かき分ける人の波
かき分けられながらただ進む
手刀で切り込みを入れたら
slide away
押しよせる人の「並」
放置しながら我が道を行く
ちゃちなギャングみたいに
ふかしたら slide away
出典: ブラザーズ/作詞:藤原聡 作曲:藤原聡
冒頭のフレーズに続くこのパートで伝えたい内容は「ヒゲダン流の道を行く」、これに尽きるでしょう。
彼らには音楽に対するこだわりなど、言いたいことは山ほどあるはずです。
ただむき出しに感情を吐露して何かを批判したいわけではないのでしょう。
思うところはあっても、結局はやりたいスタイルで音楽を作るだけ。それがヒゲダン流です。
「否定しているみたいなのに、かわいいと見せかける」というフレーズで切り込んだので、あとはお楽しみ。
これが「手刀で~」「ふかしたら~」という言葉を中心とした解釈です。
否定的な歌詞さえ、ヒップホップの音楽的な様式美に則っただけ。
本気で何かに対して文句を言いたいわけではないことが伝わるのは「放置」という言葉です。
どれほどたくさんの人がいてもバトルする気はない。戦う意思はない。そんな話でしょう。
「波」と「並」で韻を踏んでも得意顔はせず、さらっと流す雰囲気です。
とはいえ、ヒゲダンにも新進気鋭のアーティストとしてのプライドがあるのでしょう。
決して人を傷付けるような歌詞ではありませんが、やはり言葉選びに攻撃的な印象を受けます。
こうするのが当たり前、こんな風に生きないのはおかしい。
こんな風に生き方について誰かに干渉された経験があるのかも知れません。
そのような苛立ちに似た感情を突っぱねるかのように、軽快なリズムに乗った言葉達が我が道を進んでいますね。
【ブラザーズ】が少々難解な歌詞であるのにも理由があるように思えます。
もしかすると「並」の人にはその意味すら理解出来ないだろうという皮肉が込められているのかも知れませんね。
下駄?
あっちもこっちもシュガーレス
ぬいぐるみの出来レース
筋書き通りのサドンデス
しわ寄せからドロンする
真っ青に焼けるタイヤ
底のハゲたグリーンの下駄
吊り橋の上を走りだす
ハイセンスなブラザーズ
出典: ブラザーズ/作詞:藤原聡 作曲:藤原聡
サビです。
ちなみにヒップホップ用語ではラップのサビのことをフックといいます。
「~に焼ける」が「ニヤける」、「下駄」が「Get up」に聴こえるところをニヤニヤしつつ楽しみましょう。
とくに「Get up」(ゲラッ)はブラックミュージックのうちファンクやソウルを連想しやすいかもしれません。
なぜタイヤが青く焼けるのか?などと考えてもあまり意味はないでしょう。
言葉の響き、語感を楽しむ部分です。
あるいは水増しするという意味の慣用句「下駄を履かせる」などをぼんやり連想するのも乙。
もちろん実は否定が続いていて危なっかしいところは吊り橋状態です。
ただ、やはりかわいい言葉やおもしろい言葉が散りばめられているため不快にはなりません。
さすがハイセンスな言葉選びです。
具体的なストーリーとしては「車に乗って吊り橋を渡る」ことで真っ青になって逃げる様子が浮かびます。
歌詞を読み進めていくと先ほどまでは難解で掴み所のなかった歌詞の意味が少しずつ見えてきました。
これまでの歌詞を見る限りでは、世の中の出来レース的な仕組みについて微かに怒っているのを感じます。
皆さんは「夢」と聞いてどのような印象を持つでしょうか?
もし夢を味覚に例えるとするならば、それはきっと「甘い」なのではないかなと思います。
そんな甘い夢の世界を夢見て頑張る若者達の目に映ったのが、大人の汚い部分だったのではないでしょうか。
甘いはずの素敵な世界が、実際に目にして見るとそうではなかった。
つまり「シュガーレス」なのです。
そしてそこで出来レース(生き残り競争)を繰り広げているのはぬいぐるみでした。
なぜぬいぐるみなのでしょうか?
これはおそらく「中身のないもの」の比喩だと考えられます。
外見こそ違えど、その中身を裂いてみればどれも中には綿しか入っていないのです。
結末の決まりきったつまらないレースの存在に気が付いたヒゲダンはこの戦いから身を引いたのでしょうね。
たとえ落ちれば谷底に真っ逆さまな不安定な道であったとしても関係ないのです。
ぬいぐるみと競い合うよりも、ちゃんと中身のある仲間達と歩みを進めたほうが楽しいに決まっているのですから。
実の兄弟の物語だった
色あせた服
流行りの過ぎたサボりの車
粋なザックにDJ任せて
slide away
押しよせる人の「並」
ものともせず今夜も行こうよ
with you with you
出典: ブラザーズ/作詞:藤原聡 作曲:藤原聡
ここの歌詞では「ザックって誰?有名なDJ?」と思った方もいるでしょう。
実は、ギターの小笹大輔さんの実のお兄さんのあだ名がザックだそうです。
この「ブラザーズ」という曲には誕生秘話がありました。
ボーカルの藤原聡さんと小笹さん&お兄さんの3人で温泉に出かけたときの実話がきっかけとなったようです。
この3人でドライブしていたときに、DJのように曲を選んでかけていたのがザックさんだったわけですね。
「ブラザーズ」とは実の兄弟&仲間を意味していたことが判明しました。
さて歌詞の内容についてなのですが、前述したザックや仲間達と一緒にドライブをしているのでしょうか?
けれども彼らの服装や持ち物は流行りのものでも最新のものでもないようですね。
世間に合わせる事も媚びる事もしない。
そんな姿勢からはブームに乗るのではなく「俺たちがブームを作り上げるんだ」という強い意志が感じられます。
流行とは絶えず変化していくものです。
今は歌詞の中の彼らの服装や車が一般的な感覚ではダサいものだったとしても、いつかはそれが流行になるのかも知れません。
この状況は正に下積み時代のヒゲダンと被るところがありそうですね。
彼らは流行りのバンドサウンドを真似するのではなく、独自のセンスを全開にすることによって自ら価値を創造しました。
実話が元となって出来た曲なだけあってリアルな想いや努力を感じる歌詞になっていますね。
あっちもこっちもシュガーレス
ぬいぐるみの出来レース
マニュアル通りのドープネス
全部捨ててドローする
真っ青に焼けるタイヤ
底のハゲたグリーンの下駄
幹線道路を走りだす
しゃかりきなブラザーズ
出典: ブラザーズ/作詞:藤原聡 作曲:藤原聡
目指していたのは雷?
メインストリームへ
このサビの部分でも実は否定が続いていて、やはり危なっかしいです。
そのためヒゲダン流に試合(レース)の勝ち負けを決めず、引き分け(ドロー)としておきましょう。
実際の3人のドライブでは幹線道路、つまり高速道路や国道などの主要な道路を走ったのでしょう。
ただこれもメタファーと思われます。
音楽の方向性として「オルタナティブよりもメインストリームへ向かっていく」と解釈することも可能です。
インディーズのこの曲では、少々過激な歌詞やマニアックな音楽的手法も取り入れられていました。
非常にエッジが効いていて、ハイセンス&難解な部分もあったわけですね。
しかし今後はもっと幅広く受け入れられる、わかりやすい道へ進む。そんなヒゲダン流の宣言かもしれません。
最近の日本に溢れる既存のバンドサウンドに対する挑戦とも取れる歌詞表現が面白いです。
勝ち負けを競っている訳ではないのでしょうが、明らかに自分たちで新しい価値を見出そうとしているのが見受けられます。
これまでの「こうすればカッコいい」とされてきた手法を全て捨て去り、1からやり直す度胸と覚悟。
生半可な気持ちではこんなに強烈な言葉を紡ぎ出す事は出来ません。
今となっては彼らは現在の日本の音楽界を牽引するほどのバンドにまで成長しました。
まだ若くどちらかというと可愛らしいルックスとキャッチーな楽曲が特徴のヒゲダン。
しかし、胸の内に秘めた想いは誰よりも熱いのかも知れませんね。
【ブラザーズ】はまだ彼らが世間に広く知られる前のインディーズ時代の楽曲です。
自分たちがここまで大きく成長すると本人達が予想していたのかどうかは定かではありません。
それでも、歌詞の中で歌われているような大言を実際に実行して見せたという所に感慨深さを覚えます。
果てを目指して音楽を作る
真っ青に焼けるタイヤ
底のハゲたグリーンの下駄
chasing thunder 共に
果てを探そう
出典: ブラザーズ/作詞:藤原聡 作曲:藤原聡
「ニヤける下駄」の部分はこれまでサビの一部として2回登場しました。
あとはサビ全体を盛大に3回繰り返すのみというところまできて、新たなフレーズが登場しています。
それは、訳すと「雷を追いかけて」という意味になる英語の部分です。
実はこの曲の誕生秘話には続きがありました。
3人で温泉に出かけたとき、遠くに落ちる雷に遭遇し、追いかけたそうです。
MVでヒゲダンのメンバーたちがカートを乗り回していたのは、この実話をもとに表現していたわけですね。
そして雷を追いかけた結果、灯台にたどり着き、さらに海の向こうに落ち続ける雷が見えたというのです。
その光景を再現するかのように「ニヤける下駄」+「雷を追いかけて」のフレーズが何度も繰り返されます。
実際の雷も衝撃的だったと思われますが、その驚きをこうして音楽に昇華するヒゲダンこそ雷のような存在。
これからも彼らは海の向こうの果て(海外?)を目指して優れた音楽を作り続けてくれることでしょう。