もしも「あなた」が男性だったら、わざわざ髪の長さについて歌うでしょうか?
おそらくこの曲の「あなた」は女性なのでしょう。
恋愛感情かもしれませんし、同じ女性としての尊敬の念を歌っている可能性もあります。
相手の見た目についての歌詞から、背筋が伸びていて凛とした強さを持つ女性なのだろうと容易に推測できますね。
夢の中でも現実でも決してその姿勢を崩さない相手に、彼女は憧れを抱いています。
また「後ろ姿」という点に注目です。表情ではないのです。
彼女は相手を正面から見ることができない。これは恥ずかしさが理由なのかもしれません。
別の解釈をすると、相手の背中しか見えないとも取れます。
つまり、相手は常に前を向いている女性なのです。
女性でも男性でも、そんな「あなた」に憧れるのは当然ですね。
なぜ写真集を借りたのか
図書館で借りた空の写真集 カードに
強くてきれいなあなたの名前がある
出典: 眼鏡越しの空/作詞:吉田美和 作曲:吉田美和
手書きの貸出カードは、今はあまり使われなくなりました。
この曲がリリースされた当初はまだ残っていたのですね。
裏表紙の内側にポケットが貼り付けてあり、その中に紙のカードが入っています。
本を借りる際はそこに日付や名前を書き、司書さんに渡して貸し出しの手続きが完了します。
つまり、次に借りる人は前に借りた人の手書きの名前を見ることができるのです。
彼女は「あなた」の名前を偶然見つけたか、「あなた」がこの本を手に取っているのを見ていたのでしょう。
いずれにせよその写真集には、相手の外見イメージ通りの文字が並んでいたようです。
「空」だけを写した写真集に、「あなた」は何を求めたのでしょうか。
その写真集を借りた「あなた」を見て、彼女はどう思ったのでしょうか。
先を読み進めてみましょう。
憧れが自分を見直すきっかけに
自分と相手に差があるからこそ憧れの感情が発生します。
その差を埋めようと思うのが、前向きな人なのです。
嫌い=変えたい!
大嫌いなのは眼鏡じゃなくこんな自分
ガラスの奥で叫んでみても誰も気づかない
出典: 眼鏡越しの空/作詞:吉田美和 作曲:吉田美和
眼鏡を掛けていることに対するコンプレックスは、実は自分に対する嘘だったことに気づきます。
眼鏡は嫌いと言いながら、声が掛けられない憧れの相手を見るためには利用する。
自分の気持を悟られないように細いフレームに隠れる自分が嫌いなのです。
自分のことが許せない!と怒りにも似た感情を抱いているのかもしれませんね。
しかし怒りも憧れも、自分以外の人には理解してもらえないでしょう。
なぜなら彼女の感情も視線の先も眼鏡の縁に隠れているため、誰も読み取れないのです。
決意の言葉
防御壁の役ばかりでごめん やってみるね
私をきちんと見せてくれる レンズに変える
出典: 眼鏡越しの空/作詞:吉田美和 作曲:吉田美和
理解してくれる人がいないのではなく、周りからの声を聞こうとしないのだと読み取れます。
例え「あなた」が彼女に声を掛けてくれても、眼鏡の縁に瞳を隠して曖昧な態度を取るのでしょう。
でもこのままではいけないのだ、とポジティブな力が湧いています。
日々「あなた」の後ろ姿を見ているからこそ湧き起こる力です。
今までは「よく見る」ための眼鏡でした。
これからは、眼鏡を掛けていても明るく、凛として見えるようにしていこうという決意が伺えます。
最後の歌詞は「変えたい」「変えられたらいい」という中途半端な気持ちではなく「変える」。
しっかりと言い切っていますね。
いつか名前を並べたい
短い髪 しゃんとした後ろ姿 思い出すたび
あなたのようになれたらと憧れる
机に置かれたままの写真集
背表紙の三日月だけがそんな私知ってる
出典: 眼鏡越しの空/作詞:吉田美和 作曲:吉田美和
机の上に本を置いた場合、普通なら表紙か、あるいは裏返して置かれていれば裏表紙に目が行くはずです。
しかし彼女の場合は「背表紙」。
写真集ですからある程度の厚さはあるとはいえ、数センチの幅でしょう。
なぜここに目が行ってしまうのでしょうか。
恐らく彼女は、書架にしまってある写真集を事あるごとに見ていたのです。
書架に並んでいるということは、背表紙しか見えませんね。
いつか自分も「あなた」の凛とした名前の下に、自分の名前が書き込めるように。
そんなふうに思いながら書架の前の通り過ぎる毎日だったのでしょう。
背表紙に写っている月は、まるで彼女に目配せをするような三日月です。
「頑張れ」と背中を押しているように感じます。