カルト・ムーヴィー「マジカル・ミステリー・ツアー」
「サージェント・ペパーズ」から間もない時期
世界初のコンセプト・アルバム「サージェント・ペパーズ」をリリースしたばかりのビートルズ。
さっそく次のプロジェクトに取り掛かります。
メンバーが行き先の分からないバスに乗って奇想天外の旅をするはずだった企画です。
「マジカル・ミステリー・ツアー」
イギリスとアメリカではサウンド・トラックの発売方法が違いました。
イギリスでは2枚組EPとして、アメリカではLPとして発売されています。
収録曲もフォーマットも違うのです。
それというのも本国・イギリスでの不評が響いて、アメリカでの公開は10年後になります。
映画「マジカル・ミステリー・ツアー」はカルト・ムーヴィー扱いでした。
主題歌の「マジカル・ミステリー・ツアー」の方はポップですからそれなりのヒットになります。
しかしテレビ映画は散々な批評が投げつけられました。
今回の記事では主題歌の「マジカル・ミステリー・ツアー」を和訳して解説します。
これから世にも不思議なツアーに出かけましょう。
Roll upというイディオム
サーカスの呼び込みを真似しました
Roll up,Roll up for the mystery tour.
Roll up,Roll up for the mystery tour.
出典: MAGICAL MYSTERY TOUR/作詞:Lennon=McCartney 作曲:Lennon=McCartney
歌い出しです。
歌詞の全編がこのイディオムの繰り返しといっても過言ではないのでご注意ください。
「いらっしゃい ミステリー・ツアーにいらっしゃいませ
いらっしゃい ミステリー・ツアーにいらっしゃいませ」
Roll upを「いらっしゃい」と訳出しました。
これはくどくなるのを防ぐためです。
Roll upはサーカスや見世物小屋の呼び込みの言葉。
そのために日本の文化に置き換えると「寄ってらっしゃい 観てらっしゃい」という決り文句になります。
これをいちいち「寄ってらっしゃい 観てらっしゃい」で訳出するとかなりくどくなるのです。
何せこの歌詞の殆どすべてのラインにRoll upというイディオムが使われているのですから。
ポールとジョンの共作
「マジカル・ミステリー・ツアー」という曲は歌詞に重きを置くよりもそのサウンドを聴いた方が楽しいです。
中期ビートルズの多重録音での分厚いサウンドが最大の聴きどころでしょう。
昔はポール・マッカートニーによる作詞作曲だと思われていました。
しかしポールの証言によるとジョン・レノンとの共作だそうです。
実際、ジョン・レノンもリード・ボーカルをとる箇所があります。
ジョンも作詞作曲の両面で関与したからでしょう。
ふたりには不仲説がありますが、これはメディアによってつくられたものです。
メディアが煽るうちに本人たちもそんな気がしてきたという怖ろしいお話。
不良少年時代からの仲間ですから、他人にあれこれいわれたくないものでしょう。
ポールとジョンのふたりがリード・ボーカル。
こうした形態はスイッチング・ボーカルといいます。
ビートルズでは初期からよく見られるスタイルです。
「世界初のビデオ・クリップ集」
なぜ当時は酷評されたのか
Roll up (And that's an invitation)
Roll up for the mystery tour.
Roll up (To make a reservation)
Roll up for the mystery tour.
出典: MAGICAL MYSTERY TOUR/作詞:Lennon=McCartney 作曲:Lennon=McCartney
ご覧の通りでRoll upばかりです。
歌詞を和訳してみます。
「いらっしゃい (あれこそ招待状さ)
ミステリー・ツアーにいらっしゃいませ
いらっしゃい (予約しないとね)
ミステリー・ツアーにいらっしゃいませ」
「マジカル・ミステリー・ツアー」の発案者はポールですが、実際のテレビ映画での主役はリンゴです。
上述の通りでイギリスでの放映直後は非常に評判が悪かったもの。
そんな悪評が祟ったために日本では製作発表から10年後の1977年にようやく公開されます。
その頃にはジョン・レノンはハウス・ハズバンド状態で隠遁していました。
アメリカでもカルト・ムーヴィーとして需要があっただけです。
しかし誰も彼もがMVを創り出す1980年代になると評価が変わりました。
「世界初のビデオ・クリップ集」
そんな認識が広がります。
ジョン・レノンはすでに凶弾に倒れて鬼籍に入っていたので残念です。
ただし、本人たちは当時もそこそこ満足していたよう。
特に不満だったという声はメンバー自身の声では聴かれません。
何故、この作品がこれほど酷評されるのか分からなかったのかも。