時代が描かれた「years」の暗喩だらけの歌詞を深掘りしましょう。
薄い布になる
僕たちは薄い布だ
折り目のないただの布だ
影は染まらず通りすぎて行き
悲しみも濡れるだけで
すぐ乾くんだ
出典: years/作詞:山口一郎 作曲:山口一郎
私たち人間は布ではありません。しかし冒頭から布だと断言されます。
ロックとダンスミュージックと文学の融合を意図する山口一郎さんならではの暗喩(メタファー)ですね。
いきなり「僕たち」は「薄い布」や「折り目のないただの布」のようなものであると例えられたわけです。
「どのようなイメージを膨らませたいのか?」はまだわかりませんが、ひとまず「布」になってみましょう。
確かに「布」になってみると「影」が落ちても色に染まることはなく、濡れてもすぐに乾きます。
人間や都市は「影」に染まったり、「悲しみ」に濡れてなかなか乾かなかったりすることもあるわけですが。
歌詞という文学には音楽を伴いながらイメージを膨らませる過程を楽しむ側面があります。
1つの正しい解釈があるとも限りません。
なぜ「僕たち」はいきなり「薄い布」や「折り目のないただの布」になったのか?
「影」や「悲しみ」とは「あのこと」を意味するのか?
このあたりはまだ答えを出さずに進めましょう。
声にならなかった悲鳴?
years years
この先に待ち受けてる時代の泥が
years years
僕らを染めてしまうかは
わからないけど
変わらないこと
ひとつはあるはずさ
出典: years/作詞:山口一郎 作曲:山口一郎
リリース時期やタイトル、歌詞、時代背景など知らずに「years」を耳にしたら「嫌~~~」と聴こえるかも。
英語の歌詞が日本語に聞こえる「空耳」ですね。
山口一郎さんは「上行く→wake」など日本語の歌詞が英語に聞こえる「逆空耳」を使いがち。
ですので「嫌~~~」もあるいは意図的な可能性を捨てきれません。
あの時代に実際には声にならなかった悲鳴ではないか?というのが私の個人的な深読みです。
「時代の泥」とは「あのこと」を指しているのだろうな、という深読みもあります。
ただこの泥は泥のままにしておきましょう。文学的に。着目したいのは「変わらないこと」。
こちらは曲の最後でも繰り返される重要ポイントですので、その時に。
思い出したい君と変わらないこと
続いて2番の歌詞です。
薄い布で帆を立てる
僕たちは薄い布を
繋ぎ合わせて帆を立てた
風が吹くのを見逃さないように
乱れた髪さえ
そのままにしてたんだ
出典: years/作詞:山口一郎 作曲:山口一郎
「薄い布」となった「僕たち」はお互いに協力し合い「帆」を立てます。
船の帆は風を受けて進むもの。あの時代に「風が吹く」ことは何を意味していたか、思い出しましたか?
確かに「乱れた髪」を整える余裕もありませんでしたよね。
「帆」も「吹く風」も「乱れた髪」も「布」のように暗喩でしょう。
思い出したい君がいる
years years
この先に待ち受けてる
時代のハサミは
years years
多分この帆を切り刻み
バラバラにするけど
years years
また繋ぎ合わせるから
そのときには
years years
君のことを思い出しても
許してくれるかい?
出典: years/作詞:山口一郎 作曲:山口一郎
暗喩だらけでご想像におまかせ!というのも何ですので。
東日本大震災が起き、私たちは圧倒的な不安に陥りました。
手に手を取って助け合ってもどうにもならないかもしれない。
それでも前を向いて進む。そんな決意の歌に聞こえます。
その時に思い出したい「君」がいるのです。この「君」とはいったい誰なのでしょうか?
それでも変わらないこと
僕の中の変わらないこと
僕の中で変わらないこと
多分これが
変わらないことのひとつ years
出典: years/作詞:山口一郎 作曲:山口一郎
布は「影」に染まりませんがしなやかに形を変えます。時代も刻々と移り変わります。
それでも「変わらないこと」があるという結末。
数々の暗喩は時代をヒントにするとイメージがつかめるでしょう。
具体的な言葉に置き換えるのは控えたほうが文学的……という程度に留めておきます。
残ったのは「君」と「変わらないこと」。この2つについてさらに深読みしていきます。