クリープハイプ メジャーでの3rdアルバム
「一つになれないなら、せめて二つだけでいよう」を代表する曲「大丈夫」
今回紹介させていただくのはクリープハイプの「大丈夫」という楽曲です。
2014年の3rdアルバム「一つになれないなら、せめて二つだけでいよう」に収録されています。
この作品には「寝癖」「エロ」など大ヒットしたシングル曲が多数収録されているのですが...。
アルバムの核となるのは実は「大丈夫」なのです。
その理由は歌詞を紐解いてゆく過程でお分かりになると思います。
激動の2014年の果てに絞り出された楽曲たち
2014年はクリープハイプにとって激動の1年間となりました。
所属レーベルとの❝あれやこれや❞での移籍騒動。
初の武道館公演2daysの成功、夏フェスには参加せずワンマンツアーを送る日々。
周囲から見ると実にクリープハイプらしい1年間でしたがバンドは大変だったことでしょう。
そして年末にリリースされたのが「一つになれないなら、せめて二つだけでいよう」です。
上のトレーラー映像をご覧ください。
そこには激動の1年間を過ごしたとは思えないほどに「優しい歌」が収録されていました。
それが「大丈夫」です。
しかしその優しさの裏には尾崎世界観さんらしい巧みな表現が隠されていました...。
さっそく歌詞を見てゆきましょう。
尾崎世界観の歌詞の特徴とは?
私小説のような巧みな文章表現
作詞には映画や小説と同じく様々なスタイルがあります。
同じ題材を扱ったとしても作詞家により伝え方が異なるのです。
尾崎さんは女性の視点から物語を描くことが比較的多いような気がします。
「イノチミジカシコイセヨオトメ」といった初期作品からこの傾向は顕著です。
どうやら尾崎さんはとても照れ屋な人なのでしょう。
言いたいことがたくさんあるけどそれを他人の言葉に置き換えて描いてしまう。
アナグラムの多用、文学作品からの引用なども顕著です。
こうした私小説のような方法論は後の文筆家としての活動にも繋がる重要なファクターなのでしょうね。
本題の「大丈夫」の歌詞ですがやはり女性の語り口調で書かれています。
そして全体の構成は作品内では珍しく言葉遊びの要素を抑制したシンプルな文体です。
果たして尾崎さんは「大丈夫」でどのような世界を描こうとしたのでしょう?
さっそく歌詞を見ていきましょう。
2人の登場人物の関係性
大丈夫、あたし今日は暇だから
本当はそんなに暇じゃないけど
大丈夫、一つになれないなら
せめて二つだけでいよう
出典: 大丈夫/作詞:尾崎世界観 作曲:尾崎世界観
今回の解説は変則的に間奏を挟んだ2度目のAメロから歌詞を見ていきましょう。
なぜならこのパートには「大丈夫」のすべての前提条件が凝縮されているからです。
ネタバレのような形式になってしまいますが1曲通して聴けば読み取れるトリックですのでご了承ください。
まず「大丈夫」の物語には2人の主人公が登場します。
何かに傷ついた男性、そしてその男性を温かい包容力で癒してくれる女性です。
尾崎さんの中では明確な設定があるようですがそれはひとまず置いておきましょう。
女性は傷ついた男性に立ち直ってほしいために優しい嘘をつき続けます。
彼女は「暇」でないのに男性には「暇」だと告げることです。
同時にこのパートでのみ、彼女は自分の本音を語ります。
もちろん自分の心の中でのつぶやきです。
彼女には本当は今日したいことがありました。
しかしその優先順位を男性を慰めることに変更したのです。
アルバムタイトルにもなったセリフの意味
彼女はここであるセリフを口にします。
アルバムタイトルになった「一つになれないなら、せめて二つだけでいよう」です。
人間関係の本質を言い当てたような素晴らしいセリフだと思います。
家族でも恋人でも決して心を共有することはできません。
傷ついた人に「その気持ち分かるよ」というのは間違いです。
他人の心が分からないことを受け入れた上でどう接するかが大切なのではないでしょうか?
彼女が言ったセリフを変換してみましょう。
「私はあなたの傷ついた心のすべての痛みを理解することはできません」
「せめて半分でいいから私にその痛みを分けてください」
すると彼女が繰り返す「大丈夫」の意味がさらに温かいものに変わってゆくのです。