彼は一見道化にも見える人柄を演じながら、それによって様々なものを手に入れてきました。
元より持っていた容姿はもちろん、自分のことを支持してくれるファン、そして同じチームの仲間。
表の顔であるデザイナーとしても、彼は非常に有名な人物でもあります。
多くの人から愛を贈られる存在として、飴村乱数はこれまで生きてきました。
ここまでの話を聞くと、誰からも愛される存在として、彼の姿はとても幸せな人物に映るでしょう。
彼には足りないものも、持っていないものも何もない。
これからもそんな満たされた人間として、飴村乱数は生きていくはずでした。
飴村乱数を襲う不穏な違和感
あれ おかしいな あれれ、調子 悪いかも
あれ あれれ(あれ) おかしいな
ポッケにしまっていた
あれがない(なーい)
出典: ピンク色の愛/作詞:Amy Ray 作曲:Amy Ray
何もかもが順調に思えた、はずだったのに。ある時、飴村乱数を小さな違和感が襲います。
違和感の発端は、いつもポケットに入れていた「あれ」。
本来あるはずの「あれ」がないことに気付いた彼は、酷く慌てた様子でそれを探しているようですね。
その「あれ」の正体とは、彼がいつも手にしていたキャンディの事。
彼の姿を思い浮かべた時、多くのファンがきっと飴を手にする彼のシルエットを想像するでしょう。
まさにそんな、彼の存在とは切っても切り離せないアイテムであるキャンディ。
普通私たちにとって、キャンディというお菓子はそこまで必要不可欠なアイテムではありません。
しかし実は彼にとって飴が手元にない事は、すなわち死活問題を表すほどの重大な事だったのです。
キャンディがないと生きられない彼
それ じゃさ ボクが生きる 明日はない
息が続かない(なーい)
あれ そう あれがないのなら
もう ここには いれはしない
出典: ピンク色の愛/作詞:Amy Ray 作曲:Amy Ray
飴のない飴村乱数は、比喩ではなく明日を生きられません。
なぜなら、キャンディは彼にとっての生命維持装置だったからです。
彼の正体はヒプマイに登場する男性陣の敵でもある、中央区と呼ばれる組織から遣わされたスパイ。
そして彼は、その中央区により開発された人造人間・クローンでもありました。
普通の人間ではない彼のエネルギー源が、あの特殊なキャンディだったという訳ですね。
元々スパイとして、仲間であった味方同士を引き裂く為に暗躍を続けていた飴村乱数。
しかし様々な出会いの中で、心を持たぬクローンであるはずの彼にいつしか小さな感情が生まれます。
スパイ任務が失敗すれば、クローンである彼には命はありません。
けれど彼が死んでも、瓜二つの彼の代わりは大勢います。元々、それが飴村乱数の運命でした。
ですが次第に、今任務に就く彼の中には「生きたい」という小さな願いが生まれてしまいます。
生きて自分の仲間である友人たちと、心から笑えるような普通の人間になりたい、と。
それを知った中央区に、彼は生命維持装置であるキャンディの供給を止められてしまったのです。
本当に大切なものは、すぐそばにあったんだ
最期に見た走馬灯に駆けていく記憶は
道が途絶えてゆく
日々が途切れてゆく
意識遠のく中
あの日々を思い出す
出典: ピンク色の愛/作詞:Amy Ray 作曲:Amy Ray
指令に忠実に従わない飴村乱数の存在など、中央区にとっては不要です。
なぜなら彼は、指令に忠実に従うことのみを目的に生み出された命なのですから。
万が一寝返ったりされれば、むしろ中央区にとっては大損害。
その為キャンディの供給を止めるだけでなく、彼らは確実に飴村乱数の息の根を止めにかかります。
自分を始末する為に現れた以前の味方に対し、はっきりと謀反の意志を告げる彼。
当然、そんな彼を中央区が黙って見過ごすわけにはいきません。
味方を裏切り、エネルギー源を止められ、彼の命は少しずつ死へと近づいていきます。
そんな時思い出したのは、かつて仲間と過ごした楽しかった日々の記憶。
仮初のつもりだった絆や、友や仲間への思い。
それらがいつしか、何物にも代えがたい大事なものになっていた事に、彼は今わの際で気づくのです。
お前が何者でも、仲間だから助ける!
超えられない
また一つの壁の前に 留まってるまんま
けど俺には 仲間がそばにいてくれていたのさ
出典: ピンク色の愛/作詞:Amy Ray 作曲:Amy Ray
自分の命も、もはやこれまで。そう最期の覚悟を決めた瞬間。
…彼の前に現れたのは、仲間であるFling Posseの2人でした。
もちろん彼らにも自分が本当はスパイである事や、敵である中央区の者であることは伝えていません。
けれどそれでも、2人は自分を助ける為に手を差し伸べてくれたのです。
お前が本当は何者かなんて知ったこっちゃない。
けれどお前が今、俺たちの仲間である事に代わりはないから。
仲間が困ったら助けるのが、仲間である俺たちの役目だろ?
仮初だと思っていた2人との絆は、いつしか何よりも強く堅い絆へと、大きく変化を遂げていたのです。