もうひとりでいいという思い

Official髭男dism【愛なんだが】歌詞の意味を解説!「一人でいい」と言われてしまった理由は?の画像

君が解消したいものは僕との暮らしだけではないかもしれません。

いっそひとりで生きたいという思いには社会とも距離を置きたいという気持ちが見え隠れします。

これは傾向的に考えるとうつ症状の人が陥りやすい思考パターンです。

しかし藤原聡はそこに「闇」も「病み」も滲ませません

愛の熱という本来は人間の悦びの源であるものを不要と考える君の思考。

いつしか嫌な思いを「させられる」のではないかという君の予測。

愛という双方が持ち寄って育ててゆくものに背を向けたような発言を君はしています。

いずれ苦しい目に遭わされるという君の受動的な態度では元から愛など育てることができません。

愛を損得という秤で見極めるのも物事の本質を捉え損ねています。

能動的な態度で人生に臨むという大人の基本姿勢のようなものが君の中でぽっかり抜け落ちました。

君は相当な気疲れを背負って生きているうちにどこか壊れてしまったのです。

僕は壊れた君の姿にこの朝、ようやく気付かされます。

一緒に暮らしていたのですから誰よりも気遣わなくてはいけなかった君のメンタル。

人は壊れものなのだと僕が気付いたときにはもう遅すぎました。

愛の復活のために

献身的な君だったのに

Official髭男dism【愛なんだが】歌詞の意味を解説!「一人でいい」と言われてしまった理由は?の画像

歩みの早い君に合わせて走ってなんとかついてきたけど
「疲れた?」なんて気を遣わせていたことに気付かなくて
でも、「バイバイ」なんてこう面と向かって言われるなんて思ってなくて
「最愛」なんて 堅い難い言葉で 縛って
なんとか 繋ぎ留めた気でいただけ
そんな頭の固い僕に あと一度だけ悪あがきをさせて

出典: 愛なんだが/作詞:藤原聡 作曲:藤原聡

盛んに韻を踏む藤原聡の歌詞です。

インディーズ時代からこうした作詞法を得意にしていたのが分かります。

疲れているのはどう考えても君の方です。

しかし君は僕のために日頃から疲れているかどうか尋ねていました。

疲弊してゆく君の心に鈍感な僕をきっかけに愛をすべて否定してゆくような状況にまで陥ります。

もともとの君は愛に対して期待値が高かったのかもしれません。

待望のふたり暮らしが始まっていざとなったら愛の虚しさに気付いてしまったのでしょうか。

献身的な愛の注ぎ方に疲れてしまった君。

僕は突然自分の犯した罪に気付いたように君に取り入ろうとします。

復縁を期待する僕の努力は実るのでしょうか。

君はもう愛のすべてに背を向けてしまう覚悟を決めているのです。

実情を考えると通例はポップソングにはならないシチュエーションでしょう。

この別れ話は歌詞単体で抜き出さないと深刻さが分かりません。

僕の決定的甘さとは

Official髭男dism【愛なんだが】歌詞の意味を解説!「一人でいい」と言われてしまった理由は?の画像

僕は愛しているという言葉をかけていれば君の気持ちを繋ぎ止められると考えていました。

その考えが甘かったことを思い知らされて動揺しています。

君は愛をもっと実体として感じたかったのかもしれません。

愛している分だけ愛されているという実感を伴わない生活に嫌気を差したのでしょう。

愛というのは無償で差し出すものかもしれません。

愛されるという見返りが必要というのは、たとえば片想いをしている人には贅沢な話に聴こえるでしょう。

しかし君は愛に消耗する思いや寂しさを覚えてしまうのです。

ここで愛というものはという根本的な議論をしても君の心には刺さらないのかもしれません。

僕は仕事を優先にしていて君との生活の基礎は愛であることを忘れてしまったのでしょう。

君より先に目を醒まして仕事へ出掛ける準備をする月曜日の朝。

愛を見失っていたのは君なのか僕なのか分からなくなる状況があります。

少なくともこれまでの生活の中でより相手を気遣っていたのは君だったと僕は気付くのです。

気付いたときにはもう手遅れのような状況ですが、この歌はあまり悲劇性を感じさせません。

僕の中の君を失いたくないという想いだけに焦点を合わせているのです。

そのためリスナーは愛の復活のために僕を応援したいという一心になるのでしょう。

「愛なんだが」と未来

ふたりの生活の原点へ

Official髭男dism【愛なんだが】歌詞の意味を解説!「一人でいい」と言われてしまった理由は?の画像

どうせ愛なんてさ 言わなくても通じてるから
そう信じて今まで歩いてきたんだが
不安にさせていたんなら 不満が溜まってたなら
僕が変わっていくから もう一度だけ
だって 二人の間から 生まれてきた愛だから
それが続くことが生きがいになっていたから
悲しい思いなんか もう絶対にさせないから
「もう愛なんて要らない 一人でいい」なんて
言わせないと誓うよ
「バイバイ」なんてもう言わせない

出典: 愛なんだが/作詞:藤原聡 作曲:藤原聡

いよいよクライマックスの歌詞です

「愛なんだが」は饒舌な歌詞に圧倒されるのですがあっという間に最後になります。

愛は言葉だけでも生命を繋げません。

様々な裏付けがないと愛を永遠のものにすることはできないのです。

僕は君に簡単な言葉を伝えた程度で満足していました。

これでは君は愛されているという実感を獲られません。

こうした傾向のために君は僕への愛を消耗してしまうのです。

いよいよ君は我慢の限界に達します。

僕どころか愛や社会生活すべてを拒絶したくなるほどに疲弊してしまいました。

実際にこうした局面に遭遇したならばその人の心をしばらく休ませてあげる必要があるでしょう。

しかし私たちリスナーはこの「愛なんだが」をフィクションとして消費しています。

僕が君の愛を取り戻すための努力を開始するその姿に感情移入するのです。

というのも君が疲弊した理由には同情できても、愛のすべてに背を向けてしまう君には共感しえません。

この歌詞をリアルに俯瞰すると僕の愛を伝える能力が稚さかった事実が浮かび上がります。

しかしそうした聴き方をさせないために藤原聡は様々な言葉を動員しているのです。

僕はふたりが愛の生活を始めた原点に立ち返ろうとしています。

朝に覚醒めるという仕掛け

僕は改心してこれから君との関係を築き直そうとするのです。

いきなり別れを切り出されて愛を失うのではないかという危機感の中で初めて君の大切さに気付きました。

愛というものは目に見えないものですからお互いの気持ちを常に確認し合う必要があるのかも。

若い頃の愛は中々持続できません。

相手の愛を繋ぎ止められるスキルがお互いに稚くて不足しているからでしょう。

阿吽の呼吸の中で愛を確認できるようになるまでには長い時間という裏付けが必要です。

僕と君には言葉にしなくても安心できるだけの愛の裏付けがなかったのでしょう。

愛を注いでも見返りがないと思わされるくらいならばひとりでいい。

君が切実な想いを吐露した背景はひとえに僕の努力不足が原因です。

愛というものはいつもそこにあるものだという思い込みによって僕は大切な人を失いかけます。

愛はどんな固定観念もはねのけるのです。

人と人との間に生まれるものですから絶えず揺れ動くもので不変なものではないのでしょう。

愛なんだが

僕が自分で語るように愛についての思い込みで現実を見誤ることがあります。

君は再び僕に対して心を開けるでしょうか。

そのためには僕の方が変わってゆくことが必要だと歌います。

当然かもしれませんが僕は君の心変わりを一切責めません。

危機的な状況の中で現実に覚醒めて必死になって愛を紡ごうとする僕。

僕はこの歌の中で覚醒して成長を誓うのです。

愛というものは不変ではなく絶えず変わってゆく生き物なのでしょう。

そうした変わりゆく愛に対応してゆくことが必要だと僕とともに学ぶことができます。

不思議なほどにリアルさを感じない歌詞ですが愛の本質は掴んでいるのです。

ひとりでいいなんて君にいわせてしまったのは君が犯した罪のせいでしょう。

しかしこれからの僕は君に疲れていないかを確認する側に変わるのです。

僕の君への想いはこれからこそ熱いものに成長するでしょう。

すべてがある月曜日の朝の出来事です。

朝になって愛の真実に覚醒める。

このストーリーが夜の出来事だったならばもっとドロドロしたかもしれません。

藤原聡は朝に人が覚醒めるという普遍的な営みの中で愛の一場面を描いてみせました。

月曜日はすべての始まりですからこの出来事を機会に愛も生まれ変わるのです。

巧みに練られた歌詞の構成に驚かされます。

ひとりでいいという寂しい言葉がもうつぶやかれないことを祈りましょう。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。

OTOKAKEとOfficial髭男dismの軌跡