「夜へ急ぐ人」は神秘性が潜んだ楽曲?!
日本の歌謡界には、もう2度と並ぶ者は出現しないであろう歌手「ちあきなおみ」。
今回は、聴いているこちらが息を飲み込むほど圧倒される名曲「夜へ急ぐ人」をご紹介いたします。
いまや伝説ともなったこの楽曲は、ある歌番組で日本中の厳かな時を一瞬にして抑圧してしまうのです。
私たちの心の奥底にある恨みや妬み。
潜める負の感情が、「おいで」という歌詞で否応なく引き出されてしまうのです。
時代がついてこれず、早すぎた楽曲とも語り継がれています。
女性の情念が溢れだしている
「夜へ急ぐ人」は、1977年9月に26枚目のシングルとしてリリースされました。
日本中の空気を瞬く間に一変させた夜。
ある歌番組とは、シングルリリースと同年出場したNHK紅白歌合戦だったのです。
ご存知の方も多いかもしれませんね。
年越しを今か今かと待ちわびる、TVの向こう側。
黒く長い髪を、これでもかと振り乱し手をこまねく姿を魅せつける「ちあきなおみ」。
思わず、「気持ちの悪い歌ですね」と言わしめるアナウンサーでした。
圧倒的な歌唱力とパフォーマンスで、日本中をフリーズさせたのです。
そう言わざるを得ない動静を演出したのは、紛れもなく彼女の魅力なのではないでしょうか。
狂気乱舞の「夜へ急ぐ人」を余すところなく解き明かします!
表裏一体の様々な顔
夜へ急ぐ人が居りゃ
その肩 止める人も居る
黙って 過ぎる人が居りゃ
笑って 見てる人も居る
出典: 夜へ急ぐ人/作詞:友川かずき 作曲:友川かずき
語りかけるほどに、静かなイントロで展開します。
昼の顔とはまた違う、人間の「夜」の顔。
いわゆる大人の本音と建前が入り乱れる、表と裏を描写しているのでしょう。
多種多様な人間模様が行き交う、夜の街を舞台にしているのです。
早く日が沈まないかと、夜を待ち焦がれる者。
ともすれば、明るいうちの顔を誰にも知られたくはない人もいるのかもしれません。
恋人、待ち人のもとへと急ぐ者もいるのでしょう。
今夜はやめておこうと、思い留まり必死に欲と抑えようと戦う者もいます。
様々な逸る気持ちが、入り交じる「夜の街」。
長い長い夜のはじまりは、これから幕を開けるのです。
皆それぞれの事情を胸にし、足早に夜の帳へと消えていくのでしょう。
人間の欲望とは...
かんかん照りの昼は怖い
正体あらわす夜も怖い
出典: 夜へ急ぐ人/作詞:友川かずき 作曲:友川かずき
季節は、暑い夏なのでしょう。
1日の陽は長く、ギラギラと陽射しが照りつけ肌を焼きつけている光景が目に浮かびます。
昼と、開放的になりやすい夜とのギャップを描いているのです。
では、そんな時間がなぜ怖いのでしょうか。
太陽に照らされることで、自分1人だけにスポットライトが当たっているように思えるのでしょう。
全てが剥きだしとなり、見透かされていると感じるのかもしれません。
あらゆる感情が、有無を言わさずあからさまになるのです。
自分自身の弱さを、暴かれているような気分になるのではないでしょうか。
またそれとは裏腹に、本来の姿が意思とは反し露呈してしまう暗い夜。
失敗やだらしのない姿。それはまさに、人間の性ともいえるのです。
大人の男女でも、夜の街では心なしか変貌します。
悪い意味で気が大きくなっていると、いってもよいでしょう。
人間の心の奥底にある、醜悪な一片が見え隠れしているのです。
怖い夜の一面
燃える恋程 脆い恋
出典: 夜へ急ぐ人/作詞:友川かずき 作曲:友川かずき
一夜限りの駆け引きが、あちらこちらで繰り広げられるネオン街。
男性の狡猾な一面が、さらけ出されるのです。
主人公もまた、その場面に巡り会ってしまったのでしょう。
その気はなくとも、お酒の力でついつい雰囲気に流されてしまったのかもしれません。
なぜ避けられなかったのか...。どうせ実らない恋だと分かっていたはずなのに。
女性の恨み節を想像させる、「恋」の喩えとも感じとれます。
そう、主人公は女性なのです。
後悔の念ともとれる、儚く終わりを遂げた「恋路」を想い起こしているのでしょう。