SiM『Life is Beautiful』をピックアップ!
日本にレゲエパンクというジャンルを確立させ、あらゆるフェスに引っ張りだこのSiM。
今回ご紹介する『Life is Beautiful』は、作詞したMAHの内面をえぐり出したかのような繊細な歌詞が魅力です。
自然体のMVも必見
ライブで見せるアイメイクを封印したボーカル・MAHの姿は、まるで普段の様子を映し出しているようです。
恐らくはこれも、楽曲の世界観を表現するためのものだと推測できます。
赤い糸にはどんな意味が込められているのでしょうか。
その答えは歌詞の中に!
人生はどんな色?
この曲の登場人物は「俺」と「お前」。
主人公である「俺」の人生について「お前」は様々な提案をします。
踏み外したら最後
tell me straight up,do I look happy to you?
I’m barely able to keep my life in the balance
it’s easy to find a lack of talent
silent films speak louder than my words and change colors my world
出典: Life is Beautiful/作詞:MAH 作曲:SiM
【和訳】
正直に教えてよ、俺は幸せそうに見えるのかい?
バランスを取りながら生きていくのが精一杯なんだよ
才能がないってことはすぐ分かるだろ?
無声映画のほうが俺の言葉なんかよりよっぽど雄弁だし、世界の色だって変えてくれるよ
【考察】
この歌詞から想像できるのは、「俺」が「お前」の言葉に納得していないという状況です。
誰がどう見たって順風満帆には見えない日々を送っている主人公。
しかし相手は、さも恵まれた人生を送っているかのように言うのでしょう。
では主人公の人生は今、どうなっているのでしょうか。
きっと成し遂げたい目標を持っているのです。でもそれは簡単に手が届くものではありません。
心が折れそうになっても何とか踏みとどまってはいますが、断崖絶壁を歩いている状況なのです。
言葉で訴えなくても、例えモノクロの映像であっても、多くの観客に笑いや感動を届け続けたエンターテインメントでした。
つまり、身振り手振りだけでも価値がある何かを生み出していたのが無声映画なのです。
白と黒で構成された映像でも、そこに色を感じられるほど生き生きとした映画だったのです。
一方、主人公の人生といえば有益なものは何も生み出していません。
少なくとも主人公自身はそう感じています。
いつまでも崖っぷちを歩き続け、舗装された安全な道には一向に戻れない。
それを見ている相手は「こりゃ駄目だ」と内心感じているのではないでしょうか。
相手がそう感じていることに、主人公は気づいているのです。
努力は必ず報われる?
now I’m thinking silly things again
I know you want to say “no pain, no gain”
出典: Life is Beautiful/作詞:MAH 作曲:SiM
【和訳】
今もまたそんな愚かなことを考えているところだよ
知っているさ、どうせお前は「痛みなくして得るものなし」って言いたいんだろう
【考察】
無声映画の俳優たちは、ジェスチャーと表情のみで語れるように血の滲むような努力をしたはずです。
これを受けて相手は「皆色々なことを乗り越えて成功しているんだよ!」なんて当たり前のことを言うのでしょう。
主人公は、俳優たちがラクをして名声を得ただなんて欠片も思っていないのです。
才能だけでなく、努力を継続したからこそ成功したのだと分かっています。
頑張れば報われるというけれど、主人公は頑張っているのにうまくいきません。
そこに追い打ちをかけるように「頑張ろうよ!」と言われたら、為す術なしですね。
これ以上何をどう頑張れと?歌詞からはどこか呆れている様子が伺えます。
「愛」は絶対正義なのか
“la,la,love”
“all you need is love”
I don’t need anybody’s love
the warmth is all I need
I feel so numb
出典: Life is Beautiful/作詞:MAH 作曲:SiM
【和訳】
「愛だよ」
「君に必要なものは愛だけなんだ」
俺は誰の愛も必要としていないよ
ただ温もりだけが必要なんだ
何も感じられなくなっているのかもしれない
【考察】
The Beatlesの有名な曲のタイトルであり、世の中の真理のように語られるフレーズが歌われています。
日本でも「愛は地球を救う」という言葉はあまりにも有名です。
確かに愛は人々に自信を与え、安心感を与えます。とても大きな存在だといえるでしょう。
一方で、愛があれば何もかもうまくいくのでしょうか?
そんなのは綺麗事だ、というのが主人公の胸中ではないでしょうか。
愛よりも、温かさが欲しいのだと歌います。
この歌詞の裏側に潜んでいるのは、「愛」という言葉だけを突きつける冷たさです。
主人公が置かれている状況を考えず、ただ世の中の真理として「愛」というカードを差し出す。
それは形だけの思いやりであり、温もりは一切含んでいません。
それでも相手が主人公のことを考えて声を掛けてくれたという現実を、主人公は無碍にしません。
相手の温かさに気づけない自分が悪いのかもしれない、とどこか自虐的になっています。
ちなみにMVに描かれていた赤い糸は「愛」を現しているのだと推測できますね。