この映画は、原作とおおきく異なる点があります。ドラマの構成が劇中劇になっていることです。
劇中劇のドラマは役者さんの感情移入が難しいといわれています。
ドラマ設定のキャラクターが、俳優としての別の性格を演じる設定。二重の役作りが必要になってその苦労も2倍ですね。
真犯人の設定も原作と異なります。
原作については後述しますが、映画では劇中劇内で薬師丸ひろ子さん演じる役者志望の研究生を殺人犯としています。
劇中劇の最中に演技と見せかけて殺人を犯す薬師丸ひろ子さん演じる三田静香。
この劇中劇での迫真の演技が悲しい涙を誘い、彼女の女優としての才能が開花した瞬間でした。
見せ場はラストシーン。罪を償うために恋人と別れる時の、薬師丸ひろ子さんの表情がとても良いのです。
別れることの寂しさと、これで縛られていた罪の意識から解放されるという安心感が、その表情から見て取れました。
映画の中で演じられる劇中劇の原作は…
原作の小説とは設定が違い、舞台女優を志望する女性が劇団のスキャンダルに巻き込まれ、それをチャンスと逆手に取り成り上がっていくストーリー。原作小説のメインストーリーは映画内の劇団が公演している舞台のストーリー(劇中劇)となっており、映画内に原作ストーリーをそのまま内包した形で展開している
出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/Wの悲劇_(映画)
原作は、推理作家夏樹静子さんの『Wの悲劇』。
原作の内容は、映画の中で薬師丸ひろ子さん扮する三田静香が所属する劇団の演目として描かれており、劇団の演出家が蜷川幸雄さんが演じてるって凄くリアリティがありますよね。
原作では瓜二つの顔を持つ女中が出てきて、お嬢様の殺人事件を隠蔽するために女中を犯人に仕立てる設定でした。
映画では瓜二つという設定を変えています。
Wの悲劇の「W」の意味ですが、瓜二つの犯人の悲劇と女の情炎を表すWOMANのWといわれています。
作詞は松本隆さん
『Woman”Wの悲劇より”』で作詞を担当したのは、松本隆さんです。
作曲を担当した呉田軽穂こと松任谷由実さんとは、数多く一緒に仕事をし数々の名曲を残しています。
松田聖子さんの『赤いスイートピー』や『瞳はダイアモンド』などの楽曲を作ったゴールデンコンビなんです!
『Woman”Wの悲劇より”』もそんな名曲の中の一曲で、松任谷由実さん曰く「自分が提供した曲の中で一番好きな曲」なんだとか。
歌詞に込められた表現される悲哀と生きざま
人生はオールのない船で河を渡るようなもの
もう行かないで そばにいて
窓のそばで 腕を組んで
雪のような星が降るわ
素敵ね
もう愛せないと言うのなら
友達でも かまわないわ
強がってもふるえるのよ
声が…
ああ時の河を渡る船に
オールはない 流されてく
横たわった髪に胸に
降りつもるわ 星の破片
出典: Woman”Wの悲劇”より/作詞:松本隆 作曲:呉田軽穂
どこにも行かないで私のそばにいて欲しい……。
女優でいるために、女優になるために、自分を愛してくれる男と幸せになる人生より女優の道を選んだ……だけど本当はそばにいて欲しい。
人生は河を渡る船のようなもの、だけどその船にオールはないから流されるだけ。
映画『Wの悲劇』で三田佳子さんが演じた鳥羽翔の姿や、薬師丸ひろ子演じる三田静香のその後の姿に重なります。
三田静香は女優になる夢を捨てきれなかったのですね。
自分を愛してくれる人と一緒にいることで心が安定して幸せになれます。
それなのに、あえて女優になる夢を追い続ける人生を、最初からやり直そうとする三田静香の本当の顔を見るようです。
愛を抑え込もうとすればするほど、思いは募る。切ないですね。
燃え尽きて灰になってもかまわない
もう一瞬で燃えつきて
あとは灰になってもいい
わがままだと叱らないで
今は…
ああ時の河を渡る船に
オールはない 流されてく
やさしい眼で見つめ返す
二人きりの星降る町
出典: Woman”Wの悲劇”より/作詞:松本隆 作曲:呉田軽穂
主演女優として舞台に立てるのなら、スキャンダルで注目を集めてもかまわない。女優になるためならなんだってする……そんな私を責めたりしないで。
女優という運命の河を選んでしまった私だけど、私が見つめると優しく見つめ返してくれるあなたと二人きりで過ごす時間も大切なの。
三田静香と森口昭夫の関係、そして鳥羽翔と不倫相手城田公二の関係。
道は一つだけではなく、いろいろ重なり合って人生が織りなされてゆく様子と重なる歌詞です。
奥に秘めた女の情念と欲望があふれ出しています。
女優になりたい一心で人生の落とし穴に自ら落ちても悔いはないのです。
それでも愛する人には見捨てられたくない気持ちは女の欲望をむき出しにしています。
朝の陽が射すまで
行かないで そばにいて
おとなしくしてるから
せめて朝の陽が射すまで
ここにいて 眠り顔を
見ていたいの
出典: Woman”Wの悲劇”より/作詞:松本隆 作曲:呉田軽穂
朝の陽が射すまで側にいて欲しい……あなたの寝顔を見ていたいから。
そんなわがままを言って男を引き留めても、いつものように朝になったら女優の顔に戻る……。
映画『Wの悲劇』の中の三田静香や鳥羽翔は、男に振り回される女性ではなく、男を振りまわす女性なのではないでしょうか。
彼と過ごす束の間の時間は、大事にしたいのです。それを分かってほしいという切ない愛が伝わってきますね。
自分のわがままだと知っていながら、彼に理解を求める悲しい性。女の情念はこんなにも激しくて辛いものなのでしょうか。