まるで抜け殻のような主人公
さよならと、花を
さよならを置いて僕に花もたせ
覚束ぬままに夜が明けて
誰もいない部屋で起きた
その温もり一つ残して
出典: 花人局/作詞:n-buna 作曲:n-buna
想い合う2人は、なんと曲の冒頭から「別れ」を迎えていました。
別れの言葉だけを残し、主人公の前から姿を消した貴方。
その理由も、誰が悪かったのかも、本当は分かっていたはずなのに……。
いざ隣に誰もいなくなってみると、その寂しさに気がつくものなのです。
彼女の残した花が、何事もなかったかのように咲き誇っているのが印象的な部屋。
その花だけが、ここに彼女がいたことを思い出させてくれるかのようです。
今が一体何時なのか、夜なのか昼なのかすら分からなくなってしまう主人公。
それほどまでに、いなくてはならない存在だった彼女。
彼女のいなくなった今は、もはや明日すらも見出せなくなってしまいそうです。
悲しい現実から逃げ出して
昨日の夜のことは少しも覚えてないけれど
他に誰かが居た、そんな気がただしている
二日酔いが残る頭は回っちゃいないけれど
わからないままでもまぁ、それはそれでも綺麗だ
出典: 花人局/作詞:n-buna 作曲:n-buna
別れを告げられたあの日のことを、二度と忘れないほどに覚えているという人もいるでしょう。
しかし、主人公にとっての「あの日」は、もはやあったのかどうかすらも分からなくなってしまうほど。
ショックが大きすぎて、情報が処理できなくなってしまっているのです。
大切で大切でたまらなかったはずの彼女のことも、「誰か」としか思い出せないほどの悲しみ。
お酒が入っていたのも相まって、何が真実なのか確かめる術もなくなってしまいました。
失った記憶を思い起こし、何があったのかを明らかにしたいと思う気持ちは確かにあります。
しかし、それが明らかになればなるほど、ダメージは計り知れないものになるでしょう。
自分の心を守るために、敢えて「思い出さない」選択をするのです。
別れは突然に
まるで彼女だけがこの世界から消えてしまったように
洗面台の歯ブラシ、誰かのコップ、棚の化粧水。
覚えのない物ばかりだ
枕は花の匂いがする
出典: 花人局/作詞:n-buna 作曲:n-buna
長い間、同じ部屋で生活をしていた主人公と彼女。
このままずっと一緒にいられると、お互いがそう信じていたはずです。
しかし、別れの時は突然にやってきました。
普段使っていた日用品ですら、処分しないままに姿を消してしまった彼女。
当然主人公の心も、準備などできているはずがありません。
一緒に過ごしていた頃は、歯ブラシが並んでいるのを見るだけで幸せを感じていたはず。
しかし今となっては、それが誰のものだったのかを思い出すことすらはばかられてしまいます。
本当は、この部屋にいたのが彼女だったということをしっかりと分かっている主人公。
それでも現実から逃げなければ、心を平穏に保つことができないのです。
花のように笑う彼女は、匂いだって花のように可憐なものでした。
彼女の痕跡が至るところに残るこの部屋で、主人公はこの先どんな生活をしていくのでしょうか。
隣に寝ていたはずの貴方は
さよならを置いて僕に花もたせ
覚束ぬままに夜が明けて
誰もいない部屋で起きる
その温もり一つ残して
出典: 花人局/作詞:n-buna 作曲:n-buna
昨日までには確かに、狭いベッドの隣に君が横になっていたはずです。
しかし今は、両手を伸ばしても有り余るほどに広くなったベッドがあるだけ。
その自由さと空白が、横になるたびに孤独を感じさせるのです。
彼女の定位置をなでるたびに、そこに彼女がいるかのような感覚が呼び起こされます。
そこに残る温度は、もはや自分のものでしかないはず。
それでも、それが彼女のものであると思わずにはいられません。