「Black Swan」の大胆な飛翔

2020年2月21日発表、BTS(防弾少年団)のアルバムMAP OF THE SOUL: 7」。

このアルバムに収録されてMVも先行公開された「Black Swan」の魅力に迫りましょう。

「Black Swan」を聴いてまず思うのはあまりにも芸術的なサウンドと歌詞の深みのすごさでしょう。

BTSはひと足飛び以上の進化を遂げてくれました。

従来のファンだけでなく、これまで届いていなかったリスナー層にも魅力をもって訴える楽曲です。

MVの冒頭ではアメリカ合衆国のレジェンドである舞踏家の言葉がインサートされます。

「舞踏家は二度死ぬ。最初の死は舞踏家が舞踏をやめるとき。そしてこの死こそが最も辛いもの」

20世紀最大の舞踏家であったマーサ・グレアムの名言であり至言です。

彼女の言葉が「Black Swan」の歌詞の根底に流れています。

BTSなりの言葉でこの名言を解釈し直したような内容になっているのです。

そもそもタイトルの「Black Swan」というワード自体が謎になります。

黒い白鳥というのですから矛盾していると思うでしょう。

その歌詞の内容はさらに深くナイーブで、内省的な世界観を展開しているのです。

なぜ彼らがここまでの飛躍を遂げられたのかは謎でしょう。

しかし前作のアルバムで超一流のアーティストに昇り詰めたBTSの第2章の始まりを予感させます。

深い上に情報量も多い歌詞を和訳してBTSがたどり着いた地点を確認しましょう。

それでは実際の歌詞をご覧ください。

内面への問いかけ

BTSらしい歌詞はここだけ

BTS【Black Swan】歌詞の意味を和訳付きで徹底解説!放っておいてほしいと歌う理由は…?の画像

Do your thang
Do your thang with me now
Do your thang
Do your thang with me now

出典: Black Swan/作詞:Hyo Won Kang, Nam Jun Kim, August Rigo, Vince Nantes, Clyde Kelly 作曲:Hyo Won Kang, Nam Jun Kim, August Rigo, Vince Nantes, Clyde Kelly

ジミンによるイントロのパートです。

まだ序章という感じの内容でしょう。

スラング混じりの本文ですので和訳を添えてみます。

「君がすべきことをしようね

僕と一緒にいますぐ君がすべきことをしよう

君がすべきことをするんだ

さあ、僕と一緒にいますぐ君がすべきことをしよう」

いつものようにBTSは君としてリスナーに直接語りかけるように歌い始めます。

まずは君自身が何をなすべきか、そのことを実行に移そうよと提案するのです。

そして君の傍には僕がいるよと勇気付けてくれます。

いつものBTSらしさはイントロのここまでかもしれません。

ここから先は芸術的に成長したBTSの姿が垣間見られます。

その分、内省的な歌詞になっているので解釈が難しくなるでしょう。

覚悟しながら引き続きイントロの歌詞をご覧ください。

私たちはまだ韓国音楽を知らない

BTS【Black Swan】歌詞の意味を和訳付きで徹底解説!放っておいてほしいと歌う理由は…?の画像

What’s my thang?
What’s my thang? Tell me now
Tell me now
Yeah, yeah, yeah, yeah

出典: Black Swan/作詞:Hyo Won Kang, Nam Jun Kim, August Rigo, Vince Nantes, Clyde Kelly 作曲:Hyo Won Kang, Nam Jun Kim, August Rigo, Vince Nantes, Clyde Kelly

「僕がすることは何だろう

僕がすべきことは何かをいまこそ教えて欲しい

いますぐ僕に伝えてよ

イエー」

君がすべきことをしようよと語りかけてくれた僕の方が悩んでいました。

そしてこの悩み続けることというのが「Black Swan」の通奏低音になっているのです。

「Black Swan」はサウンドも重いものですが、歌詞の方も深刻な様相を呈しています。

アジアン・ポップスや韓国の音楽について日本のリスナーはその真髄をまだ知ってはいません。

K-POPの主流アイドルだけが韓国の音楽を支えている訳ではないのです。

韓国の軍政時代からダークでヘヴィなロックを響かせるバンドだっています。

K-POPはエレクトロ・ポップが主流ですがアコースティック・ギターで繊細な歌を歌う人もいるのです。

そうしたコアな韓国音楽の歴史の中では深くて内省的な歌詞が主流でした。

BTSの「Black Swan」もそうしたコアな韓国音楽の伝統に立つものだと思ってください。

その分だけBTSの進化と深化が鮮烈に印象的な歌詞になったのです。

僕は自分というものを探しあぐねています。

Black Swan」はどこに羽ばたこうというのでしょうか。

もう少し先を見ていきましょう。

どこまでもブルー

音楽に心躍らない不思議

BTS【Black Swan】歌詞の意味を和訳付きで徹底解説!放っておいてほしいと歌う理由は…?の画像

Ayy, 심장이 뛰지 않는대
더는 음악을 들을 때
Tryna pull up
시간이 멈춘 듯해
Oh, that would be my first death
I been always afraid of

出典: Black Swan/作詞:Hyo Won Kang, Nam Jun Kim, August Rigo, Vince Nantes, Clyde Kelly 作曲:Hyo Won Kang, Nam Jun Kim, August Rigo, Vince Nantes, Clyde Kelly

「心もときめかない

音楽が鳴っているのを聴いていても

気分を持ち上げようと頑張っているのに

時間は止まったようだ

それこそ僕が最初に死んだ瞬間だろう

僕が昔から怖れていたものだよ」

シュガによる1番の歌詞になります。

ダンサーはダンスができなくなる瞬間が最初の死だと怖れました。

BTSは音楽に胸がときめかないときこそ自分が最初に死ぬときだと怖れるのです。

舞踏に生きる人は肉体的な限界によって踊れなくなる日がきます。

それは人間である限り必然的な肉体の衰えから導かれるものでしょう。

一方で音楽に心が揺り動かされないという事態はより深刻かもしれません。

心というものは肉体の衰えほど必然的な下降カーブを描きはしないからです。

何にも関心がなくなってしまうような心の衰えというのは確かにあるでしょう。

しかし音楽家が音楽に心を躍らせられなくなったら最後の瞬間だと僕は怖れるのです。

「Black Swan」のテーマはこの歌詞に要約されています。

黒い白鳥という直訳では分かりにくいかもしれません。

この隠喩の内容は白鳥の舞を踊れなくなった煤けたダンサーを指すのではないでしょうか。

そしてこうした内容を音楽家に置き換えてみたらどうだろうと考えたのが「Black Swan」の歌詞です。

僕の中で最初に死んだものは

BTS【Black Swan】歌詞の意味を和訳付きで徹底解説!放っておいてほしいと歌う理由は…?の画像

이게 나를 더 못 울린다면
내 가슴을 더 떨리게 못 한다면
어쩜 이렇게 한 번 죽겠지 아마
But what if that moment’s right now, right now?

出典: Black Swan/作詞:Hyo Won Kang, Nam Jun Kim, August Rigo, Vince Nantes, Clyde Kelly 作曲:Hyo Won Kang, Nam Jun Kim, August Rigo, Vince Nantes, Clyde Kelly