冒頭のアジテーションは実際の楽曲には含まれません。
この演説は「上坂すみれ」というキャラクターを知ってもらうための自己紹介です。
決して秘密結社を作って革命を起こそうとしているわけではありません。
演説をよくお聴きいただくと”主義者”ではなく”趣味者”と言っているのが分かります。
上坂さんは共産主義者ならぬ「共産趣味者」を自称しているのです。
そして謎の「革命的ブロードウェイ主義者同盟」という組織。
これはサブカルの聖地「中野ブロードウェイ」を愛する者たちの総称です。
噛み砕いて解説すると「私はヲタのみなさんの仲間です」という宣言になります。
ちなみに冒頭の演説を差し引いても約50秒間のイントロ。
アニメ主題歌としても異色の構成であることが分かります。
パートごとに変調される楽曲の謎
ニューウェーブ風シンセベースで始まる「七つの海よりキミの海」。
そこにテクノポップ風のシンセサイザーが加わるオープニングが格好いいです。
そしてパートが変わる度にヘビーメタル、行進曲など目まぐるしくサウンドは変化してゆきます。
前のめり気味の歌割りも2013年のJ-POPではありえない構成です。
これらの不思議なサウンドを作り上げたのは神前暁さん。
「涼宮ハルヒの憂鬱」や「らき☆すた」の音楽を手掛ける敏腕プロデューサーです。
しかしこの摩訶不思議なサウンドの骨子は上坂すみれさんのキャラクターにあります。
事前の打合せで影響を受けた音楽家を尋ねられた上坂さん。
「ゲルニカ(戸川純)、筋肉少女帯、P-MODEL、YMO、ザ・スターリンです!」
これを聞いた神前さんはゲルニカのニューウェーブ歌謡をベースに全ての要素をミックス。
さらに上坂さんの大好きなロシア要素として運動会でよく聴く「コロブチカ」まで挿入されています。
また演説のバックに流れるサイレンはジャケ買いならぬ”名前買い”したザ・スターリンへのオマージュです。
上坂さんの楽曲はテクノ・アヴァンギャルド愛好家に愛されています。
その歴史は「七つの海よりキミの海」から始まったのです。
謎のコール&レスポンス「ウラー!」とは?
MVの演説の後、上坂さんは「ウラー!」という謎の言葉を発します。
すると同志たちも慣れた雰囲気で「ウラー!」とレスポンスを返すのです。
もしや秘密結社の秘密の合言葉?と勘ぐってしまいます。
しかしご安心ください。
「ウラー」とはロシア語表記で「Ураааааааа!」と記す「万歳」の意です。
主に軍隊での強制的な強行突入の際に兵士が恐怖を打ち払うために使用します。
そう、上坂さんのライブではロシア風の万歳三唱が定番コールなのです。
えっ、やっぱり怪しいですか?
海よりも深い「七つの海よりキミの海」の歌詞
ようやく「七つの海よりキミの海」の歌詞の解説に移ります。
作詞を手掛ける畑亜貴さんはアニソン界ではかなりの有名人です。
ラブコメ、SF、ファンタジーはもちろん「ラブライブ!」の全楽曲を手掛ける凄腕を持っています。
「波打際のむろみさん」の世界観が反映されるのは想定内としてもう1つの視点も考察してみたいです。
通常「七つの海」が示すのは南太平洋・北太平洋・南大西洋・北大西洋・インド洋・北極海・南極海。
つまり全世界の比喩として用いられる概念だと考えます。
そして「七つの海」と対比される「キミの海」。
「七つの海」は外的世界、「キミの海」は内面世界のメタ表現だと考えられます。
するとそこには「他者との共生」という壮大なテーマが秘められているのです。
世界は繋がっているけど...
波打ち際に漂う神秘の サ・カ・ナ!
この世の果ては まあるく繋がりますよ
波打ち際で語らう世界の カ・タ・チ!
七つの海は不思議を愛してる
出典: 七つの海よりキミの海/作詞:畑亜貴 作曲:神前暁
「七つの海=世界」を認識するのは私たちの「海=自意識」です。
一般論ですが自意識は個人の属性であることから世界の感じ方は個人によって異なるといわれています。
別々の「海=世界」を生きる他人同士が集まることで発生する不思議な現象。
それはお互いの見る「海=世界」に興味を抱くことです。
互いの感情を理解したいという気持ちであり「愛情」の芽生えともいえます。
海洋面積は地球の7割を占めるといわれるほど広大です。
科学の発展により私たちは海を越えて遥か世界の果てまで見ることが可能になりました。
しかし私たちは他人がどんな「世界=海」を見ているのかを覗くことはできません。
だから私たちは互いに興味を持つ者同士で語り合うのです。
「キミの海はどんな色をしているの?」
そんな心の交流を通して人はより親密な関係を築き上げてゆくのではないでしょうか。
上坂すみれが隅田さんに憑依?
むろみ! ここだ! むろみ! ここだ!
出典: 七つの海よりキミの海/作詞:畑亜貴 作曲:神前暁
シンセポップ調から突如ヘビーメタルに変調するパート。
コーラスに重ねられるデスボイスは上坂さんが実際に吹き込んだものです。
この短くも強烈なインパクトを残すパートは「波打際のむろみさん」の物語によりそっています。
人魚のむろみさんは向島くんという人間に対して淡い恋心を抱くのです。
「愛は人魚と人間という種族の壁を超えられるか?」
そんな壮大なテーマを表現するためにドラマチックな転調が必要とされたのでしょう。
このパートは「歌手上坂すみれ」ではなく「隅田さん」の視点で歌われています。
むろみさんに「今だ、気持ちを伝えなさい!」と勇気を奮い立たせているのです。
アニメ作品と楽曲単体のテーマが入り乱れるのはアニソンの定石。
はたしてむろみさんは素直な気持ちを伝えられるのか?
そしてその想いは種族の壁を超えることができるのでしょうか?