人生のターニングポイントに作られた曲
誰にでも人生の分岐点は訪れます。
それは国民的シンガーと称される宇多田ヒカルも同様のこと。
「Be My Last」は2005年、宇多田ヒカルの人生の転換期に作られた曲です。
今回は「Be My Last」の歌詞に込められた深い意味を紐解いていきたいと思います。
短編映画のようなMV
全編プラハで撮影されたMV

チェコ共和国のプラハを舞台にした「Be My Last」のMVを見てみましょう。
8ミリフィルムで撮影されたと思しき幻想的な映像。
ストーリー性を重視しつつ細かなカット割りで構成された短編映画のようなMVでした。
プラハをロケ地に選んだ理由は露骨なドラマ性を感じさせない場所としてピッタリだったから。
ジャケット写真も同様にプラハで撮影されています。
監督は当時の連れ合いであった紀里谷和明氏。
「Be My Last」の前作「誰かの願いが叶うころ」は紀里谷氏の作品の主題歌でもあります。
同時に宇多田ヒカルが楽曲制作を全編通して1人で行うようになった作品です。
紀里谷氏と宇多田ヒカルは後に別々の道を歩むことに...。
それでも宇多田ヒカルにとって紀里谷氏との出会いは重要なタームになります。
全米デビュー後国内では最初の作品
2004年に宇多田ヒカルは結婚という重要な局面を迎えました。
そして「誰かの願いが叶うころ」を最後に活動の拠点を海外へ。
Utada名義で全米デビューアルバム「Exodus」を発表。
「Be My Last」は「Exodus」完成後に作られた曲であり再び国内での活動を宣言する作品でもありました。
『Be My Last』の歌詞の意味することとは?
母さんどうして
育てたものまで
自分で壊さなきゃならない日がくるの?
出典: Be My Last/作詞:宇多田ヒカル 作曲:宇多田ヒカル
「Be My Last」の歌詞は非常に短いセンテンスで構成されています。
楽曲制作の段階で極限まで言葉を選び抜いたのかもしれませんね。
つまり宇多田ヒカルはこの短い歌詞の中に伝えたいことを濃縮しているということです。
大切に育んできた恋心。友人と語りあかした夜。
子どもの頃思い描いていた夢。お母さんとの思い出。
オトナになったとき「どうして壊してしまったのだろう?」
そう思うことは誰にでもあるのではないでしょうか?
「Be My Last」は映画「春の雪」の主題歌として書き下ろされています。
「春の雪」は三島由紀夫原作の長編小説「豊饒の海」の一篇を原作にした映画。
三島由紀夫が小説で描いたのは愛してはいけない人との恋愛。
そして生まれ変わりの物語です。
育てたものとは想い人との大切な関係性。
捨てられないのは大切な思い出
バラバラになったコラージュ
捨てられないのは
何も繋げない手
君の手つないだ時だって…
出典: Be My Last/作詞:宇多田ヒカル 作曲:宇多田ヒカル
コラージュとは切り絵で作られた作品。
つまり積み重ねてきた思い出・記憶のことです。
大切に育んできた想い人との関係はすでに元に戻すことができない。
しかし心の中の記憶を消すことなどできません。
想い出を消す方法はただひとつ...。
何も繋げない手は「つながることのできない心」のメタファーでしょう。
三島作品で一度は結ばれた二人。
しかしあの日の思い出はもう戻ってくることはありません。
どうしてあの時こうしなかったのだろう?
心の向くままに想いを遂げていれば...。
そんな後悔の気持ちを表した歌詞が続きます。