原曲ではトロンボーンとビブラフォンでサウンドの輪郭を構築していました。
リテイク版では斎藤ネコさんによる綿密に練られたストリングスとピアノを軸に置いています。
さらにキーを原曲から1オクターブほど上げることでスリリングさを強調。
そしてアレンジの違い以上に椎名林檎の歌声が乗ることで世界は新しく塗り替えられます。
さらにエロティックになった「薄ら氷心中」は是非アルバムで聴いてください。
『重金属製の女』
「重金属製の女」はこれまでの楽曲制作とは全くアプローチの異なる作品です。
後にパリ公演を行う野田秀樹作の演劇「エッグ」の劇中歌を椎名林檎が担当。
舞台で深津絵里さん演じる架空のシンガー「苺イチエ」が歌うのが「重金属製の女」です。
「エッグ」という演劇は妻夫木聡、仲村トオルなどの豪華キャストも話題を呼びました。
しかし白眉はその奥深いテーマ性にあります。
架空のスポーツ「エッグ」を通してオリンピックと戦争の関係性を描くという力作。
中でも劇中深津絵里さんが「重金属製の女」を歌うパートがクライマックスともいえるシーン。
原曲は90年代のオルタナティブロックを彷彿とさせる重厚なアレンジ。
Heavy metallic am I, and about to spill out toxicity
I don't want to harm anyone, so please kill me
※原詩
だって私は重金属 ヘビメタル状態
毒が溢れ出してる この毒で夜明けを殺す
出典: 重金属製の女/作詞:野田秀樹,椎名林檎 作曲:椎名林檎
セルフカバーするにあたって椎名林檎は旋律と歌詞の関係性を重視します。
「このフレーズは自分が歌うべきではない」と判断した場合は英語詩に切り替えるのです。
劇中で重要な役割を果たす苺イチエに敬意を払いこの曲も英語詩に変換。
サウンド面を非常に重視したセルフカバーになっています。
原曲同様荒々しいグランジ風サウンドを再現するため椎名林檎が最も信頼をおく奏者を配置しました。
ギターは椎名林檎が「名越電気」と呼び最も信頼をおく名越由貴夫。
ベースはSyrup16gのキタダマキ。ドラムは54-71のBOBO。
そして印象的なタブラをASA-CHANGという最強の布陣で臨んでいます。
『おとなの掟』
ドラマ『カルテット』用書き下ろし曲
配信シングルとしては2017年もっとも売れた曲として有名です。
原曲を歌うのは「Doughnuts Hole(ドーナツホール)」という架空のグループ。
「カルテット」は恋愛・サスペンス・コメディの要素をはらんだ展開が話題となりました。
ドラマでDoughnuts Holeの4名は弦楽四重奏グループに扮しています。
原曲はドラマ設定に合わせて斎藤ネコカルテットの弦楽四重奏を中心に構成。
This life is long, so long, the world is wide, I say,
And when we've freedom won, it all becomes one gray
Yes, happiness, unhappiness, it's only the heart
That knows no quietude that makes itself known
While an adult can keep a secret alone
出典: おとなの掟/作詞:椎名林檎 作曲:椎名林檎,斎藤ネコ
アルバム収録用の「おとなの掟」もあくまで亜流であり、Doughnuts Holeが本家との考えが貫かれます。
決めのフレーズ「おとなは秘密を守る」は松たか子以外はなしという判断で英語詩に変更。
バックトラックは原曲と同じメンバーでほぼ忠実に再現されています。