楽曲について
花譜の楽曲『過去を喰らう』。
疾走感あるロックサウンドに乗せられた、自身の過去と今を憂う歌詞が魅力的です。
2019年6月5日にYouTubeで公開され、公開から僅か1年で再生回数は770万回を突破。
コンポーザーであるカンザキイオリは、青年期の煩悩をリアルかつ巧みに表現します。
今回の楽曲も、花譜の今にも崩れそうな弱さと強さを内包した儚い歌声とマッチしています。
自分自身に問いかけて、1つ1つを詳らかにしていく歌詞。
そこに込められた想いを紐解いていきます。
募る不満
沈み切った自己愛
愛した理由も忘れちゃって 過食気味の胸で泣いちゃって
肌の色すら 見えなくなっている
自分だけ傷づいたつもりで 悪いのは誰かだと思って
足が抜け落ちたのも 気づかない
出典: 過去を喰らう/作詞:カンザキイオリ 作曲:カンザキイオリ
地の果てまで続く自己嫌悪と自己否定を描いた歌詞。
ここで呼吸をしているのは、心臓が動いているのは何故なのだろうという問いさえ生まれるのです。
自分を責める行為が続いた結果、いつでもネガティブ感情が心に憑りついている状況。
不幸の海に溺れている自分に快感すら覚える、自己憐憫に陥っているとも考えられます。
「私だけが誰よりも辛くて、痛くて、それは誰かのせいなのだ」という思考。
一体、何がそうさせているのか、それはタイトルにもある「過去」ではないでしょうか。
歌詞1行目からは、以前は自己愛に満たされていた時期があったことが読み取れます。
末尾にある「気づかない」という言葉にも注目。
実際は、自分がボロボロであることも心が悲鳴をあげていることも知っていたのではないでしょうか。
自分では見てみぬふりをして気づかないようにしていたのではないかと解釈出来ます。
全ては自分のせい
夢や希望はなんだった? やりたいことはこれだった?
過去が僕らを待っている 貪欲な顔で待っている
侘しさも 悲しみもなければ
夜が死ぬたび 歌なんて歌わなかった
出典: 過去を喰らう/作詞:カンザキイオリ 作曲:カンザキイオリ
何1つでさえ、自分の描いたようにはならなかった現状を憂いています。
そんな状況に囁きかけてくるように迫るのはあの日の過去たちなのです。
諦念した日、立ち上がれないほどに痛みつけられた日、希死念慮を抱いた日の数々。
自分の過去に今の自分が苦しめられている状態といえます。
何も成し遂げられなかった夜に憂うばかり。
歌詞の4行目にある「夜~」というフレーズにも注目です。
「過ぎ去った」などではなく、「死ぬ」と表現されている点。
それほどに、絶望的で何も得られなかったのだと読み取ることが出来ます。
それは誰のせいでもなく、紛いも無い自分自身の行動によるものだからこそ、虚無感は計り知れません。
この楽曲が出来た背景も、どこにも吐き出せなかった飽和した想いの表れなのでしょう。
もう戻れない
過去が邪魔をする
あなたの笑顔がここにあるなら 諦めなんてしなかったんだ
あなたの言葉を思い出すから 慰めなんていらなかった
生きる意味ばかり思い出すから 優しさを常に疑った
あなたの涙を見て笑えたら 今更恥など知らなかった
出典: 過去を喰らう/作詞:カンザキイオリ 作曲:カンザキイオリ
ここの歌詞で表現されている「あなた」とは過去の自分自身のことを指しているのではないでしょうか。
全てが思い通りにいかなかったからこそ、今も諦めきれず憂いながら生き続けている自分。
目に映るものの全てを懐疑的に捉えるようになってしまったのです。
過去には2度と戻ることは出来ないからこそ、胸に蔓延る想いも増幅し続けます。
あの日の自分を悔やみ続けた結果、今の主人公の心情にあるのは、虚無感と鬱憤。
ずっと変わりたいと思ってきたけれど、何1つも変えられなかった自分に憤りを感じずにはいられないのです。
そうしてまた溜まった想いを吐き出すだけの自分。
一体、何が「正解」で「不正解」なのか分からないと訴えかけているようにも感じ取れます。
憂いで飽和した春
ウグイスが鳴いて 破り捨てた卒業証書が
夜空になって舞ってった 過去を喰らい尽くした
出典: 過去を喰らう/作詞:カンザキイオリ 作曲:カンザキイオリ