4人組バンド「Official髭男dism」
繊細で優しさの溢れる歌詞が魅力的なバンド、Official髭男dism。
人々を包み込むような優しい演奏と、心をグッと掴むハイトーンボイスが特徴的です。
今回はそんな彼らの楽曲の中から、花の名がタイトルについた『Rowan』をご紹介します。
こちらは彼らにとってメジャー1作目のアルバム『Traveler』に収録された楽曲。
大ヒットを記録した『Pretender』や『宿命』なども収録されており、大満足の作品です。
そんなアルバムの4曲目に収録された『Rowan』。
作詞作曲のほとんどをボーカルの藤原聡さんが手掛ける中、こちらはギターの小笹大輔さんが担当しました。
別れを経験した1組のカップルにスポットを当てた歌詞では、本来避けておきたい「痛み」に言及されています。
恋人にネガティブな「痛み」を残したいと願った理由はいったいどこにあるのでしょうか?
そこに込められた、主人公の切ない願いに迫っていきましょう。
大切な記憶の封印を解く
明るいはずなのに、追いやられていた記憶
埃かぶってしまった 思い出に縋りついて
僕の中に君を創り上げた
退屈を飼い慣らした 色のないこの街で
誰でもない誰かになりたかった
出典: Rowan/作詞:小笹大輔 作曲:小笹大輔
主人公は、どこにでもいる普通の「誰か」。
どうやら、自分がこれまで過ごしてきた時間を振り返っているようです。
こんなことがあったなあ。あんなこともあったなあ。
そんな風に、思い出を振り返ったことがある人は多いでしょう。
この楽曲の主人公も同じ。自分自身、これまで経験してきた様々なことを思い起こしているのです。
きっと思い出深い出来事であればあるほどに、その光景は鮮明に思い出すことができるでしょう。
しかし主人公の中には、どうしてもうまく消化しきれない、封印された記憶があるようです。
それは奥深くにしまったまま忘れられたまま、まるで埃まみれの分厚い本のように。
簡単に開けないように鍵までかけられていて、手に取るたび思い出すことを諦めてしまいそうなほど。
でも主人公は、その本に記されていることを本当は知っているのです。
知っていて、それでもあえて触れないようにしている。
つまりそれほどまでに、いわくつきの思い出なのでしょう。
本を閉じたままの主人公は、目を閉じて頭の中だけに、自分と君が過ごした世界を再現し始めました。
世界が色褪せてしまった理由
主人公が過ごしている世界は、毎日同じことが繰り返される単調な場所。
色鮮やかだと思っていた景色もいまや、廃れたモノクロでしかありません。
主人公がそんな世界に取り残されている理由。
実はそこには、もう1人の登場人物である「君」が関係していました。
かつてはすべてが輝き、色鮮やかに見えていたこの世界。
それが何故、いまや色彩を失ったモノクロと化してしまったのでしょうか。
そして引用最後の歌詞。何者かになりたかった主人公が、そう願ったのは何故だったのでしょうか。
ここから先の歌詞と一緒に、主人公と君の間にいったい何があったのか、読み解いていきましょう。
君の存在が大きすぎて
立ち止まっているのは自分だけ…?
見上げた空の狭さにも慣れた
今では僕だけが立ち止まって
馬鹿げたこと言うなよって笑ってくれよ
「君だけが居てくれればよかった」
出典: Rowan/作詞:小笹大輔 作曲:小笹大輔
主人公の住む世界が、何かをきっかけに大きく歪んでしまった様子が描かれています。
思い出に埃がかかってしまったのも、広いはずの空が小さく狭く見えるのも、その理由は1つ。
主人公自身が過去に取り残され、未来に向かって進むことができていないから。
彼をそんな風にした原因。それが、大好きな君との別れでした。
その原因はまだ詳しく描かれていないものの、主人公に大きな衝撃を与えたことだけは容易に想像ができます。
衝撃が大きかったからこそ、そこから時が止まったかのように前へ進めずにいるのですから…。
更に悲しいのは、立ち止まっているのが「僕だけ」であること。
この表現からは、きっと君はすでに立ち直って、自分の道を歩いているであろうことが想像できます。
しかし主人公は相変わらず、頭の整理がつかずにグルグルと思考を繰り返しているようです。
笑い飛ばして、すべてなかったことにしてほしい。そしてこれまでと同じように、また2人で…。
引用部分最後の歌詞からは、主人公にとって君の存在がいかに大きかったかがわかります。
他には何もいらない。君の存在が全てだから。
まるで自分の人生を捧げるかのような、深い愛の気持ちが描かれているのです。
些細なことで別れた2人
分かりあってるつもりになって
いつの間にかすれ違って
だけで僕ら何処へも行けなくて
思いあってるつもりになって
いつの間にか傷つけあって
痛みだけでも君に残したかった
出典: Rowan/作詞:小笹大輔 作曲:小笹大輔
主人公が君と過ごしていた日々のことが描かれています。
そして、何故主人公と君が別れることになってしまったのかも…。
冒頭の歌詞にあったとおり、あれだけ思い出すことを避けていた君との思い出たち。
楽しかったことも悲しかったことも、ここでとうとう全ての封印を解きました。
大好きな君と別れることになった理由は、少しずつズレていってしまった2人の心に距離ができたから。
ズレが小さいうちはあまり違和感もなく、気にならない程度…いや、気がつかない程度だったのでしょう。
しかしそのまま知らずに過ごすうち、そのズレは大きく広がってしまいました。
ただそのズレは、本当に修復不可能だったのでしょうか…?
きっと話し合いをすれば、解決できた程度のズレだったのかもしれません。
しかしそのズレにはまった2人にとっては、大きく深く、そして修復不可能に見えていたのでしょう。
そんなズレのせいで、進む道を違えることになってしまった主人公と君。
それでも、やはり君の存在は偉大でした。
だからこそ、別れた後も忘れないでほしい。同じようにそう願ったのかもしれません。
忘れられないため。自分の存在を相手に刻むため。
褒められた手段ではありませんが、そう思ったからこそ相手に「傷」を残したかったのでしょう。
「もう嫌いだ」「会いたくない」なんて思われても仕方ない。
そう思われているうちは、相手の記憶に自分の存在が残っているのだから…。
君の人生の一部に僕という存在がいたこと。
その記録を残そうとする、いわば主人公自身の存在証明ともとれるフレーズですね。