このフレーズを2行目に繋げて考えるなら、届かないのは「君に手向けた花」でしょう。

仏前ではなく、あえて君が住んでいた部屋に置いたことの意味。

お墓や仏壇の前に座れば嫌でも君の死を受け入れることになってしまいます。

しかし部屋であれば、君がいないのはただ外出しているだけなどと思い込むことができる。

つまり花はお供えしたのではなく、プレゼントしただけだと思い込むことができるのです。

しかし死を受け入れたくない姿勢を見せながら、そのプレゼントが君に渡せないこともわかっているようです。

受け入れなければならないけれど、うまくできない…そんな心の痛みが伝わってきます。

君がいる空

主人公が降りしきる雪を見ながら「届かない」と感じていた場合はどうでしょうか。

雪は空から降ってきます。死んでしまった君もきっと、空高くにいると感じているのでしょう。

死んでしまった君がいる場所と、その場所から降ってくる

そこにささやかな共通点を見出したのかもしれません。

つまり1行目の後ろにもし言葉が続くのであれば、「君がいる空を見上げる」といったところでしょう。

雪とともに零れた約束

去年最後の雪の日堅く交わした約束
思い出せば溶け出し掌から零れて

出典: ain't afraid to die/作詞:京 作曲:Dir en grey

歌詞の舞台は1年前にさかのぼります。この頃も雪が降っていたようですね。

きっとこの時点で、君はすでに死んでしまっていたのでしょう。

主人公は君の死以降、きっと何度も立ち直ろう前を向こうと思ったに違いありません。

その決意が1行目の「約束」という言葉に込められています。

しかし続く2行目にある通り、それは毎回うまくいきませんでした。

決意を守れなかったことを雪に例えています。

雪は温かくなれば水になります。雪なら掌に乗せることができますが、水は掴むことができません。

主人公は死から立ち直ろうとするたび、君のことを思い出します。

それは心を温かくしますが、同時にその温かさは堅かったはずの決意を溶かしてしまうのでしょう。

転換期

君とさよなら

窓辺に一人きりで只雪を見つめてる君を思い出しながら
硝子越しに君を浮かべ最後の口付けして…

出典: ain't afraid to die/作詞:京 作曲:Dir en grey

このフレーズ、そしてここに続くフレーズは主人公の転換期を表現した非常に重要な箇所です。

まずはこちら。主人公と君は毎年冬になると雪が降る地域に住んでいたようです。

1行目は回想ですがきっと君は生前、夜遅い時間に降りしきる雪を窓越しに眺めていたのでしょう。

外が暗く室内が明るい状態で窓に近づくと、窓は鏡のような役割を果たしますね。

きっと生前雪を眺めていた君の顔も、窓に映りこんでいたのでしょう。

2行目ではそんな君の姿を思い出しています。

窓越し、かつ想像上の君を相手にしたキスでありながら、ここでは明確に「最後」と述べられています。

何年間も抜けだすことができずにいた君の死の呪縛からの解放を予感させますね。

君からの言葉?

ねぇ 笑ってよ もう泣かないで
ここからずっと貴方を見ているわ

出典: ain't afraid to die/作詞:京 作曲:Dir en grey

ここのフレーズだけ、やや違った雰囲気をまとっていることにお気づきでしょうか。

2行目を見ていただければ明らかですが、ここの語り手は明らかに主人公ではありません。

また語尾の表現から考えると、ここは死んでしまった君のセリフだと捉えることができます。

君はきっと、主人公が何年も死を引きずっている様子に胸を痛めていたのでしょう。

しかし先に登場したフレーズ通り主人公が前を向き始めたことを知り、後押ししようとしてくれているのです。

この言葉が主人公に伝わったかはわかりません。

ただいずれにせよ、これらの出来事をきっかけに主人公は前を向き始めました。

現実を客観視できるようになった主人公