カナリヤが意味するもの

壊れてしまった日常の中で

転げ落ちて割れた グラスを拾うあなた
その瞳には涙が浮かぶ
何も言わないまま

出典: カナリヤ/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師

割れたグラスは新型コロナウイルスによって一度は壊れてしまった日常の象徴のように感じられます。

それを拾い上げるあなたの姿は、変わってしまった日常を生きる人々の姿そのものかもしれません。

会いたい人と会うこともできない。

やりたかった夢を諦めなくてはならない。

そんな苦しみを背負った人も多くいたでしょう。

一方で激務に追われ、辛い日々に耐える人も多く存在します。

不満や苦労があっても口に出さず、涙を堪えてひたむきに生きようとする

そんな人々へのあたたかい眼差しが見えてきます。

平穏な日々が消えても

カナリヤが消えていく五月の末の 木の葉が響き合う湖畔の隅っこ
あなたを何より支えていたいと 強く 強く 思う

出典: カナリヤ/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師

2020年の5月。

政府から緊急事態宣言が出され、街からは人々の姿が消えました。

ずっと当たり前のように続いていくと思っていた日常。

それがひとつのウイルスの出現により脅かされ変わっていく。

そんな風景を目の当たりにして不安を感じていた人は多かったでしょう。

そんな5月に「消えていく」と表現されたカナリヤ

それはいわば「平穏」を象徴しています。

カナリヤが危険なガスや毒物の検知に使われることを思い出す人も多いのではないでしょうか。

毒物に敏感なカナリヤは少量でも異変をきたしてしまいます。

そのため危険が予知される現場に連れていかれることが多くありました。

安全な場所では美しいさえずりを聞かせてくれるカナリヤ。

それは平穏や幸福を思わせる存在です。

けれどそういった平穏な日々は消え去り、危険や不安が世の中を覆っている。

カナリヤが消えた5月は、そんな不安定な世の中を表現しているのです。

そんな中でも自然は美しいまま確かに存在している。

そしてそんな中だからこそ不安に襲われるあなたを支えていたいという自分の思いに気が付くのです。

わたしがあなたを選んだ理由

「いいよ」に込めた思いとは

いいよ あなただから いいよ
誰も二人のことを見つけないとしても
あなただから いいよ
はためく風の呼ぶ方へ

出典: カナリヤ/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師

繰り返される「いいよ」という言葉。

これは何に対してどんな思いを込めた言葉なのでしょうか。

ここまでの歌詞を振り返ってみましょう。

描かれてきたのは今までの毎日から変わらなくてはならないこと。

あなたがそれに不安を感じていること。

そしてわたしはそれを支えてそばにいたい、そう思っていることが読み取れます。

そこからこの部分を補ってみましょう。

変わっていくとしても、それもすべて「あなただから」いいよ。

苦労したとしても、わたしが選んだ「あなただから」いいよ。

そういった許容の言葉、受け入れる思いがここには込められています。

見つけるという表現からは注目される、活躍するといった意味合いが感じ取れます。

そこから離れるのは夢を諦め、変わらなくてはならないということ。

この状況下でそうした夢を諦めることとなった人も多いかもしれません。

夢を諦め変わってしまった自分を受け入れてくれる人はいないのではないか。

そんな不安を持つ人も多いのではないでしょうか。

けれど全て受け入れる。

「夢を持っているから」「活躍しているから」といった理由ではなく、「あなただから」大切だ。

そう伝えたい思いが描かれています。

多くの人が苦しみ、変わることに悩んだ2020年。

だからこそ、あなたがあなたであるということが大切だと伝えたい。

あなたが生きていてくれることを大事にしたい。

そんな全てありのままに肯定する思い。

それが込められているのが「いいよ」という言葉なのです。

わたしがあなたを選んだのは夢や地位といった変わってしまうもののためではない。

あなたがあなた自身だからあなたを選んだ。

変わっても悩んでも共にいたいからこそわたしはあなたを選んだのです。

変わっていく日々をあなたと共に

あなたも わたしも 変わってしまうでしょう
時には諍い 傷つけ合うでしょう
見失うそのたびに恋をして
確かめ合いたい

出典: カナリヤ/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師

たびたび触れている通り2020年は多くの人が変化を強いられた一年でした。

けれどそれに限らず人は生きていく限り同じままではいられません。

年を重ね人生の節目を越える度、誰もが少しずつ変化していきます。

どんなに仲睦まじかった恋人も、年を重ねる度に少しずつ愛情の示し方が変わってくることもあるでしょう。

人生の岐路に立ち悩む度に相手の嫌なところに気付き、言い争ったり傷つけあうこともあります。

けれど「変わらないままがいい」と歌うのではなく。

変わってしまったなら、そのたびに再び見つめ合い、新しいあなたに恋をしていこう

変化を受け入れ、その変化もすべて共に愛していこう。

そんな深い愛情がこの一曲からはあふれています。

最後に何も残らなくても