月は「僕」とは関係なく進んでいきます。自分がいなくても地球が回り月が移動することを実感しているんですね。
自分には価値がないという風なニュアンスも感じられます。
では「君」についてはどうでしょうか。
「君が居ないなら~」とあるように、「僕」は「君」が居なければ朝はやってこないとまで思っています。
もちろん朝は必ずやってくるものです。時間が進み月が沈めば太陽は登ります。
ただ「僕」にとってはずっと夜、暗闇が続くと感じているのでしょう。
朝の日の光を感じるような明るい気持ちがないという感情が伝わってきます。
「僕」は「君」が居なくなってしまって、暗い気持ちや喪失感を抱えているんですね。
それだけ「僕」にとって「君」の存在が大きかったということでしょう。
考察③思い出と過去の情景
「雫」の歌詞を読むと、自分が飛べた頃の記憶や昔の楽しい思い出の話を感じることができるでしょう。
ですがその美しい思い出だけに縋りついて生きていくことはとても難しいことです。
楽しい思い出といえば、家族や恋人・仲間などが思い浮かぶ方もいるのではないでしょうか。
この曲を主題歌にしたアニメ「獣の奏者エリン」では、王獣のリランや母親がエリンにとっての「君」なのかもしれません。
またスキマスイッチの二人にとっては、お互いの存在がそうであったのかもしれませんね。
「雫」のサビ部分では、翼と「君」を一緒に無くしたことが強く歌われています。
「僕」は思い出を一緒に作った「君」を失ってしまったのですね。
それを踏まえて考えると「雫」で「僕」が抱えている悲しみや喪失感に対して共感を覚えるのではないでしょうか。
「獣の奏者エリン」のエリンに重ねて
さらに歌詞の考察を進めるために、「獣の奏者エリン」の物語とのリンクを掘り下げていきます。
「雫」の「僕」が感じていることとエリンの思いはどのように呼応するのでしょうか。
エリンの生い立ちや環境の変化などを見ることで考察していきたいと思います。
考察①エリンの育った環境
「獣の奏者エリン」の主人公エリンは、お母さんと一緒にとある村で暮らしていました。お父さんの姿はありません。
その村は地を這う大きな蛇のような獣「闘蛇」を飼育・世話をする役目がありました。
母は「闘蛇」の世話係として、エリンは様々なことに興味を持つ可愛い少女として描かれています。
村での生活は一見平和そうです。母と共に穏やかな生活をし、温かな日差しの中を走り回るエリンの姿が愛らしく感じます。
ただし村人とエリンとでは髪の色が違いました。母親に対しても、村人はどこかよそよそしい雰囲気もあります。
若干の不穏な空気はありますが、母親と一緒に生活をしているエリンは幸せそうです。
「雫」の中で歌われている楽しい思い出の話は、村で楽しく生活しているエリンの姿を彷彿とさせますね。
考察②母との別れ、失ったもの
そんな穏やかな村での生活は突如終わりを告げます。
村で世話をしていた「闘蛇」が死に、エリンの母が責任を取ることになったのです。
高い岩場から「闘蛇」の群れが泳ぐ水場に突き落とされる母親の姿は衝撃的でした。
「闘蛇」は獰猛な獣です。もし襲われたら無事では済まないでしょう。
エリンは母親を助けようと水の中に飛び込みます。ですが母を助けることはできずに、川に流されながら村を離れました。
母親をなくしてしまったエリンの姿が、翼と君をなくした「雫」の「僕」に重なる気がします。
楽しい思い出があることや無くしたものがあることが、「雫」の歌詞と「獣の奏者エリン」の世界感のリンクを思わせますね。
考察③それでもエリンは歩いていく
母との悲しい別れを経験したエリンですが、新たな出会いもありました。
新しい生活の中でエリンは、山で見た野生の王獣に心惹かれ王獣について学ぶ目標を立てます。
母親をなくした悲しみに打ち勝つように目標に向かい歩くエリン。
「雫」の最後の歌詞は、まさにこのエリン姿を彷彿とさせます。
翼の無い僕はもう飛べません。けれど歩いていくことはできます。
母親をなくしたエリンは昔のような「闘蛇」の村での生活はできません。けれどエリンは新しい目標を胸に抱いて歩き続けます。
こうして考えると「雫」と「獣の奏者エリン」の物語のリンクを感じられるのではないでしょうか。
サビに込められた想いはスキマスイッチが描く全てにはまる教訓
背中にあった翼は
君とともになくした
飛べた頃の記憶は
擦り傷のようには
消えてくれない
出典: 雫/作詞:スキマスイッチ 作曲:スキマスイッチ
いつだって翼と思えるくらい自分に力を与えてくれるものは、自分だけで手に入れたものではありません。
「君」に当てはまるのは恋人かもしれませんし、職場の仲間かもしれませんし、あるいは「獣の奏者エリン」のエリンもそうかもしれません。
でもそれを失ってしまう、無くしてしまう失敗を人は必ず経験し、記憶だけは心深く残ってしまうものです。
それはもうどんなに苦労しようと手に入れることのできないもの。
そうやって枯れるまで悔やんだ時、思い出として消化した翼を必要ないと言いつつ、君を胸に抱いて前に進む。
そんなどん底から這い上がる経験をした人ならば誰もが「雫」に共感するのです。