LUCKY TAPESの不思議な楽曲「Actor」
LUCKY TAPESの「Actor」がまったくの新曲として披露された場所は「FUJI ROCK FESTIVAL'19」でした。
フェスの聖地フジロックに立つとなると、手練れのアーティストでも入念な準備を怠らないはず。
ライブで演り慣れた楽曲のほうが、演奏する側もオーディエンスも盛り上がりやすいのではないでしょうか。
それにもかかわらず大舞台でいきなりぶっつけ本番というのは肝が据わっているのか、はたまた無頓着なのか。
どうやらこの楽曲を作詞作曲した高橋海さんは、自らを追い込むことによって生み出す作戦に出たようです。
大胆なのか、繊細なのか、それとも両方を併せ持っているのかもよくわからない不思議な印象を受けます。
何とも形容しがたい雰囲気が、楽曲そのものにも漂っているわけです。
お芝居なのか、素顔なのか。
歌詞の言葉を丁寧に見てみましょう。
「Actor」オフィシャルライナーノーツ
1番の歌詞をチェック
嘘くさい現実
綺麗なことばっか言ってないでさ
期待外れの仮想現実
鈍感なフリして
喜べやしないけど
Everything is gonna be alright
上手くやる必要もない
辿り着く確信もないけど
このままじゃ人生足りないよ
出典: Actor/作詞:Kai Takahashi 作曲:Kai Takahashi
歌物語の主人公は高橋海さん自身。
彼の内面が綴られています。
冒頭の歌詞で注目したいのはバーチャルリアリティという言葉です。
ただし、VRゴーグルやVRヘッドセットを装着すると見える「現実ではない別世界」の話ではありません。
むしろ現実そのもの、ありきたりな日常生活において、本音ではなく建前ばかりを振りかざす人が多いという話。
偽物のような現実というわけですね。
こうした嘘くさい世の中を、すばらしいと絶賛することはできません。
それでもすべては大丈夫と思ってみたり、完璧を目指さなければいいと考えたり、あれこれ迷っている様子です。
いずれにしても夢や目標があり、実現する為には目の前の現実や自分自身に物足りなさを感じているということ。
世の中を斜めに見ているようでもあり、まるっきり失望しているわけでもなさそうです。
矛盾するような考え方を、独特のブレンド具合で併せ持つところが高橋海さんらしいのではないでしょうか。
主役は自分自身
時間を戻せたらなんて言うなよ
気付けば年に追い越されて
エンディングまでどのくらい?
大人になれないなあ
あれから数えてどこまで来たの
しょうもない
愚痴を吐くのはやめて
悪ぶってみたり
それ違うだろう
出典: Actor/作詞:Kai Takahashi 作曲:Kai Takahashi
アクターつまり俳優というタイトルですが、こちらも実際の職業のことではありません。
誰もがそれぞれの人生劇場の主役。
つまり舞台は現実そのものです。
動画や映像作品のように、自由に巻き戻したり早送りしたりできないのがリアルな人間のサガです。
病気などで余命宣告されることがあったとしても、前もって息を引き取る日を正確に知ることはできません。
そして、いくつになっても子どもっぽいと感じることはあります。
こうしたことをつらつらと主人公の高橋海さんは考えているわけですね。
確かに、答えのない話を頭の中でぐるぐる巡らせる状態は、どうしようもないかもしれません。
だからといって反骨精神をむき出しにするのは自分らしくないと考えていることがわかります。
そもそも建前ばかりの世の中は不満という本音が吐露されていました。
その為、このあたりは高橋海さんの素直な気持ちと解釈できます。
どんな現実を演じる?
自分の現実を客観視
You're still in two minds?
まだそんなところで喚いてるの
これじゃ足りない
あれじゃ足りないってさ
出典: Actor/作詞:Kai Takahashi 作曲:Kai Takahashi
これまでは主人公つまり高橋海さんの考えていることがストレートに表現されていました。
ところがここでは一気に自分を客観視する目線に切り替わっています。
まるで舞台に立つ自分、あるいはスクリーンに映る自分に向かって、客席から声をかけるような構図です。
矛盾することをああでもない、こうでもないと考えていたのは、自分らしい自分という演技だったのでしょうか。
2つの心を併せ持って揺れ動く自分。
その嘘偽りない現実を演じたうえで、自分に物申すという複雑な構造になってきました。