いきのもがかり【STAR LIGHT JOURNEY】歌詞の意味を解釈！二人の関係って？涙の理由とは

普段は職場の同僚あるいは同じ学園で顔を合わせて何気ない素振りをするふたり。

しかし夜の散歩道での愛の記憶は拭おうにも拭いきれません。

この恋からもう引き返すことができないのです。

恋心というものは一度火が点いたら成就するか破綻するまで一直線に突き進みます。

若いふたりですから恋というものでさらに生活が揺れ動きがちでしょう。

引き返せない愛でありながら目指すゴールも定かでないのかもしれません。

一緒に所帯を持つまで添い遂げるというような目標を水野良樹は明示してくれません。

星と星を繋ぐ星間旅行に喩える恋ですがその最終到着地点はどこにあるのでしょうか。

いずれにしてももう恋の旅へと出発してしまいました。

引き返すことが叶わない旅ですから目的地まで道を進みます。

相手を確かに愛している気持ちがいっぱいにあふれてきて戻りようがないのです。

誰かにこれほど夢中になる気持ち。

若いリスナーほどストレートに共感できるでしょう。

しかし愛を他人から隠さなければいけないという制約がふたりにはあります。

どのようにして愛を育んでいいのか分からなくて不安になっても仕方がないことです。

理想としてはどんな恋愛でもオープンにできる環境こそ成熟した社会には必要なはずでしょう。

その点で秘めた恋というものを強要される社会の状況があることは本質的に哀しいものです。

秘密にしなくてはいけないというような制約のある世界から恋の逃避行をしたいのでしょう。

星間旅行の乗り物が何かは分かりません。

そもそもフィクションですから野暮な勘ぐりが要らないかもしれません。

地球上のあらゆる掟から抜け出すことができる宇宙空間。

あの星空の先までゆけば誰にも秘密にしなくてはいけないなどのルールは不要になります。

こうした空想上の設定でしか自由な恋愛をできないのがふたりの現状です。

そのためにこの歌には少し現実逃避的な傾向があります。

しかし現実の社会がまだ窮屈なものである限り、想像力の羽を伸ばして恋することは必然でしょう。

月が綺麗ですねというのは文豪・夏目漱石にまつわる都市伝説的なエピソードを下敷きにしています。

英語の講師をしていた夏目漱石。

授業中に「I Love You」という文言を「私はあなたが好きです」と訳した学生に注意します。

「日本人はそんなに直截的な表現はしません。『月が綺麗ですね』くらいの訳にしなさい」

このトピックは近年に登場した創作エピソードだといわれています。

夏目漱石は当時の日本社会では最先端の合理主義者でもあるのでこのエピソードは嘘でしょう。

水野良樹もこのエピソードを引き合いに出しますが語り手の私にどうでもいいといわせます。

「私はあなたを愛している」

こうしたストレートな伝え方であってもいいじゃないでしょうか。

恥ずかしがる必要はどこにもないのですから。

ただし、ふたりはその恋愛を周囲に秘密にしなくてはいけません。

ならば「月が綺麗ですね」のエピソードで隠語を交換して愛を確かめているのかもしれないです。

それでも私はそうした制約自体に疑問を抱き始めているのでどうでもいいと切り捨てるのでした。

大切なことはあなたとオープンにキスを交わせる自由でしょう。

この自由を求める旅こそ「STAR LIGHT JOURNEY」なのです。

いっそあなたが私を膠着状態から救い出してくれればすべて解決するかもしれません。

ただ、私も自由に愛を表現する自由に覚醒めなければいけないでしょう。

男性に主導権を握らせたがる私の気持ちが透けてしまいます。

欧米の歌だともうこのような描き方はされない点を考えると哀しさを覚えるものです。

それでも女性の内側に燃える恋の炎をきちんと描いてもいます。

確かにあなたのアクションを待っている私ですが、いざとなればあなたとの逃避行を考えているのです。

「STAR LIGHT JOURNEY」ではあなたの感情などの描写はブラックボックスの中になります。

あなたの感情まで描いてしまっては歌詞の軸がぶれますから仕方ないことです。

その分、リスナーは女性にこんな切ない思いをさせているあなたが気になるでしょう。

本気の愛であるのならば堂々とするためにどうしたらいいのかあなたが道筋を付けていいはずです。

あなたは確実に私を苦しませてもいます。

出口の見えない恋愛の行方はどうなるのでしょうか。

先回りをするとあなたは実際には何もしてくれないまま楽曲が終わります。

そうなるとこの歌のメインテーマはどこにあるのか気になるでしょう。

ともかくここで見られるのは私の心が恋の悦びに躍動している場面です。

しかしこの後に私は相反する心境を語り出します。

先を見ていきましょう。

やはりあなたの存在感が少し希薄なようです。

しかし私はあなたに首ったけであり、望みはあなたと一緒の未来に行き着くことでしょう。

それでもヒーロー不在でドラマが進みます。

私はあなたに多くのことを望んでいる訳ではありません。

一緒にのんびりできればそれで構わないのです。

しかしこれは秘めた恋愛でもあります。

守秘義務だけが大切に守られている哀しい恋愛なのです。

愛に向けて真っ直ぐ対峙するラブソングでありながら私は寂しい思いを抱えています。

面白いことに私は歌の中のドラマのようなできすぎたセリフを嫌うのです。

月が綺麗ですねなどの言葉も嫌うし「I Love You」とも歌われません。

言葉よりもハグが欲しいと歌っています。

これは愛を観念だけで捉えないためにとても大切な思いです。

多くの言葉で愛を埋め合わせても虚しさが漂います。

大人の恋愛は口約束だけでは成り立たないのです。

多くの人が大人の階段を昇ってゆくうちに観念的なものから肉感的な愛へと移行します。

観念的な愛というものはこじらせてしまうと理想から外れた瞬間に破綻するのです。

月が綺麗ねのエピソードが登場しましたが、夏目漱石の小説も愛の観念化が激しすぎます。

そのために中期から後期の漱石の小説での愛は観念化が激しい作者と登場人物によって破滅します。

肉体的な裏付けこそが大事なのが大人の愛です。

いきものがかりの歌詞ですからあまり直截的な表現は出てきません。

それでも私はハグという肉体言語を求めているのです。

これは肉感的な愛の営みこそがふたりにとっての誓約になりうることを示しています。

言葉での誓約ではなくてきちんと肉体においても裏付けがあることでようやく私は安心できるのです。

私は愛に対してかなり積極的です。

もっと欲しいと望んでしまう私の姿が赤裸々に描かれています。

いきものがかりも大人の愛を歌う時代になったのだなと感慨深くなりました。

そうはいっても現在はこの恋愛を秘密主義のもとで進めていかなければなりません。

人前でできることは本当に限られているのでしょう。

職場でしょうか学園でしょうか軽く目配せするだけで愛を確かめ合います。

あまりの慎ましさに泣けてくるのですがそれでも通じ合えるのですから愛は不思議なものでしょう。

もちろん私はもっとあなたを求めます。

あなたに抱きしめられることを期待しているのです。

私の期待にあなたは応えてくれるのでしょうか。

いきものがかりは絶対的な絶望は描きません。

こうした創作の傾向はリスナーとの真剣な約束の上に成り立つものです。

しかし「STAR LIGHT JOURNEY」では愛の哀しさをきちんと描きます。

絶望はしないけれども切なくて仕方がない愛の情景を描いているのです。

もう少しでクライマックになります。

水野良樹はこのふたりにどんなラストを用意したのでしょうか。

先を見ていきましょう。