『紅とんぼ』について

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まず、ちあきなおみの『紅とんぼ』の発売日など、基本情報について紹介します。

1988年9月発売のシングル

抜群の歌唱力と表現力を持った昭和を代表する歌手ちあきなおみ。迫力の低音はしっとりとした歌との相性が良く、演歌も数多く歌ってきました。

そんな彼女の『紅とんぼ』(あかとんぼ)は、1988年10月にシングルとして発売された演歌の曲です。

作曲を手がけたのは、船村徹。彼は戦後の歌謡界を語る上で欠かすことのできない偉大な作曲家です。

日本らしい情緒を醸し出すサウンドと、小説のようなストーリー性のある哀愁漂う歌詞ちあきなおみの歌声とよく合っています。

団塊世代の方は昔を思い出して胸が熱くなるという方も多いのではないでしょうか?

また、当時を知らない若い方であっても、ちあきなおみの表情豊かな歌唱を耳にすればその鮮明な光景が目に浮かぶと思います。

第39回NHK紅白歌合戦に出場

その楽曲の素晴らしさにより、聴く人の心を鷲づかみにした『紅とんぼ』はロングセラーを記録。『喝采』などと並ぶ彼女の代表曲の1つになりました。

また、ちあきなおみはこの『紅とんぼ』で『第39回NHK紅白歌合戦』に出場を果たしています。

彼女は1992年に最愛の夫である郷鍈治を失い、引退こそしていませんが芸能活動を休止してしまいました。

そのため、現時点では『紅とんぼ』がNHK紅白歌合戦に出場した最後の曲となっています。

いつの日か、彼女がNHK紅白歌合戦で再び歌う姿が観られることを期待しているファンの方も少なくないでしょう。

ちあきなおみは、忘れることのできない魅力を持った偉大な歌手です。たとえ復活が叶わなくても、これからも語り継がれていくでしょう。

『紅とんぼ』の小説のような歌詞の意味を考察

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次に、『紅とんぼ』のストーリー性のある歌詞の意味を考察していきます。

1番

空(から)にしてって 酒も肴も
今日でおしまい 店仕舞
五年ありがとう 楽しかったわ
いろいろお世話になりました
しんみりしないでよ…ケンさん
新宿駅裏“紅とんぼ”
想い出してね…時々は

出典: 紅とんぼ/作詞:吉田旺 作曲:船村徹

この曲は、新宿駅裏にある『紅とんぼ』という飲み屋を店じまいする歌です。

「空にしてって」という歌詞が、最初から終わりを予感させます。

いつもは、「飲み過ぎよ」などと体を気づかって声をかけていたのではないかと想像してしまいますよね。

5年間続いていたお店であることがわかり、常連客からも愛されていたのでしょう。

そんな常連客の1人であるケンさんは、長い間通ってきた方なのかもしれません。大好きなお店が閉まってしまうのですから、「しんみり」もしますよね。

もちろん、女将である自分も悲しくないわけがありません。そのため、『赤とんぼ』というお店があったことを時々は思い出してほしいと願っています。

2番

いいのいいから ツケは帳消し
みつぐ相手もいないもの
だけどみなさん 飽きもしないで
よくよく通ってくれました
唄ってよ騒いでよ…しんちゃん
新宿駅裏“紅とんぼ”
想い出してね…時々は

出典: 紅とんぼ/作詞:吉田旺 作曲:船村徹

高度経済成長期には羽振りが良い人が多くいました。そのため、飲み屋も気前が良く、お金がある時に払う「ツケ」で飲める店がたくさんあったのです。

お店とお客の間でしっかりと信頼関係が築けていたのでしょう。現代ではツケで飲める店は少ないですよね。

『紅とんぼ』は今日で閉店なので、それまでの「ツケは帳消し」と言っています。

お金をもらったところで「みつぐ相手もいない」という冗談を言うところから、この女将の懐の深さが感じられるでしょう。

お店が閉店する時にそのような自虐的な冗談が言えるでしょうか?普通の人には無理ですよね。さすが、新宿駅の裏でお店を切り盛りしてきた女将だと思います。

そして、ツケなんかよりもしんちゃんにいつもと同じように「唄ってよ騒いでよ」とお願いしています。

最後だからこそ、普段と変わらないお店の雰囲気で終わりたいと思っているのではないでしょうか。

3番

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だからほんとよ 故里(くに)へ帰るの
誰も貰っちゃ くれないし
みんなありがとう うれしかったわ
あふれてきちゃった想い出が
笑ってよ 涕かないで…チーちゃん
新宿駅裏“紅とんぼ”
想い出してね…時々は

出典: 紅とんぼ/作詞:吉田旺 作曲:船村徹

『紅とんぼ』を閉める理由は、故郷へ帰るからなのだということがわかります。

「誰ももらっちゃくれないし」も冗談だと思います。お店を5年間続けてきた人がお店を閉めるのには、もっと複雑な理由があるでしょう。

「みんなありがとう」という歌詞が素晴らしいです。この飾らない言葉はストレートに心に響きます。涙がこぼれそうになりますよね。

その言葉によって、うれしかったり楽しかったりした思い出が頭に浮かんだのでしょう。

もちろん、まわりの人もそのような状況になれば、泣きそうになりますよね。

チーちゃんは名前から考えるとおそらく女の子なので、お店で働いている人なのかもしれません。

近くで女将を見てきたのであれば、その様子にお客よりもなおさらこみ上げるものがあるでしょう。

しかし、女将は笑って送り出してほしいのです。それが飲み屋の正しい姿だという想いがあるのではないでしょうか。

『紅とんぼ』の歌詞は曲の中で完結せずに、その後どうなったのかという余白を残しているところがとてもきれいです。 

時代の空気を切り取りながらも、いつまでも変わることのない生きることに対する深みや思いやりを感じさせる歌詞だと思います。