五感=全身の感覚
五感(ごかん)とは(中略)視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚をさす。(中略)人間の感覚全体を指すために「五感」という表現が用いられる場合もある(「五感を鋭くする」など)。
出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/五感
<五感>というと味覚や嗅覚も含めた5種類の感覚ですが、全身の感覚が鋭くなる場合などにも用いられます。
「PRAYER」のMVは全身の感覚という意味での<五感>を刺激する暗闇が描かれているのでは?と考えられます。
暗闇にいることでSIRUP自身が五感を刺激している、そしてそのMVを見る視聴者の五感も刺激されるということ。
そのうちSIRUPの立場から暗闇で五感を刺激する意味を考察しましょう。
SIRUPの五感を刺激する暗闇
MVでもまるでライブのようにリズムに乗るSIRUP。時には歌詞に合わせて身振り手振りを交えています。
しかし実際のライブと違ってお客さんはいません。そのため客席とステージという定まった方向もなし。
SIRUPを撮影しているカメラも近づいたり離れたり、留まったり回り込んだり、浮遊しています。
全方位に動くカメラとSIRUPの相乗効果で、まるでSIRUPが前もわからずさまよっているように見えるでしょう。
さらにSIRUPに当てられたスポットライトも点滅していて、まさに暗闇の中で暗中模索しているかのようです。
進むべき方向もわからない暗闇にいれば、自然と五感は研ぎ澄まされることでしょう。
あるいは自身の五感を刺激するためにあえて暗闇の中に身を置いているという解釈も成り立つかもしれません。
光と闇と音のシンクロ
続いて視聴者の立場に寄り添い、暗闇と五感の刺激について探りましょう。
暗闇をさまようSIRUP。これが「PRAYER」のMVすべてです。
光が当たると、かろうじて白いシャツと黒っぽいコート姿のSIRUPが立つ地面がわかるくらい…。
視覚的な情報量が少ない分、かえってよく見ようと目を凝らす視聴者もいるかもしれません。
SIRUPと同化し暗闇にいる気がして音に敏感になるとも考えられます。
光の差し込み方や点滅にもグルーヴ感(揺れ)があり、全身の感覚が研ぎ澄まされるのではないでしょうか。
光・闇・音の3点に特化してMVを見ると、音の絶妙なタイミングで光が点滅したり、闇になったりしています。
さらには光と闇と音と歌詞の4点がシンクロしていると受け取ることも可能。
そもそも暗闇を演出することによって強調される光と音楽。その掛け合いが刺激的というわけですね。
それでは受け手も五感を刺激される暗闇にはどのような意味があるのか、今度は歌詞から探ってみましょう。
歌詞から世界観を解釈
「PRAYER」には<闇>という歌詞は登場しません。むしろ<愛>という希望に満ちた言葉が出てきます。
そもそも「PRAYER」というタイトルが意味するのは<祈り>。闇ではなく光寄りのイメージですが…。
なぜ暗闇を強調したMVになっているのかがわかる部分の歌詞をピックアップしてみました。
苦い経験=暗闇
苦い水を飲んだ日々を
指折り数えてみても
後戻りなんて出来ない
言い聞かせてる I'm alright
出典: PRAYER/作詞:KYOtaro 作曲:KYOtaro・A.G.O
<苦い水>の一言で一気に暗闇に引きずり込まれるほどインパクトのある冒頭のラップ部分です。
水道水の味は地域によって違うとか湧き水はおいしいとか、言い出すと切りがありませんが……。
基本的に水は無味無臭のはず。それなのに苦いということは<苦い経験>を意味するわけですね。
誰しも<お先真っ暗>と感じるようなネガティブな出来事を体験したことがあるものでしょう。
暗いニュースばかりが飛び交うご時世です。世の中すべてが闇なのでは?と感じる向きもあるでしょう。
そんなどん底に立つことを大前提とした始まり。それでも前に進むしかない、大丈夫!と続きます。
暗闇だからこそ愛の光を!
愛を注げ Do it right
もし 明日が来なくても
どうか このまま Go on
Prayer Prayer
動き続けろ For your life
出典: PRAYER/作詞:KYOtaro 作曲:KYOtaro・A.G.O
3回繰り返されるサビ。ここに<愛>という歌詞が出てきます。負の感情の対極にあるのは愛なんですね。
あまりにもネガティブな出来事が起きると「何だ?この漫画みたいな状況は!」と笑えてくることがあります。
あるいはとことん落ち込むといつしか「ここがどん底」と感じて這い上がるしかなくなるとか。
いわゆる反転現象ですね。闇に染まるほど光を求め、つらいときこそ愛が身に染みるというもの。
現実的に考えて、人間、生きてさえいれば明日は必ずやってきます。
それでも<明日はない>と感じることだってあるでしょう。それこそがどん底状態。
もう裏返るしかないわけです。ということで愛、むしろ愛、だからこそ愛というメッセージです。
そしてMVは暗闇を描くことで光すなわち愛の大切さが浮き彫りになるという演出だったことがわかります。