配信限定リリース
2018年2月23日、配信限定でのリリースをスタートした「ふめつのこころ」。
ジャケットにはtofubeatsらしい、レトロなメガネの女の子のイラストが採用されています。
彼女の腕の中にはドラマのキーにもなるブラウン管と砂嵐、ビデオデッキも。
背景にはデジタルとレトロのどちらの印象も感じさせる幾何学模様があしらわれています。
アナログ盤のジャケットも欲しくなってしまう可愛らしさですが、アナログリリースもあるんでしょうか…?
楽しみに待ちたいと思います。
MV
さて、それでは気になるミュージックビデオを掘り下げていきたいと思います。
これね、結構不穏なストーリーなんです。
分割された画面
まず、画面がふたつに分割されています。
(横ではなく縦分割ですから、視聴にはPCがおすすめ。余談です)
上の段には男性、下の段には女性が映ります。
ふたりは同じ洋服を着ており、ふたりがいるのは同じ部屋のよう。
ただし時間帯が違うようです。
男性のストーリー
男性が映る上画面はやや暗いので夕方でしょうか。
服装は白いシャツに黒いパンツ、シンプルなステンカラーコートです。
恰好から察するに、普通の会社員のように見えます。
きっと彼がこの家に入る姿はさながら、帰りにケーキを買ってきてくれる優しいお父さんに見えたに違いありません。
針金でピッキングをして家に入った彼は、まずはリビングを抜け、持参したスイーツをお皿に移しラップを丁寧にかけ、冷蔵庫にしまいます。
そしてリビングに戻り、ビデオカメラを設置した彼は、ブルーのセーターに着替えます。
不細工な猫?が描かれた、いかにもポップなそのセーターは、彼の背格好には小さそうに見えます。
そしてリビングでダンスを始めた彼は、縦横無尽に部屋を飛び回ります。
ごくごく普通のリビングで、一心不乱に踊る成人男性。
異様とも思えるその行為ですが、その表情は恍惚とした満面の笑顔です。
そして持参したノートパソコンでのダンス映像の編集を終え、壁に持参した絵画を飾り、踊り疲れてソファにへたり込みます。
部屋にはいくつも、これまで彼が持参したことを思わせるアート作品が並んでいます。
それは部屋の持ち主がその作品を気に入り、飾ったままにしていることをうかがわせます。
女性のストーリー
女性が映る下の画面には窓からの明るい日差しが差し込んでいますので、朝方でしょうか。
鍵を開け家に入った彼女の両手には、大量のお菓子やジュースの詰まった大きなレジ袋がいくつも握られています。
そんな彼女は壁に飾られた絵画を一瞥し、冷蔵庫に向かいました。
当然のように冷蔵庫からケーキを出して、机いっぱいに買ってきたお菓子と一緒に並べ、スマホで写真を撮る彼女。
そして次々に甘いお菓子を頬張り始めます。
彼女の手にしたスマホには、男性のダンスの映像が映っています。
どこかの動画再生サイトか、それとも彼のブログか何かでしょうか。
眉一つ動かさずその映像に見入る彼女は、次々に甘いものを胃に流し込んでいきます。
見ているだけで胸やけを起こしそうなほどの大量の甘味。
そんな彼女を見守るのは、謎の男性のダンス映像と、部屋に並べられた奇妙なアート作品たち。
着ているのは、男性が身に着けていたのと同じ、不細工な猫?が描かれたブルーのセーターです。
ふたつのストーリーの交差点
そんなふたつのストーリーから、この物語を推測してみましょう。
まず、この家の鍵を持っていることから、本当の住人は女性のほうであることがわかります。
次に、男性はおそらくストーカーです。
ピッキングをして部屋に入っていることから、少なくとも合鍵を渡して入室を許されているような関係でないことは推測できるからです。
そしてここからがふたりの不思議な点です。
彼女は彼の存在を知っており、さらに興味を持っているということ。
動画の存在を知り、熱心に見ていたことからもわかります。
また、警戒心はほとんどと言っていいほど抱いていないこと。
彼が持参したケーキをためらうことなく頬張る姿からも、同じセーターを躊躇なく着ていることからも、嫌悪感は感じ取れません。
男性のほうにも不思議な点がいくつかあります。
ひとつめは、ストーカーでありながら性的な匂いがまるでしないこと。
一般的な男性のストーカーというと、一方的な恋愛感情を抱くとか、
性的な興味関心であるとかで、彼女に嫌がらせまがいのことをするのが普通です。
そういう感情があるなら、リビングではなく彼女の自室に忍び込むことだってできるはず。
しかし彼はそうしない。
何も残さず、どちらかというとプレゼントをして帰っていくのです。
そんなふたりの間には、なにか絆、愛のようなものすら感じるのです。
これも形は違えど、ドラマと同じく“純愛”をテーマにしているのでしょうか。
物語の裏側
さて、物語の裏側についても妄想してみましょうか。
まずひとつめ、この家は彼女ひとりが住むのには広すぎるという点。
どう見ても20代前半、ひょっとしたら10代の彼女が、ひとりで暮らす家として一軒家は不自然です。
ですからこういうのはどうでしょう。
彼女はもともと、家族でこの家に暮らしていた女の子。
男性は近所に住む年上の隣人で、ひそかに彼女の美貌に見惚れていました。
そんなある日、無残な交通事故で彼女は家族を失ってしまいました。
突然天涯孤独となってしまった彼女。
寂しさから、過食に走るようになってしまいました。
しかし、彼女が受け付けるのは甘いお菓子だけです。
なぜなら普通の食事をとると、家族で囲んだ食卓を思い出してしまうから。
そんな彼女の様子を遠くから見つめていた青年。
慰めたくても、知り合いですらない彼にはどうすることもできません。
しかしある日、彼女の家の鍵が旧式であることを知ってしまい、出来心で忍び込んでしまったのです。
最初は、彼女の生活の影、言い換えれば生きている証拠さえ確かめられれば満足だった青年。
しかし次第にエスカレートし、彼女に自分の存在を認識してもらいたいと願うようになります。
そこで彼は、少しずつ痕跡を残すことにしました。
彼女の好きなショートケーキや、部屋に飾られた絵画から想像したアート作品、そしてダンスを映した映像。
どれもちぐはぐに思える行為でしたが、彼の中では真剣なプレゼントでした。
そして彼女は、それを受け入れたのです。
次に部屋に入ればカギは帰られているかもしれない、飾った絵は捨てられているかもしれない。
そんな恐怖におびえながらも、毎回、変わらずにそこにある自分の痕跡に彼は、彼女からのメッセージを感じ始めたのです。
そんな、不思議な絆の物語です。(※あくまでも筆者の妄想です。)