もしも僕が教祖になったなら
今日から君は盲目さ
口を開けて待っていてくれ
信じるしかないのだから
目に見えないものが君を見ているのさ
肝心なのは恐怖心
見上げてくれよ子猫のような目で
そして僕は言う
出典: 夜明けのオレンジ/作詞:雫 作曲:雫
「君」に浮気心など邪な想いを抱いて欲しくないと思っている「僕」は「目に見えないものが君を見ている」と「恐怖心」を植え付けようとしています。
そして「僕」がいなければ死んでしまうか弱い「子猫のような目」「見上げてくれ」と言っているのです。
「君」にとっても信じられるのは「僕」だけで、「僕」に後ろめたいようなことができないようになればいいという「僕」の強い独占欲が現れた歌詞ですね。
これが一方的に相手にのみ信頼や服従を求めるものであれば恐ろしいのですが、自分が完全に信じ切って、そして、愛してしまっているからこその願いなので、それは「弱さ」の裏返しということになる。
雫さんの歌詞の凄いところですね。
僕が狂おしいほどの感情を抱くようになった理由がわかる歌詞
Wait till I'm inside of you
愛と正義を歌うよ
Then, you try to hide me
目覚めと夜明けを見せながら
必死になるうちは何も
分かってないというのにね
押し込めても無駄さ
出典: 夜明けのオレンジ/作詞:雫 作曲:雫
「僕」が「君」に染まってしまったように「君」も「僕」に染まるのをただ待っている。
それまで「愛と正義」を歌い続ける「僕」。
そして、ここまでの歌詞の見え方が変わるのが次の歌詞です。
"Then, you try to hide me"(ほらまた君は僕から隠れようとしている)、わざと「目覚めと夜明けを見せ」て、夜中には抜け出していることを「必死に」隠していても「無駄さ」。
つまり、「僕」は「君」から浮気を隠され続けているからこそ、独占欲をむき出しにして隠し事をしないでくれと言っていたのですね。
とっくにバレているということを「君」は「何もわかってない」。
「僕」の切なくも狂おしい感情がここでやっと理解できましたね。
また、曲名の「夜明けのオレンジ」は、幾度なく隣に「君」がいないことに気づいた「僕」の明け方の感情を歌っていることに由来しているのですね。
引っ張ってきてここでやっと背景を出してくるというところが今時らしいおしゃれなテクニックです。
目に見えないものにすがって敵を作っているのはみんな一緒、それでも...
目に見えないものに縋って
存在しない敵作っていることなんて
誰だって同じさ
誰にでも太陽は必要だけれど,
それがどんな形していようが
どうだっていいのかもしれないね
もしも僕が教祖になったなら
今日から君は盲目さ
口を開けて待っていてくれ
信じるしかないのだから
出典: 夜明けのオレンジ/作詞:雫 作曲:雫
明確な信仰を持っている人は別ですが、そうではない日本人にとって、宗教で戦争が起きるのなんて信じられない感覚かもしれませんね。
しかし、宗教のように「目に見えないものに縋って 存在しない敵作っていること」なんて、実は「誰」もがやっていることだというのです。
例えば、目に見えない愛を信じて、自分の好きな人を誰かが取るのではないかと不安になり、好きな人が浮気していると疑ったり、周りの異性に攻撃になったりするようなことですよね。
このように置き換えれば、納得のいくことなのではないでしょうか。
「誰にでも太陽は必要だけれど」という歌詞の「太陽」が意味するのは信じる対象のことでしょう。
誰にでも信じるものは必要だけどその「形」は「どうだっていい」、つまり、人それぞれということです。
それがもし浮気のように世間から見れば歪なものだったとしても、「君」にとってそれが人生を照らす「太陽」なら仕方ないと、一定の理解は示しているのです。
しかし、人の感情はどうしようもないとわかりながらも、「僕」が教祖になって「君」がただ「僕」だけを信じて生きるようになればいいのに。
そして、「僕」だけが「君」を照らす存在でありたいというのが「僕」の本心なのでした。
おわりに
歌詞を解釈してみると、曲の最後に向けて、どうして「僕」が「教祖になったら」なんて言い出したのかがわかっていくという展開が凄まじい一曲でしたね。
これが最初のシングルだと思うと、この短期間であっという間に音楽シーンを駆け上がったポルカドットスティングレイの実力を認めざるを得ないですよね。
そして、演奏技術も含め、アレンジセンス、そして、類稀なる歌詞のワードチョイスなど、まだ成長し続けていることも示したのが最新アルバムの『全知全能』です。
水玉模様の奇抜な姿をしながらも、自由自在に空を飛ぶように海を泳ぐエイであるポルカドット・スティングレイのように、このバンドはこれからのびのびと成長を続けていくのでしょう。
その原点となった「夜明けのオレンジ」、ぜひ聴いていただきたい一曲です。
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