「マテリアル・ガール」の世界デビュー

とにもかくにも新しい女性像の登場

マドンナ【マテリアル・ガール】歌詞を和訳して解説!ある意味憧れる女性!?「マテリアル」の意味って?の画像

1984年11月30日発表、マドンナの通算7作目のシングル曲「マテリアル・ガール」。

世界的な大ヒットになったセカンド・アルバムの「Like a Virgin」の冒頭を飾る楽曲でもあります。

代表曲が集中する初期のマドンナの作品の中でも屈指の名曲でしょう。

ただし「マテリアル」という日本人にはあまり馴染みのない単語の解釈が難しいかもしれません。

このワード「マテリアル」の様々な意味が色とりどりに用いられた歌詞和訳して解説します。

マドンナ旋風が吹きすさぶ中、世界中で大ヒットしたこの曲。

彼女自身は「私はマテリアル・ガールではないの」とも語っているので歌詞の真相に迫ります。

自身の欲望に素直な女性像を歌い上げたダンス・ポップスの名曲です。

リスナーとして感じた新時代の予感に湧き上がった興奮のようなものを率直に伝えられたら嬉しいです。

それでは実際の歌詞を見ていきましょう。

めちゃくちゃモテる女の子

「上から目線」で斬りまくる

マドンナ【マテリアル・ガール】歌詞を和訳して解説!ある意味憧れる女性!?「マテリアル」の意味って?の画像

Some boys kiss me, some boys hug me
I think they're o.k.
If they don't give me proper credit
I just walk away

出典: マテリアル・ガール/作詞:Peter Brown Robert Rans 作曲: Peter Brown Robert Rans

歌い出しです。

主人公はめちゃくちゃモテる女の子だと分かるはず。

歌詞を和訳いたしましょう。

「キスしてくる男の子たちもいれば ハグしてくる男の子たちもいるけれど

そんな子たちはまあまあOKだと私は思う

でもその子たちが私のことをなめてかかったら

私はその場を立ち去るわ」

キスやハグが普通なアメリカ社会は日本の感覚では理解しづらいでしょう。

今の日本でこんなことをしようものならセクシュアル・ハラスメントと捉えられます。

主人公の女の子はとにかくモテるのですが、そのためにプライドも非常に高い人物です。

「o.k.」という言葉は和製英語とは少しニュアンスが違って「まあまあね」くらいの意味になります。

歌詞に何となく漂う雰囲気は絶えず「上から目線」の女の子の姿なのです。

容姿端麗なマドンナでないと歌えなかったポップ・ソングでしょう。

自己評価が非常に高い少女なので見くびられると途端に苛立つようです。

自己主張できなかった1980年代の日本社会の女性たちにとっては眩しい存在に思えたのでしょう。

マドンナ自身は「私はこんな女の子ではない」と思っていたでしょうが。

しかしこの歌で彼女のパブリック・イメージが決してしまった側面もあります。

こうした誤解はポップ・スターの宿命的な悲劇なのかもしれません。

1984年という奇妙な時代

日本はバブル経済前夜

マドンナ【マテリアル・ガール】歌詞を和訳して解説!ある意味憧れる女性!?「マテリアル」の意味って?の画像

They can beg and they can plead
But they can't see the light(that's right…)
'Cause the boy with the cold hard cash
Is always Mister Right

出典: マテリアル・ガール/作詞:Peter Brown Robert Rans 作曲: Peter Brown Robert Rans

こんな女性ですから色々と口説かれます。

「男の子たちはせがんだり 嘆願したりして私を口説く

でもそうね あの子たちは本質が見えてないわ

なぜって現金を持っている男の子だけが

いつだって正義の男よ」

言葉足らずで分かりにくい点は補って意訳しました。

この女の子の精神的に未熟な側面が奇しくも垣間見える箇所です。

男の子たちが明かりに群がる昆虫のように寄ってきて大変なよう。

彼らは様々な愛の言葉を投げかけて女の子を口説くのですが、彼女は分かっていないなあと溜息をつくのです。

男の価値は現金をいくら持っているかよと女の子ははっきりいいます。

それもひとつの価値観ですが、精神的に未熟な女の子の夢想ともいえるでしょう。

社会に出るとこうした価値観は夢物語として脆く崩れます。

特に今の日本社会でこうしたことを言明するのは炎上すること間違いないです。

しかし時代は1984年

アメリカ経済もレーガノミクスで好調でしたが、日本社会は後のバブル経済期に向けてイケイケだった時期。

日本の女性たちもマドンナの歌とこの歌詞に率直さを見出して、新しい時代の女性像として歓迎します。

この時期の日本人の経済観念はタガの外れたものでした。

しかし「失われた30年」で萎縮してしまった意識よりは健康的であったのかもしれません。

資本主義社会が金銭欲を否定してしまったならば、その社会は後退するしかありませんから。

制作作家陣はこうした考えが正しい、あるいは正義だとしてこの曲を書いたわけではないです。

どこかこうした女の子の価値観の皮相さを表現したかったのでしょう。

また繰り返しになりますがマドンナ自身も「マテリアル・ガール」だと思われることを拒否します。

様々な読み方ができたはずですが、経済がイケイケのときは享楽的な側面が受けるものでしょう。

またマドンナ自身がゴージャスな服装に身を包んでも絵になった女性であったことが誤解を生みました。

マドンナのパブリック・イメージをこの曲の歌詞に見出す人が大勢だった。

その後、シリアスな社会問題に切り込むアーティストになったので、こうしたイメージも少しずつ溶解します。

時代は変わるものです。

「マテリアル」をどう訳す

物欲にまみれた世界の有り様

マドンナ【マテリアル・ガール】歌詞を和訳して解説!ある意味憧れる女性!?「マテリアル」の意味って?の画像

'Cause we're living in a material world
And I am a material girl
You know that we are living in a material world
And I am a material girl Au…

出典: マテリアル・ガール/作詞:Peter Brown Robert Rans 作曲: Peter Brown Robert Rans

有名なサビです。

タイトル回収がなされます。

「なぜなら私たちは物欲が渦巻く世界に生きているから

それに私は物欲の塊みたいな女の子よ

私たちは物欲が渦巻く世界で生活しているってあなたも知っているわ

そして私は物欲が大好きな女の子なの」

material=マテリアル」の解釈が中々難しいかもしれません。

物質中心主義の世界」というのが直訳になるでしょう。

しかしそれでは意味が通じない側面もあります。

「material=マテリアル」の意義から「物欲」という訳を採用しました。

自然界としての物質的世界という意味もありますが、資本主義社会の現状である物欲至上主義と解釈します。

私たちが暮らすのはこうした物欲などの欲望が社会の進歩さえも呼び込む世界です。

自由、平等、博愛、そんな精神こそが進歩の原動力と思われた時代は遠くに置かれます。

率直にいって欲望こそが社会を支配する第一義的な原理です。

マドンナの「マテリアル・ガール」はそうした社会の在り方に対して皮肉を交えた戯画を描きました。

女の子の男性に対して望む価値観にまで世俗的な欲望が染み付いていること。

それは本当に正しいことなのか。

「マテリアル・ガール」には一切の批判的な文言が書かれていません。

しかし制作作家陣はドラマに昇華してこうした異常な側面を描いたのです。

ただしいくら皮肉を伝えてもこうした社会の在り方を止めることまではできません。

あなたも知っているわよねという言い方で女の子が物欲にまみれた世界の在り方を語ります。

本当にこうした女の子がいることも何ら不思議がないというグロテスクな真実

「マテリアル・ガール」の描写は露悪的になる一歩手前でキャンディの包みの中に詰め込まれるのです。

本当によくできた歌でしょう。

歌詞に滲む皮肉は届いたのか