FAN CLUB】歌詞の意味を解釈!君との記憶をひも解くの画像

何度となく聞いたこの部屋で
君の夏 初体験物語

出典: IGGY POP FAN CLUB/作詞:MUKAI SHUTOKU 作曲:MUKAI SHUTOKU

俺は君と一緒にいるときにたくさんの話をしたようです。

君は酔っ払うと鉄板ネタを何度も話してしまう癖がありました。

自分の初体験のエピソードをとりとめなく語り続けるのです。

それぞれの過去を許容しながらの愛ですからこうしたこともよくあることでしょう。

ただ、君に固有のデリカシーのなさというものを向井秀徳は見事に表現しています。

いまの相手である俺にとっては君の初体験のエピソードなど一回聞けば十分です。

しかし相手の気持ちを考えることなく、君は自分のエピソードを幾度となく話します。

こういうちょっとした事柄が別れを導くのではないかなどの恐れなど君はお構いなしです。

それだけこの家猫少女が若かった証拠でしょう。

いい大人になってもなお初体験の話を交際相手にぺらぺら喋っていたらちょっと問題があります。

とはいえリスナーはこうした歌詞をあるあるネタのように受け止めました

若い頃にやりがちな失敗のひとつなのでしょう。

「初体験物語」というワードはアメリカ合衆国の超C級映画のタイトルです。

どうしても気になる方だけが検索してください。

あらすじを読んだだけでがっかりするような映画です。

向井秀徳が好むものは映画も音楽もUSものが多いのでしょうか。

君の主張が忘れられない

ギター・ロックが大好きだったから

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このレコードを君は嫌いって言った
この曲を笑いながらヘンな歌って言った

出典: IGGY POP FAN CLUB/作詞:MUKAI SHUTOKU 作曲:MUKAI SHUTOKU

いよいよタイトル「IGGY POP FAN CLUB」の核心に迫る箇所です。

同棲生活の中で音楽家である向井秀徳は色々な音楽を聴き漁っていました。

中でもお気に入りだったのがレジェンドであるIGGY POPだったのでしょう。

もちろん向井秀徳の趣味はこれだけでは収まりません。

ただIGGY POP And The Stoogesのようなギター・ロックが好きだったはずです。

PixiesにしてもHüsker Düにしてもギター・ロック・バンドであります。

The Stoogesといえば彼らのお父さん、あるいは祖父のような立場のバンドです。

向井秀徳の音楽的嗜好というもの歌詞の中にしっかりと反映させました。

アナログレコードで聴いていたというのがさらに気分を盛り上げるでしょう。

The Stoogesの再発CDは音圧のなさで有名でした。

アナログレコードで聴いたときのような感動がないとファンはIGGY POPに訴えます。

IGGY POPはその意見を参考にして超過剰音圧のリマスタリングCD盤だって出しました。

それでもアナログレコードの魅力には敵わないのです。

確かにヘンな歌い方をしているけれど

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そのIGGY POPのアナログレコードについて君はいい反応を示しません。

むしろ積極的に苦手、いやはっきりと嫌いだと断定するのです。

向井秀徳にとっては自分の同棲相手がIGGY POPのファンではないこと。

むしろIGGY POPのアンチでさえあることに落胆しました。

君のあの嘲笑うような発言のニュアンスをずっと記憶したままでいるのです。

好きな人と音楽での趣味が合うことは音楽家である彼にとっては大事なことでした。

なんたってIGGY POPはロックのアイコンですらあります。

歌い方に特徴があるからこそ今日の地位を築けたのです。

その歌い方が受け付けないわ、あははと笑われてはロックそのものを冒涜されたような気持ちになります。

とはいえ1977年のIGGY POPの2枚の名作「The Idiot」「Lust For Life」での歌唱法はヘンです。

David Bowieがプロデュースでロック史に遺る超名盤でしょう。

しかしこのアルバムでIGGY POPを初めて知ったらヘンな歌と君が思うのも仕方がないです。

あるアーティストについて知ろうとするならば、途中からよりもデビューから聴いた方がいいでしょう。

The StoogesでのIGGY POPを知った上で1970年代後半の彼に接すればそのモダンさに気付けます。

しかし最初から君は音楽に執着する心や意志というものはなかったのでしょう。

同棲生活が破綻した直接的な理由など向井秀徳は一言も触れません。

ただ、こうしたドラマの中に破綻に至る必然性が透けてくるのです。

最後に 遠ざかる青春に

醒めているのか熱いのか

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あの曲を いま聞いてる
忘れてた 君の顔のりんかくを一寸
思いだしたりしてみた

出典: IGGY POP FAN CLUB/作詞:MUKAI SHUTOKU 作曲:MUKAI SHUTOKU

もうクライマックスの歌詞になります。

「IGGY POP FAN CLUB」に限らずNUMBER GIRLの歌詞は情報量が少ない傾向があるのです。

それでも詩的なメランコリックさというものがリスナーにしっかりと伝わっていました。

向井秀徳が紡ぐ歌詞は最小限の言葉で詩情を醸し出すことに成功するのです。

特にこのクライマックスは俺が昔日の面影に思いを寄せるところに心が震えます。

思い出す記憶は決していいことばかりではないのです。

大好きなIGGY POPをあの娘は笑ったよななどと思っているのですから心境は複雑でしょう。

それでも若い頃の記憶というものは私たちに独特な郷愁を伝えてくれます。

ただ、ときの移ろいとともに記憶はどんどん曖昧になってしまうのです。

あれだけ夕暮れにうっとりと見つめていた君の顔を鮮明には思い出せない俺がいます。

同棲生活の維持にこらえきれなかったのはどちらのせいかななどと考えてしまうものです。

どちらも責めることはできなくて、別れた原因はただ若かったからという理由しか見つからないでしょう。

額に汗して歯を食いしばって色々なことに耐えていた訳でもないです。

しかし若い頃の記憶にある熱さというものをNUMBER GIRLはきちんと表現しています。

切なさを抱えながら生きてゆこう

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いまでも「IGGY POP FAN CLUB」の一員である俺がいます。

そして君はふてぶてしくて「IGGY POP FAN CLUB」のメンバーでもないのに俺の家で暮らしていました。

君が残したのはその顔の美しさだけであったかもしれません。

その肝心の美しさでさえ俺の記憶の中では朧気になってしまいました。

それでは一緒に暮らしていたことが無意味であったのではないかと思われる方もいらっしゃるでしょう。

しかし人生のある時期をともに誰かと過ごしていた経験は無駄にはなりません。

ただ、いまも胸に切なさを感じさせるだけでも影響力があった人生経験だったのです。

その後の人生に何らかの成長を促してくれたはずでしょう。

家猫の記憶だっていつまでも可愛かったなという愛着の気持ちを思い起こさせます。

家猫のような少女であるならその愛着というものはさらに大きなものがあるはずです。

男性は女性の存在をひたすら上書きしてゆきます。

過去の同棲相手のことを恨む気持ちは少ないでしょう。

IGGY POPを聴きながら君のことを思い出しても嫌な気分になったという素振りはありません。

ただ、俺は「IGGY POP FAN CLUB」のメンバーだけど、あの娘は違ったよなと改めて思うのです。

ならば、いずれは別れが必然だったろうという寂しい思いが胸に迫ります。

耳を聾するようなギターの音圧ですが、歌われる内容は非常にナイーブなものでした。

リスナーにしても聴き終えた後に訪れる静寂に何か切ない思い出が胸に去来するはずです。

多くのファンにとって特別な楽曲「IGGY POP FAN CLUB」をご紹介しました。

ここまで読んでいただいてありがとうございます。

OTOKAKEとNUMBER GIRLの軌跡