chelmicoらしい遊びが詰まった「Player」
二人の女性ラッパーからなるラップユニットchelmico(チェルミコ)。
続々とゴキゲンなナンバーを放つなかでも、代表曲の一つとなっているのが「Player」です。
Apple WatchのCMで聴いて、耳から離れない方もたくさんいるでしょう。
2018年9月には、バラエティ番組「ゴッドタン」のエンディングテーマにもなりました。
まず軽快なビートとキャッチーなベースのリフのイントロが非常に印象的。
ブルーノ・マーズやビルディング429へのオマージュが感じられます。
何より、金髪のRachel(レイチェル)さんとショートヘアのMamiko(マミコ)さんが繰り出すラップが痛快。
スキルはハンパないのに、見せつけるというより、さらりとしたフロウ(節回し)になっています。
しかも、かわいいおもしろさが満載!
さて、曲名のプレイヤーを直訳すると「プレイする人」になります。
このプレイには遊び、音楽、スポーツ、ゲームなどさまざまな意味が含まれそうです。
ラップを披露することもプレイ。
MVにはサッカー、カーレース、シューティング、格闘技、ゴルフ、麻雀、野球といったプレイが登場します。
chelmicoの二人がゲームをするプレイヤーだったり、ゲームの中に入り込んだり。
最後は全体が一つのゲームで、そのゲームをしていたのがchelmicoの二人だったというオチです。
つまり、入れ子構造のメタフィクションになっているということ。
この辺りはRIP SLYME「JOINT」のMVへのオマージュなのかもしれません。
こうしたMVを踏まえつつ、今回はリリック、歌詞について解釈します。
二人のプレイヤーはいったい何に挑戦しているのでしょうか。
最後に開くドアの先で待つものにも注目しつつ、歌詞を見ていきましょう。
一番の歌詞をチェック
一人目の挑戦者はRachel
本編開始 プレイヤー1 私
いいとこ見せたいし 要注目
アップは済んでる
健康優良児 こっちガラ空き
目くらまし ヘイ!パス!パス!
~パッ!ヘイ!パッ!
…ッナイシュ~
出典: Player/作詞:Rachel・Mamiko 作曲:ryo takahashi・Rachel・Mamiko
冒頭の一言は、イントロに続いて肝心のラップが始まると解釈できます。
最初にラップを披露するのは金髪のRachelさんです。
一人目の挑戦者として準備万端。
気合いの入ったフロウをお届けするからしっかり聴いてほしい。
そんなメッセージでしょう。
ラップのリリックにはいろいろあり、どちらかというとやんちゃな内容が多いかもしれません。
chelmicoのように品行方正なリリックを書くラッパーは少ないから狙い目。
と言いかけたところでその意味をあまり深読みされたくないのでしょうか。
サッカーのボールを蹴るかのごとく、二人目の挑戦者へつなごうとします。
ところがそのボールはゴールに入ったということで、一人目の挑戦はどうやら首尾よくまとまったようです。
二人目の挑戦者はMamiko
to that break it down
吸う深呼吸
プレイヤー2 取る連絡 電波フル
ルール無視
自信あるふりしときゃ平気
しーっ うっさいわね
gotta be me
出典: Player/作詞:Rachel・Mamiko 作曲:ryo takahashi・Rachel・Mamiko
続いてラップを披露するのがショートヘアのMamikoさん
一行目の英語は「落ち着く、テンションを抑える」といった意味です。
ON AND ON TO DA BREAK DOWN
てな具合に ええ行きたいっスね
いっスねーっ イェーッ!!
なんてねーっ
出典: 今夜はブギー・バック (nice vocal)/作詞:K.OZAWA 作曲:M.KOSHIMA
小沢健二さんとスチャダラパーがコラボした「今夜はブギー・バック」へのオマージュ。
そう深読みしてみるのもおもしろいかもしれません。
また「深く息をする」というと息を吐くほうをイメージしがちですが、逆手にとって息を吸う。
そんな歌詞から読み取れるのは、二人目の挑戦者として一人目から上手く引き継ぐという心構えです。
やはり気合十分ですが、セオリーどおりのスタイルはお好みではない様子。
たとえ型破りでも、態度さえ堂々としていれば何とかなるとお考えです。
ここは「堂々としたラップは雰囲気だけ?」というツッコミが聞こえた体(てい)になっています。
そんな声に対して「静かに!」と釘を刺すイメージです。
最後に「自分らしくやろう」と締めくくっています。
何に挑戦している?
運転や人工知能に挑戦?
免許もないけどrent-a-car
計算外も計算内 アンタAIかい
なんとなくの連帯感
ヒューマン由来
フロアに落ちても3秒以内
それ過ぎても大抵は
火を通せば大丈夫
出典: Player/作詞:Rachel・Mamiko 作曲:ryo takahashi・Rachel・Mamiko
曲名の意味は何重にも考えられます。
ただ、これまでは「ラップに挑戦」という意味合いが強く感じられました。
ところがここからはそのうえにさまざまなニュアンスが乗っかってきます。
ライセンスもなく車を運転できるのは、やはりゲームの世界でしょう。
「セオリーどおりのラップはしない」という宣言を受けて、まるでライセンスなしのカーレース。
そんな返しをしています。
想定外の出来事が起きると普通はあわてるものですが、そこまで想定済みなんて人工知能みたい。
これは先ほどの「堂々とした態度をしているだけ」という告白に対するツッコミでしょう。
こうして二人のラッパーがさりげなく連携を取り合えるのは、人間だから。
人工知能に対するアンサーです。
こうして返答を続けた後は新展開。
急に食べ物を床にこぼしたときのあるある話が繰り広げられます。
車の運転やゲーム、人工知能、食べ物といったさまざまな「遊び」を匂わせつつ、結局は音楽、ラップの話。
そうまとめるためにクラブやライブハウスの踊り場をイメージさせる英語を使ったのでしょう。
独自のスタイルでラップを披露することに自信満々というわけではないけれど、失敗しても何とかなる。
こうしたニュアンスをハイセンスな言葉選びで表現しています。