宇多田ヒカルの名曲「Beautiful World」
19thシングル
数々の神曲を生み出す宇多田ヒカルさん。
19thシングルの「Beautiful World」もまた、彼女の名曲の一つとして知られています。
「Beautiful World」…つまり「美しい世界」です。
タイトルの響きからしても美しく、また幻想的な雰囲気を思わせます。
曲自体もこのタイトルが持つイメージそのもので、みずみずしくどこか儚さを帯びているのです。
まさにこの曲にこのタイトルあり、といえるくらいピッタリで多くのファンを魅了しています。
この曲のいう「美しい世界」とはどんな世界なのでしょうか。
歌詞からその正体に迫ってみることにしましょう。
映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』主題歌
「Beautiful World」は2007年の映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』のテーマソングです。
「始め」「糸口」を意味する『序』という名前の通り、4部作ある内の第1作目に当たります。
あの名作アニメに宇多田ヒカル、という意外かつ夢みたいな組み合わせが公開当時は話題になりました。
宇多田さんは元々『ヱヴァンゲリヲン』のアニメをたったの3日で全話観てしまうほどハマったのだとか。
そのことに注目したスタッフにより、夢のコラボが実現したという背景があります。
つまり、この曲はタイアップを受けて制作された曲。
半端ない才能をお持ちの宇多田さんが見る『ヱヴァンゲリヲン』が、「Beautiful World」なのです。
彼女の目に、この作品はどのように映っているのでしょうか。
自分を見失った自分
人は、意外と自分のことが一番よく分からなくなる生き物です。
そして「Beautiful World」の主人公もまた、自分のことがよく分からない人間の一人でした。
ですが自分を見失っても、自分の中に持ち続けているものがあります。
それが「美しい世界」というタイトルにどうかかわってくるのでしょうか。
まだ見ぬ自分の美しさ
It’s only love
もしも願い一つだけ叶うなら
君の側で眠らせて どんな場所でもいいよ
Beautiful world
迷わず君だけを見つめている
Beautiful boy
自分の美しさ まだ知らないの
出典: Beautiful World/作詞:Utada Hikaru 作曲:Utada Hikaru
1行目は直訳すると「それは愛だけ」という抽象的な英文から始まります。
「愛」というのもこの曲の大きなテーマとなっているのかもしれません。
そして2行目からいきなりサビです。
主人公には一緒に夜を過ごしたい、大切な人がいるのですね。
この「君」との関係性はハッキリと明言されていません。
恋人かもしれないし、『ヱヴァンゲリヲン』に合わせるなら家族とも考えられそうです。
一見この願いは簡単に叶えられそうに思えて、そうではないのでしょう。
2行目を見ると、「君と一緒に眠ること」がどれだけ難しいかが分かります。
何故なら、一度しか叶わない願いをこれに使ってしまうからです。
つまり、今の主人公にはこの願いを叶えることがほぼ不可能な状況なのでしょう。
「君」がもう亡くなってしまってこの世にいないとか、行方が分からないとか、遠くへ行ってしまったとか。
もう手に届かないからこそ、主人公はこの願いを抱くのです。
その上で大切なのは「一緒に眠ること」であり、場所はこだわりません。
「どこでもいい」という言葉がまた、「君」への想いの強さを物語っています。
主人公は、ただただ相手のことをまっすぐ想っているのです。
ですが他人への想いとは裏腹に、自分のことはうまく把握できていません。
5行目に「美しい男の子」とありますが、これは誰のことをいっているのでしょうか。
主人公だとしたら、客観的に見た主人公は美しく、魅力にあふれた少年といえるかもしれません。
しかし彼自身は6行目が示すように、自分で自分の魅力を自覚できていないことになります。
「美しさが分からない」ということはすなわち、「価値が分からない」といい換えることができるでしょう。
主人公は今の時点で、「自分の価値」を分かっていません。
まだ己の価値を見いだすには、主人公は幼過ぎるのでしょうね。
現実逃避
寝ても覚めても少年マンガ
夢見てばっか 自分が好きじゃないの
出典: Beautiful World/作詞:Utada Hikaru 作曲:Utada Hikaru
主人公はひたすら漫画を読んでいるようです。
しかも夢の中でまで漫画を読み続けているのは相当といえます。
こんなに読みまくっているのは、単に漫画が大好きだからというわけではありません。
主人公はフィクションに夢中になることで、現実から目をそらしているのです。
一方でそうやって見ないふりをし続ける自分のこともまた、好きになれないでいます。
内心「こんなんじゃダメだ」と分かっているのでしょう。
ですが直視するにしても、あまりに現実は辛かったのです。
ジレンマに陥っていますね。