「ライク・ア・プレイヤー」と愛の闘争
1989年2月28日発表、マドンナのシングル曲「ライク・ア・プレイヤー」。
このときマドンナはペプシとスポンサー契約を結びます。
契約金は500万ドルともいわれている巨額な契約です。
ペプシはマドンナの「ライク・ア・プレイヤー」を元に2分半のCM映像を制作・放送させます。
しかしこの映像がアメリカ合衆国内で大変な物議を醸しました。
キリスト教の重要なシンボルをモチーフに用いたのですが、それがむしろ神への冒涜として糾弾されます。
カソリック教会や宗教団体からの指弾が続き、ペプシは謝罪してマドンナとの契約を破断にしました。
しかしそれでも契約金の500万ドルはそのままマドンナのもとに残ります。
「ライク・ア・プレイヤー」の歌詞は人生で高みを目指すことがテーマになっているのです。
その高みとは文字通りに高潔な意識を持つこと。
この解釈とともに大人の愛の中で高みを目指すことのふたつの意味が重なっています。
そうした曲でキリスト教のアイテムを用いた映像でしたから教会から抗議の声が上がるのは当然でしょう。
それでも人生を楽しむためにはどうしたらよいかをこの曲で表現しきったマドンナ。
既成の価値観への挑発や挑戦なくして新しい表現は生まれ得なかったのです。
この曲「ライク・ア・プレイヤー」の歌詞を和訳しながら解説いたします。
それでは実際の歌詞をご覧いただきましょう。
人生のミステリーに挑む
Life is a mystery
Everyone must stand alone
I hear you call my name
And it feels like home
出典: ライク・ア・プレイヤー/作詞:Madonna Patrick Leonard 作曲:Madonna Patrick Leonard
「人生はミステリー
誰もがひとりでやってゆかないといけない
あなたが私の名前を呼んでいるのが聴こえる
そしてそのことを家でくつろいでいるように穏やかに感じる」
歌い出しの歌詞です。
人は一人前になって孤独にも耐えてゆかないといけない。
しかしそれでも誰かに求められるととても気分がいいものです。
そうした矛盾した様子をマドンナは人生のミステリーだと捉えます。
孤独を好む人でも誰かと繋がっていないと社会生活を営めません。
親元から独立して一人で暮らしてゆくことが社会の既定路線です。
しかしそうした生活の中で多くの人はパートナーを見つけて家庭を築きます。
こうした傾向が連綿と続いているのが人類の歴史でしょう。
誰が決めたものでもないのですが、どの時代にもこうした伝統が生きています。
人間の本能に根ざすものなのか社会規範があるからこそなのか。
いずれにしても人は独立してゆく過程でパートナーを求めます。
当たり前のことのように続いている文化も突き詰めて考えると不思議なものなのです。
この歌こそ「祈り」
「there」の正体
When you call my name
It's like a little prayer
I'm down on my knees
I want to take you there
出典: ライク・ア・プレイヤー/作詞:Madonna Patrick Leonard 作曲:Madonna Patrick Leonard
「あなたが私の名前を呼ぶとき
それはささやかな祈りのよう
私は膝をついて
あなたをそこへ連れ去りたいの」
「a prayer」には「祈る人」と「祈り」のふたつの意味があります。
意味によって発音が違い「祈る人」は「プレイヤー」で、「祈り」は「プレヤ」です。
ここでの「a prayer」は「祈り」になります。
つまり邦題の「ライク・ア・プレイヤー」は誤りですのでお気をつけください。
語り手の私はおそらくマドンナ自身を投影しているはず。
一方であなたの方は特にモデルはいません。
「ライク・ア・プレイヤー」は熱烈なラブソングですからリスナーが思い思いの人を当ててみるのが筋です。
マドンナの相手に自分が成り代わってみる。
そんな楽しみ方もできます。
ただ、この楽曲発表当時は男性ファンに支えられていたマドンナも今では女性ファンの方が多いでしょう。
記事を読んでいただいている若いリスナーもマドンナをカッコいい同性のシンボルとして愛しているはず。
時代の移り変わりの中で生き残ってゆくとファン層も入れ変わるのでしょう。
私が連れ去りたい場所の解釈はリスナーに委ねられます。
人生の高みと大人の愛の中での高み。
二重に張り巡らされた言葉が「there」の正体です。
保守的な観念への挑発
In the midnight hour
I can feel your power
Just like a prayer
You know I'll take you there
出典: ライク・ア・プレイヤー/作詞:Madonna Patrick Leonard 作曲:Madonna Patrick Leonard
「真夜中のときの中へ
私はあなたのパワーを感じることができる
まるで祈りであるかのように
私はあなたをそこへ連れ去りたいの、分かるでしょ」
今は真夜中という設定です。
愛の営みが神秘的な意味にまで高められています。
「ライク・ア・プレイヤー」のこうした歌詞の内容に保守的なカソリック教会が反発しました。
特にCM映像ではこの歌詞が可視化されて表現されます。
教会の中で恍惚の表情を浮かべるマドンナの姿にアメリカ合衆国の宗教界がざわつきました。
マドンナはこうして物議を醸すことで時代を変えていったアーティストです。
彼女の愛の伝道師・闘士のようなスタイルこそが尊敬を集めています。
しかし彼女が登場してしばらくした時期の曲でもあったので保守的な人々は眉をしかめました。
今はカソリック教会にも柔軟な考えの人々が増えています。
これくらいの表現はむしろ穏やかなものと感じる人もいておかしくないです。
しかし相手の男性から感じるパワーなどの表現と祈りの共存は1989年ではショッキングでした。
祈りを歌いながらも女性から男性を誘惑する歌詞ですから時代を先取りしています。
肉食系女子という言葉がかけらもなかった時代にマドンナはこうしたスタイルを貫き通しました。
マドンナは偉大なる元祖・肉食系女子であり、女性の精神的・肉体的解放のために闘った勇敢なひとです。
運命の人の声
やっと本編が始まります。
ようやく1番の歌詞になりますので紐解いてゆきましょう。