極限を生き抜く力を持つのはヒーローだけじゃない
もし、いきなり世界が、思いもよらない姿を見せたらどうでしょう。
あなたはそこで勇敢に戦い、生き残れる気がしますか?
突如として崩壊しつつある世界の中に放り込まれ、一体どれだけの人がヒーローになれるのでしょう。
ヒーローにはなれない男の切ない心情を、菅田将暉が気持ちたっぷりに歌い上げる一曲があります。
2021年に放送された竹内涼真主演のドラマ「君と世界が終わる日に」で主題歌となった、【星を仰ぐ】です。
Huluと共同製作のこのドラマは、ゾンビになってしまうウイルスが蔓延した世界が舞台となっています。
自動車整備工の青年・間宮響は高校時代から交際して現在同棲中の研修医である恋人・小笠原来美にプロポーズしようと準備していたある日、トンネル崩落事故に巻き込まれてしまう。4日後、崩落したトンネルから命からがら響が脱出すると外の世界は一変しており、交通網は崩壊して街中に血痕が残され、ラジオからは緊急避難指示が繰り返し流れていた。
出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/君と世界が終わる日に
そんな状況の中で主人公が恋人を探し始めることで、物語は幕を開けます。
竹内涼真演じる間宮響は、どこにでもいるごく平凡な男性です。
超能力や卓越した身体能力など、何か特別な力があるわけでもありません。
ただ突然現れた異常な世界を前にし、狼狽えながらも前に進んで行くだけです。
そんな彼の「普通さ」が、ゾンビを題材にしたこのドラマをむしろリアルにしているといえます。
極限状態で生き残れるのは、スーパーパワーを持ったヒーローだけではないのです。
一般人が必死に生き残ろうと足掻く様には、多くの人が感情移入できることでしょう。
菅田将暉はこの主題歌を作るにあたり、ドラマスタッフと綿密な打ち合わせを行ったそうです。
その甲斐あって、主人公の心情を余すところなく表現した主題歌になったと、竹内涼真も語っています。
歌詞に溢れる平凡な男の恋人を求める気持ちを、重要なワードを拾って解説していきます。
どこか自信なさげな男の姿
「背中で語る」なんて言葉もありますが、映像の中の彼はしょんぼりとしたようにも見えます。
その姿とリンクするように、最初の歌詞には自信のない男性の様子が見て取れるはずです。
彼女への甘えが抜けきらない
見兼ねた僕の街
よくある言葉じゃ浮かれない
沈んだ心 なだめる
君に甘え過ぎてダメだな
出典: 星を仰ぐ/作詞:Mega Shinnosuke 作曲:Mega Shinnosuke
自信なさげな菅田将暉の背中が歌うのは、【星を仰ぐ】の主人公である男性の心情です。
竹内涼真が演じた、ドラマの主人公として見ることもできますね。
このパートの歌詞には、少し頼りない「僕」の姿があります。
それはもしかしたら、物語冒頭の、恋人へのプロポーズに関してかもしれません。
あるいは、自分は自動車修理工で彼女は研修医という、俗にいう「格差婚」のことかもしれません。
仕事にランクがあるとは言い難いですが、男性としてはやはり収入面での格差は辛いところ。
そういった毎日の諸々のことで、「僕」は「君」に甘えてしまっている自覚があるのでしょう。
望むほどに上手くいかなくなってしまう
澄んでる君の瞳に
写った僕を咎めたい
何かを欲しくなるほど
間違い、 彷徨い、 崩れてしまうな
出典: 星を仰ぐ/作詞:Mega Shinnosuke 作曲:Mega Shinnosuke
引用した歌詞の1行目と2行目でいわれているのは、先述の「僕」の甘えのことではないでしょうか。
情けない自分のことすら包むように受け入れてくれる彼女の瞳に、自分の姿が映っています。
ここに敢えて、「写る」というフレーズを使っていることにも注目しましょう。
「写る」とは本来、フィルムなどに画像が残ることを意味します。
瞳や水面といった物の表面に画像があることは、「映る」と表現するのが正解です。
まさか間違いということはないと思いますので、意図的に使われていると考えるのが妥当でしょう。
この歌詞の場合、「まるで写真のように切り取られた姿」と考えることはできないでしょうか。
もしかしたらリアルタイムの話ではなく、かつてそんな自分が映っていたと考えることもできます。
彼女の瞳に切り取られた自信のない自分と決別したいという、意思の表れかもしれません。
そんな「僕」は何かを切望すればするほど空回りして、物事を上手く進められないのでしょう。
欲しいものへの期待が膨らみ過ぎて、いろいろ足踏みをしてしまうのです。
一変した世界で生き抜くということ
疲れた地球を背に 今宵は月が笑う
考えず、 夢中を生きた
無垢じゃ、 辛いよ
出典: 星を仰ぐ/作詞:Mega Shinnosuke 作曲:Mega Shinnosuke
このパートは、ドラマの世界観を非常によく表している気がします。
ウイルスによって人々がゾンビ化してしまう世界なんて、恐ろしいを通り越して笑えてくるくらいです。
大いなる危機に飲み込まれようとしている地球を、月が笑うように照らしているのでしょう。
そんな情景が思い浮かぶ歌詞ではないでしょうか。
極限状態の中では夢中であるしかない
ゾンビに噛まれるとゾンビになってしまうというのは、王道の設定です。
竹内涼真の出演したこのドラマもまた、そんな王道を踏襲しているといえます。
今の今まで普通だった人が、ウイルスに感染してゾンビになってしまいます。
そしてそれを悲しむ間もなく、今度はその人を敵として、逃げるか倒すしかなくなるのです。
これを極限状態といわずして、一体何というのでしょう。
単なる自動車修理工だった主人公はただ自分の考えに従って、無我夢中で生き抜くしかないのです。
誰を見捨て、誰を倒し、誰を憎むかなんて、じっくりと考えている暇はありません。
それが、一変してしまった世界で生き残るための手段となってしまったのでしょう。