ヨルシカ【思想犯】のテーマとは
ヨルシカのアルバム『盗作』発売に先駆けて、2020年6月24日に先行配信された新曲【思想犯】。
一般的に「政治犯」と同義とされるこの言葉は、本楽曲において一体どのような意味を持っているのでしょうか。
そんなタイトルが持つ意味や、破壊衝動を抱く主人公の心模様に迫っていきます。
思想犯の優しさ
他人に優しいあんたにこの心がわかるものか
人を呪うのが心地良い、だから詩を書いていた
朝の報道ニュースにいつか載ることが夢だった
その為に包丁を研いでる
出典: 思想犯/作詞:n-buna 作曲:n-buna
冒頭のフレーズから、タイトルの【思想犯】が主人公を表す言葉であるとわかります。
思想犯罪は「世間一般的に認められていない考え方」のことですが、それはこの楽曲でも同じ。
一般的に悪だとされていることを考える。そんな主人公のことを「思想犯」だと表現しているのです。
そんな思想犯である主人公が考えるのは、人を殺めて話題を集める未来。
人々が殺人を犯さないのは、法律があるからではなく人々が優しいから。
そう考える主人公は恐ろしい思考を持っているように見えて、実は優しさを備えているようにも感じられます。
主人公の美学
壊すことが持つ意味
硝子を叩きつける音、何かの紙を破くこと、
さよならの後の夕陽が美しいって、君だってわかるだろ
出典: 思想犯/作詞:n-buna 作曲:n-buna
1行目の歌詞はまさに、思想犯である主人公が頭の中でとった行動です。
この表現だけではあまり「悪」を感じません。
しかし硝子を叩きつけた先が、例えば誰かにとってとても大切な物だったとしたら?
破いたものが、例えばとても重要な書類だったとしたら?
取り返しのつかないこれらの行動を、多くの人が「悪」だというでしょう。
しかし主人公はこれを悪だと捉えていません。
むしろ2行目にある「美しい」という感覚のように、ポジティブに捉えています。
1行目の行動は主人公にとって、誰かに「さよなら」を伝えることと同じでした。
そのくらい簡単で、そのくらい日常的なことだったのです。
破壊に「美」を感じる理由
主人公が破壊や別れに「美しい」という感情を抱く理由。
それはそれぞれが持つ儚さにあるのではないでしょうか。
遥か昔より人は、「いつか消えゆく儚いもの」を美しいと感じる価値観を持っていました。
つまり多くの人が悪だと思うそれらの行為は、主人公にとっては美なのです。
永遠に存在するものより、いつか消えてしまうものに心惹かれる感覚。
冒頭で主人公が包丁を研いでいたのも、新聞に載りたいと願っていたのも、全てはこの感覚に基づいていました。
1番美しいもの
鳥の歌に茜
この孤独も今音に変わる
面影に差した日暮れ
爪先立つ、雲が焼ける、さよならが口を滑る
出典: 思想犯/作詞:n-buna 作曲:n-buna
これまで綴られていた主人公の危うい特徴とはがらりと雰囲気が変わり、穏やかで美しい情景です。
ここで描かれているのは空が真っ赤に染まった夕暮れ時。
夕焼けを見ることができるのも、1日24時間で考えればほんの一瞬です。
つまりここにも主人公が美しさを感じる「儚さ」という要素が込められているというわけですね。
この美しい景色の中で主人公が取ろうとしている行動は、先程も登場していた「君」へ別れを告げること。
主人公にとっての「美しさ」が詰めこまれているフレーズだといえそうです。